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131. 復讐

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 ここは、南の大陸、『漆黒の森』から見て北側に位置する、エーバル城塞都市の冒険者ギルド。

「『鉄血の乙女』さん! 冒険者ギルド本部から、手紙が来てますよ!」

 女騎士アナ·アナシア率いる『鉄血の乙女』が、エーバル冒険者ギルドに、世界樹のフルーツをサンアリコーポレーションに納める為に赴くと、受付けのお姉さんに声をかけられた。

「ありがとう!」
 アナ·アナシアは笑顔で、受付けのお姉さんから手紙を受け取る。

「アナの嬢ちゃん! コッチだ!」
 アナ·アナシアが、手紙を受け取ると、ギルド『猫の尻尾』のバルトが声をかけてきた。

 バルトは、アナ·アナシアが、エーバル冒険者ギルドに転がり込んでから、何かと世話を焼いてくれる、凄腕冒険者のオッサンである。

 アナとアナの仲間の土着の悪魔のエーサクとビー子、それから女郎蜘蛛の魔物のクモは、バルトとセンコー·サンアリが座っているテーブルに、腰を下ろす

「その手紙は、冒険者ギルド会議の招待状が入った手紙じゃな」
 と、世界樹のフルーツをサンアリコーポレーションに収める為の仲介役を務めてくれているセンコー·サンアリが、アナ達に話し掛けてきた。

 見た目だけは若く見える、ダークエルフの女性のセンコー·サンアリも、バルトさんと同じく『猫の尻尾』のメンバーで、
 何と、『漆黒の森』の女王ガブリエル·ツェペシュの遠い親戚筋であるらしい。
 それから母親は、モフウフ冒険者ギルドのギルド長をしており、母親の兄は、『漆黒の森』の宰相で、尚且つ、超大企業であるサンアリコーポレーションの社長でもあるのだ。

「ちょっと緊張しますね」
 と、言いながら、アナは緊張の面持ちで、冒険者ギルド本部から届いた手紙を開封する。

 アナが手紙を広げると、センコーさんが言う通り、冒険者ギルド本部の招待状が入っており、招待状には開催日時が書かれてあった。

「センコーさん! 3日後と書いてあります!」

 アナは、その有り得ない日時に仰天する。

「な……何だって! 3日後だって?!
 グリフォン乗りを雇ったて、その日時に到着できやしないじゃないかい!」

 何故か、当事者で無いセンコーさんの方が、慌てふためいている。

「あんた達、ちょっと待っておいで!」
 センコーさんは、そう言うと、慌てて自分の影の中に消えていった。
 センコーさんは、母親がゴトウ族なので、生まれた時からゴトウ族が使う【影渡り】スキルを使えるのだ。

 多分、叔父である、サンアリコーポレーションの社長であるナンコー·サンアリさんに、相談しに行ったのであろう。

 暫くすると、アナの仲間の土着の悪魔エーサクの影からセンコーさんが帰って来た。

 エーサクは、ゴトウ族でないのだが、センコーさんに昔、【調教】された過去を持つ。
 それ以来、元々【影渡り】のスキルを持っていたエイサクは、センコーさんに、勝手に影を使われるようになっているのだ。

「ナンコー叔父さんから、『ミノ一番』にある【聖級移転】を使う許可を取ってきたよ!」

 センコーさんは、やはり、サンアリさんと交渉してきてくれたようだ。

「『ミノ一番』って、モフウフの『ミノ一番』ですか?」
 と、アナが質問する。

「そうさね……エーバルからだと、『漆黒の森』北部にあるヨシハル城塞都市の『ミノ一番』が一番近いから、そこの店長に私から話を通しておくよ!」

 センコーさんは、滅茶苦茶頼りになる。
『漆黒の森』の偉い様の関係者なので、コネが半端ない。

 これで、ムササビで行われる冒険者ギルド会議に余裕をもって到着する事ができる。

 その後、センコーさんに世界樹のフルーツを渡し、エーバルでの用事を済ませたアナ達『鉄血の乙女』は、アジトである世界樹のダンジョンに戻った。

「おかえりなさいませ!」

 アナ達が世界樹のダンジョン最下層に戻ると、世界樹のドライアドであるアドが、階段フロアーの入口まで迎えに来てくれていた。

「メリル師匠は、お戻りになってる?」と、アナがアドに尋ねる。

「戻っておいでです」と、アドが答える。

「それでは昼食も兼ねて、冒険者ギルド会議について、メリル師匠と打ち合わせをしましょうか」
 と、アナは話し、メリルがいる世界樹の森の中央にある、タージ・マハルによく似た白亜の城に向かった。

 アナ·アナシアは半年前に、メリルが世界樹のダンジョンに突然現れてからずっと、メリルに師事して剣術を習っている。

 メリルは、400年前に死んだ、大魔王ゴトウ·サイトに仕えていたというデーモンメイドだという。

 話によると、メリルが探しているという異界の悪魔アスタロスと、アナが生涯仕えるに足る主君と決めた、土着の悪魔エーサクを間違えて、世界樹のダンジョンに来たらしい。

 そして、色々あって、アナ達『鉄血の乙女』は、メリルと一緒に、異界の悪魔アスタロスを探すお手伝いをする事になったのだ。

 そしてメリルと一緒に、有り得ない早さで異界の悪魔アスタロスを探す為にダンジョンを攻略していたら、あれよあれよの内に、冒険者ギルドランキング10以内に入りを狙える圏内に入った。

 そこから、アナ·アナシアの顔付きが変わった。

 アナ·アナシアの家は、神聖フレシア王国の騎士の家柄であった。
 そして父は、栄えある神聖フレシア王国の騎士団長にして、ギルド『フレシア』の副団長をしていた。

 そんな父が、アナ·アナシアの自慢であった。

 その自慢の父が有る日、『フレシア』のメンバーを選出する為の、神聖フレシア王国主催の闘技大会に、模範試合のような形で一回戦に参加する事になった。

 相手は、公平にクジで決められた。
 目つきの鋭い黒髪の三白眼の若者だった。

 誰もが当時 剣王だった、アナの父親、アナル·アナシアの勝利を疑わない。

 アナの父親は、完勝する筈だったのだ。

 しかしアナの父は、まだ無名だったビクトル·クロムウェルに、完膚なきまでに敗れた。

 それからの父は、絵に書いたような転落人生に陥ってしまう。
 酒に溺れ、ギャンブルにハマり借金を残して死んでしまった。
 挙句に母も過労からか、父を追うようにして数ヶ月後に亡くなってしまい、アナは天涯孤独になってしまった。

 そしてアナは、父の借金を返す為に、学校を辞めて冒険者になった。
 冒険者の成り立ての頃は、父が落ちぶれる原因になったビクトル·クロムウェルを憎んだ。
 そして、必ず自分が父の敵であるビクトル·クロムウェルを倒すと誓った。

 しかし、冒険者を経験していく内に、自分の実力が分かっていく。
 自分の実力では、剣神ビクトル·クロムウェルには敵わない。

 そんな時に、土着の悪魔エーサクと出会う。
 エーサクは、自分の限界を突破する切っ掛けを与えてくれた。
 そして、さらに運が良い事に、大魔王ゴトウ·サイトのメイドと名乗るメリルが現れたのだ。

 メリルは、強さの次元が違う。
 剣神ビクトル·クロムウェルに匹敵するか、もしかしたらそれ以上かもしれない。

 そして、メリルの手伝いをし始めると、直ぐに、ギルドランキング10位入りを狙える圏内に入った。

 アナは、すっかり忘れていた剣神ビクトル·クロムウェルを思い出す。

 アナは、直ぐに、メリルに直訴した。

「私を弟子にして下さい!」

「無理」
 メリルに、速攻で断られた。

「そこを何とか、お願いします!」

「無理」
 メリルを説得するのは無理なのか……

「お願いし」

「無理」
 早すぎる。

「お願いなのぉ~」
 土着の悪魔のビー子も、アナの為にお願いする。

「無理」

「お願いクモ!」
 女郎蜘蛛の魔物、クモもお願いする。

「無理」
 もう、どれだけお願いしても無駄のなのか……

「メリル様! アナ先生を弟子にしてやって下さい!」
 エーサクも、メリルに土下座をして お願いする。

「アナを弟子にします!」

 何故かメリルは、エーサクが頼むと、あっさりとOKしてくれた。

 アナ的には、何故エーサクが頼んだらアッサリOKしてくれたのか分からない。

 しかしこれで、剣神ビクトル·クロムウェルと対峙できる強さを手に入れられる環境が、整ったのである。

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