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107. 城塞都市イナーカダ

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 俺達は城塞都市の城門の前に着いた。
 南の大陸の同じ城塞都市であったハロハロと比べると、あまり人が並んでいない。

 ハロハロの城門に人がたくさん並んでいたのは、ムササビ自治国家と漆黒の森の王都モフウフを結ぶ要所に位置する為かもしれない。

 多分、南の大陸の城塞都市は、みんなこんななんだろう。

 一応、全知全能君に調べてもらって、この城塞都市の名前は、イナーカダという名前だという事は分かっている。

 城主は、人間の王様らしい。
 人口2000人程の小さな村だ。
 いや違った国でした。

 南の大陸では、どのような小さな城塞都市にでも冒険者ギルドがあるので、まずは冒険者ギルドに行ってみようと思っている。

 と、考えながら城門の列に並んでいたのだが、順番が来たようだ。

 俺達『犬の肉球』はS級ギルドなので、本来であれば、列に並ぶ必要がないのだが、並んでいたのが5組だけだったので普通に並んでみたのだ。

「坊主、お前冒険者か?」
「そうですけど?」
 門番の兵士が質問してきたので、普通に答える。
「そのブレスレット、S級冒険者じゃないのか?」

 俺達は、ブリジアによって、ムササビの冒険者ギルド本部で、全員S級冒険者にさせられてしまったのだ。

「そうですけど?」

「ウソだべ!」
「本当ですよ、僕らは一応『犬の肉球』のメンバーですから!」
「オオ! そうかそうか赤髪ダークエルフの嬢ちゃんがおるな。
 お前ら『犬の尻尾』だな。
 確か『犬の尻尾』には、赤髪ダークエルフの幼女がいるって有名だからな!」

 このオッサン、『犬の肉球』と『犬の尻尾』を勘違いしている。
 名前が似ているので、仕方が無いと言えば仕方が無いのだが。

 そういえば、昔、『犬の尻尾』が売り出し中だった時、シャンティー先生が、『犬の肉球』と名前が似ているというだけの理由で、『犬の尻尾』を潰されそうになった事があったな。

 違うか、あの頃は、ブリトニーがチンコスライスという鬼畜な技を思いついて、『犬の尻尾』がヤバイギルドだと、南の大陸中で話題になっていたんだった。
 そして、そんな鬼畜なギルドと間違えられるのに腹を立ててたシャンティー先生に、俺と姫とブリトニーは、シメられたんだったな……

 多分、俺達のギルドにアンちゃんがいなかったら、今頃『犬の尻尾』は、存在していなかった筈だ。

 今だったら、姫もブリトニーも、シャンティー先生に負ける事など絶対に有り得ないけどね。

 まあしかし、南の大陸では、漆黒の森の女王である姫の名前は絶大だ。
 間違えるのも無理もないかもしれない。

 俺も『犬の尻尾』の関係者と言えば関係者だし。
 というか、俺が『犬の尻尾』の初代団長だった!
 姫などは、俺がいまだに『犬の肉球』の団長だと思ってる節があるしな……

「妾は、ガブ姉じゃないのじゃ!」

 アリスが、門番の兵士に反論する。

「ガブ姉? そしたら嬢ちゃんは、漆黒の森の姫のダークエルフの妹か?」

「そうなのじゃ! いずれ妹になる予定なのじゃ!」

 アリスは、エッヘンと無い胸を張る。

「アリスちゃんは、私の妹になるんじゃなかったの?」

「勿論、ジュリ姉の妹にもなるのじゃ!
 カブ姉もジュリ姉も、兄様の婚約者なので当然なのじゃ! ワッハッハッハッハ!」
 何故かアリスは、嬉しそうに大笑いしている。
 俺が色んな女性と結婚するのが、そんなに嬉しいのか?
 よく分からん。

「坊主、若いのにモテモテじゃな!
 羨ましいぞ! ワシがお主程の年齢の時なんて、鼻たれて、寝小便漏らしていたと言うのに、最近の子供は進んでおるな。
 兎に角、S級冒険者なのは分かったから、城門を通過を許可するぞ!」

「ありがとうございます!」

 俺は、門番の兵士に丁寧にお辞儀をして、城塞都市イナーカダに足を踏み入れる。

 イナーカダは、その名の通り田舎の城塞都市と言った感じだ。
 人の往来は、それなりに有ることは有るのだが、ハロハロとかのように、ごった返しているという事は無い。
 人々の歩くスピードも、少し遅く感じられ、町自体がのんびりした印象を受ける。

「団長、最初に宿屋を探しますか?」
 ネム王子が俺に指示を仰ぐ。

 本当に、ネム王子の俺に対する敬語は慣れない。
 俺に敬語は止めて欲しい。

「最初は、冒険者ギルドに行こうと思う。
 冒険者ギルドで、お勧めの宿屋を聞いた方が間違い無さそうですしね!」

「流石は団長、その方が間違いないですね!」

 ネム王子は、俺を持ち上げてくれる。
 王子が太鼓持ちになってよいのか?
 王子は、ヨイショされる方だろ!
 とは、言えない。

「冒険者の常識です。流石では無いです」

 俺は、一応、丁寧に対応しておく。

 取り敢えず、町の雰囲気を味わいながら、町の中心部にあろうイナーカダ冒険者ギルド会館に向かう。

「兄様! 初めて入る冒険者ギルドなので、舐められないように威嚇するのじゃ!」
 黄色いジャージを着たアリスは、ブルス·リーの様に、軽くぴょんぴょん跳ねながらステップを踏み、ヤル気満々だ。

「ダメだよ! アリスちゃん! 知らない人を威嚇するなんて、そんなの人として良くない事だよ!」
 ジュリは、アリスを窘める。

「だけどジュリ姉、これはジュリ姉の父親であるケンセイ師匠から教わった、初めての冒険者ギルドに入る場合の、正しい登場の仕方じゃぞ!」

 アリスは、ジュリに反論する。

「ハァー……いつもお父さんは、ろくな事を教えない……」
 ジュリはため息をつき、自分の父親の情けなさに肩を下ろす。

「アリス、そしたらパターンMでいこう!」

 俺はジュリの心情を汲み、アリスに新たな提案をする。

「パターンM? それはもしや、異世界モノの定番、初めての冒険者ギルドで舐められまくり、バーボンダブルを頼んだのにミルクが出てくるアレじゃな!」

「バーボンダブルかどうかは知らないが、兎に角舐められない様に強い酒を頼んだのに、ミルクが出て来るアレだ!」

「バーボンダブルってなんだい?」

 ネム王子が、首をかしげて聞いて来たので、俺は丁寧に説明する。

「異世界の強いお酒、バーボンウィスキーを2倍の量にする事です。
 昔の古いアメリカ映画で、アウトローが必ずバーカウンタで飲むお酒だったりします!
 ダブルにするのが、アウトローのアウトローたる所以ですね!
 最近では、バーボンよりスコッチウィスキーの方が人気があったりします!」

「アメリカ? ウィスキー?」
 ネム王子は、余計分からなくなっているようだ。
 まあそれは置いといて、パターンMの段取りを詰めておく。

「アリス、この世界には、確かテキーラはあったはずだから、テキーラダブルにしておけ!
 と、言っても出てこないと思うけどな」

「兄様、何を言っておるのじゃ?
 妾達は、それを目指しておるのではないのか?
 テキーラが出て来たら、パターンMは失敗なのじゃ!
 テキーラを頼んだのに、舐められてミルクが出て来てこそ、この作戦は成功なのじゃ!」

 アリスが、兄様大丈夫か? って顔をして俺の顔を見ている。

「兎に角、パターンMで行くぞ!
 アリス、絶対威圧するなよ! 滅茶苦茶弱そうな雰囲気を出すんだぞ!」

 俺は、アリスの俺に対する『兄様、大丈夫か? 』という思いを、払拭させる為に、大きな声を出しながら、一歩前に出る。

「任せるのじゃ!」

 アリスは元気に飛び跳ね、ヤル気満々のようだ。

 ジュリとネム王子は、やれやれと言った様子で、俺達の後に続くのだった。
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