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110. シロクマ亭の女将

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「セーレ、本当かよ?
 あの坊ちゃんが、本当にグランドマスターなのかよ?」

「間違いないですね! 魂が、完全にゴトウさんと一緒ですよ!」

「私は信じるわ! グランドマスターは、私の為に、ショタに転生して下さったのだわ!
 前のグランドマスターも素敵だったけど、今のグランドマスターの方が何倍も、何百倍も、何億倍も素敵だわ!」

 クリスティーヌがヨダレを垂らしながら、ゾンビの様に俺に近づいきた。

 ジュリが、素早く俺とクリスティーヌの間に入る。

「あなた達、一体何者なんですか?」

 ジュリは今にも俺に抱きつきそうな、クリスティーナを睨みながら問いただす。

「お嬢さん、俺達は『カワウソの牙』!『犬の尻尾』の傘下ギルドで、ギルド員全員がゴトウ族!
 そう、グランドマスターを愛する軍団なのさ!」
 イケメン剣士、スイセイが、サラサラの金髪をなびかせながら、歯をキラリとさせて答える。

 ジュリは、スイセイを見てドン引きしている。

「兄様、こいつらも兄様の手下なのか?」

 アリスが俺に質問してくる。
 どうしようか……
 ここは、考えどころだ。
 ここで、ヤナト達『カワウソの牙』を知っていると言ってしまえば、アリス達に前前世の記憶が戻っていると、バレてしまうしな……

「ウーン……知らないなー?」

 俺は、知らないフリをする事に決めた。

「オイ! セーレ、やっぱりアイツ、俺達の事知らないっていってるぜ!」

 ヤナトは、セーレの肩を掴みガクガクさせている。
 やっぱり、ヤナトにアイツ呼ばわりされるとムカつく。

「間違い無いですよ! 僕がゴトウさんの魂を間違える筈ありません!
 何せ、異界の悪魔は、人間の魂が大好きなんですから!」

 セーレはヤナトに反論する。

「そうだよな……」

「私には、分かるわ! あの方は、正真正銘のグランドマスターだわ!
 私のショタレーダーがそう言ってるわ!」
 クリスティーヌが騒がしい。

 ショタレーダーで、俺がゴトウ·サイトと、何故分かるか不明だ。
 ショタなら、誰にでも反応するのではないのか?

 面白そうだと、事の成り行きを見守っていた、ギャラリー達は、何がどうなっているのかついていけなくて、ただただ静観して見ている事しか出来ない。

「ハイハイ! 分かったわ! この子達は、ヤナトちゃん達の知り合いって事でいいわよね!
 そしたら、あなた達はヤナトちゃん達の隣のテーブルに座りなさいな!
 このままじゃ!お店が回らなくて、商売上がったりだよ!」

 シロクマ亭の女将が、手をパンパン叩きながら、この場を収めた。

 そして……

 今、俺の隣には、何故かクリスティーヌが座っている。

 視線がとても熱いが、俺は無視を決め込む。

「アンタ達、泊まりでいいんだね!
 夕食、食事付きで、1日一人8000マーブルだよ!
 部屋はツインで、二部屋繋げる事ができるから隣同士を用意しておくよ!
 前金だから、最初に3万2000マーブル頂くよ!」

 女将さんが、シロクマ亭の料金説明をしてくれる。

 お金を管理しているネム王子が、女将さんにお金を支払う。

「毎度あり! 飲み物は、別料金になるよ!
 水はタダ! お子様用の飲み物は、イチゴオレとミックスオレ、ヤギ乳、マテ茶が用意できるよ!」

「そしたら俺はイチゴオレ!」
「妾も兄様と一緒のイチゴオレがいいのじゃ!」
「私はミックスオレをお願いします!」
「僕はマテ茶をお願いします!」

 みんなそれぞれ、飲み物を頼む。
 何故か、ネム王子の隣にはスイセイが寄り添っているのは、スルーする。

「ウーン……本当にグランドマスターなのか?
 確かに、魔素の感じはグランドマスターに似てる気はするが……」

 どうやら、ヤナト達にはゴトウ·サイトだった時に掛けた、【魅了】スキルが効いていないようだ。
 それ程、ヤナト達の今のレベルが高くなっているという事か。
 何せ、ギルドランキング第4位だというし、こいつらも400年間の間で、とんでもなく強くなったという事だろう。

「ヤナト、そんなにグランドマスターの事が信用できないなら、姫様に聞いてみたらいいんじゃない?
 姫様なら、グランドマスターか、そうじゃないかぐらい、直ぐ分かると思うわよ!」

 クリスティーヌが、ヤナトに提案する。

「ガブ姉は、兄様がゴトウ·サイトで間違いないと言っていたのじゃ!」

 アリスが、サラッと答える。

「ガ……ガブ姉? お前、すげえな!
 姫様の事を、ガブ姉なんて言う奴、初めて見たぜ!
 というかお前、本当は、姫様の血の繋がった妹か何かじゃないのか?
 見た目も、小さかった時の姫様ソックリだし。
 それに、その内に秘めた禍々しい魔素まで、姫様とソックリだよな!」

 ヤナトは、アリスの顔をマジマジ見ている。

「君は、龍だよね! 昔、地球で君の魔力を感じた事があるよ!」

 突然セーレが、アリスとヤナトの話に入ってくる。

「お主は、あちらの世界の悪魔か?
 しかし、知らぬ顔じゃな?」

 アリスは、セーレの顔を一瞥して答える。

「僕なんか、下っ端だからね!
 君は、ルシファー様なんかと喧嘩してたから、僕なんて知らなくて当然だよ!」

「ルシファー? 確か西にいた奴らの親玉だったか?
 確かに、彼奴との喧嘩は面白かったのじゃ!」

 アリスは、喧嘩してた時を思い出したのか、楽しそうな顔をしている。

「ルシファー様と喧嘩できるのなんて、地球では、君ぐらいだよ!
 でも君は、こちらでは随分、力を落としているみたいだけど……」

「余計なお世話じゃ!
 直にこの世界でも、妾は必ず最強になるのじゃ!」

 何か、アリスとセーレが凄い話をしている。
 ルシファーって、あの一番有名な大悪魔だろ?
 アリスは、ルシファーと互角に戦えたのか。
 というか、俺はルシファーより劣るベルゼブブに瞬殺されたのだが……

 多分、アリスがこの世界で弱くなってしまっているのは、完全に俺のせいのような気がするんだけど……

 俺の魔素総量が足りなすぎて、アリスが龍体になった時に、まだまだ本気を出せないのだ。

 アリスの為にも、もっと強くならねば。
 俺が強くなれば成程、アリスも強くなる筈だしな。

 俺は最近サボっていた、魔力総量を上げるトレーニングを再び始めねばと、心に誓うのだった。
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