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51. 上級移転装置

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 南の大陸のダンジョンに初めて来た。
 冒険者なら誰もが憧れる冒険の入口。

 この世界の一流冒険者は、誰しも南の大陸のダンジョンを目指す。

 他の大陸にもダンジョンは有るには有るのだが、その質、数、空間のデカさ、モンスターの出現数、未攻略ダンジョンの宝の数、レアアイテムの出現率、どれを取っても比べる事などできないのだ。

 冒険者の聖地、南の大陸。
 世界中から凄腕の冒険者が集う冒険者の楽園。

 今日、初っ端から南の大陸の凄まじさを見せつけられた。

 アン·ゴトウ·ドラクエル。『犬の尻尾』の副団長にして、最強の一角ドワーフ王国の王ドラクエルの娘。
 全ての攻撃を跳ね返す。
 現在父親に次いで世界2番目の盾職。

 ガブリエル·ゴトウ·ツェペシュ。『犬の尻尾』団長にして、最強の一角。
 南の大陸最強と呼び声が高く。
 魔法、剣、肉弾戦、どれを取っても超一流。
 全く弱点が無いと言われる。
 漆黒の森の女王。

 そして、ゴトウ·ペロ。
 ガブリエルの使い魔の神獣ケルベロス。
 3つの頭から全属性の魔法攻撃を連射する、弱点ゼロの世界最強の使い魔。

 この2人と1匹に完全に圧倒された。
 しかも、1番強いと思われるガブリエルは何もしていないのだ。

 何もしていないのだが、一瞬だけ俺の目の前に現れた瞬間に発した殺気で、完全なる実力差を解らされたのだ。

「ここからが本番ですよ。アレン坊っちゃま。
 ガブリエルやアンの事は忘れて下さい。
『犬の尻尾』のメンバーは規格外ですので」

「そうだよ! アレン君!
 アレックス叔父さんを助けるのが、私達の本来の目的なんだから!」

 シャンティ先生とアンさんが、俺の心を感じ取ったかのように話し掛けてきた。

「ここからが、新生『犬の肉球』の伝説の始まりなのじゃ!」

 アリスもショックから復活したのか、やる気になっている。

「アリスお嬢様、まずは人型に戻って下さいませ。
 本来ケルベロス教の盛んな南の大陸では、龍はよく思われておりませんので」

「そうなのか?」

「そうです。西の大陸で盛んな龍神教と、南の大陸で盛んなケルベロス教は犬猿の仲ですので。
 アリスお嬢様が南の大陸で龍体でフラフラしておりますと、要らぬ衝突が起こってしまいます」

「面倒臭いのう……じゃが、仕方が無いのじゃ」アリスはそう言うと、人型に姿を変えた。

「それではダンジョンに入りましょうか。
 多分、最初の階段を下りた1階階段フロアーが、レイド本部になっていると思いますので、詳しくはそこの責任者に話を聞きましょう」

 俺達はダンジョン入口の祠の扉を開け、中にある階段を下りていった。

 1階階段フロアーに下りるとカウンターがあり、御用の方は呼び鈴を鳴らして下さいと、カウンターの上に置いてある立紙に書いてあった。

 チリリリリーン

「ハイ! 今行きます!」

 奥から見習い騎士の様な、若い騎士が出てきた。

「アッ! シャンティ様!」

 どうやら見習い騎士は、シャンティ先生を知ってるようだ。

「今、どうなっています?」

 シャンティ先生が見習い騎士に話し掛ける。

「先ずは、中に入って下さい!」

 見習い騎士は慌てて、カウンターの奥に導き、応接セットのソファーに俺達を座らせる。

「今すぐ、お茶を用意します!」

「お茶など無用です。
 直ぐに、今の状況が知りたいですが」

 シャンティ先生が、見習い騎士を制し話をさせる。

「ハイ。状況は1週間前から全く変わっておりません。
 現在、50階層目の階段フロアーを拠点にして、1日1回、ネム王子を助ける為に突撃を仕掛けているのですが、アレックスさんが居なくなってしまったせいで、全く前に進めなくなってしまったのです……」

「ジャイアン·キラー·アントは闘気を使わないと傷を負わせる事も出来ないから、魔法使いが魔素切れを起こすまで、取り敢えず、形の上では何かをやっている所を見せてる訳ね」

「僕達では、どうする事も出来ないのです……」

 見習い騎士は、膝に置いていた両拳をギュッ! と握りしめ、奥歯を噛み締めて悔しがっている。

「まあいいわ! マップラーは有るかしら?」

「ハイ、こちらに」

 見習い騎士は、自分の冒険者バックからノートなような物を取り出した。

「50階層目だったわね!」

 シャンティ先生は渡されたノートをペラペラめくる。

「成程ね。50階層の探索はまだ半分も終わってないのね。
 それで、王子がトラップにハマった場所は分かるかしら?」

「ハイ、ここになります」

「かなり奥の方ね」

 シャンティ先生は王子の居場所を確認した後、マップラーというノートの後ろのページを、ペラペラとめくった。

「アラ? 王子達は何処かを探索しているようよ……」

「エッ?」

 若い騎士見習いが、体を乗り出してマップラーを覗き込む。

 マップラーの地図が描かれていなかった白いページの後ろの方に、地図が描かれたページがあったのだ。

「王子様達は、生きていそうよ。
 多分、トラップは移転魔法陣だったのね。
 多分、攻略されてない違う階層か、別のダンジョンに飛ばされているわね。
 取り敢えず、このマップラーを貰えるかしら!」

「ハイ! 勿論です!」

 先程まで歯を食いしばり悔しがっていた騎士見習いが元気になった。

「アリスお嬢様、アレン坊っちゃま、ジュリ様、冒険者ブレスレットを外して下さいませ」

 シャンティ先生が、俺達に指示を出す。
 俺達は言われるまま冒険者ブレスレットを外し、ソファーのテーブルの上に置いた。

「この冒険者ブレスレットを、50階層目に持って行ってくれる!」

 シャンティ先生が騎士見習いにお願いすると、騎士見習いは俺達の冒険者ブレスレットを持って、俺達が入ってきた扉から外に出ていった。

「シャンティ先生……あの人、なんで外に出て行ったんですか?」

 俺は気になりシャンティ先生に聞いてみる。

「南の大陸のダンジョンの攻略済の階段フロアーの階段部分には、攻略した冒険者が【上級移転装置】をセットする決まりになっております。
 その【上級移転装置】は、冒険者ブレスレットに組み込まれた魔道具によって設置する事ができ、冒険者ブレスレットは、ダンジョンの中の行った事がある階段フロアーを記憶する機能があり、1度行った事がある場所に移転出来る仕組みになっているのです」

「戻りました」

 俺達がシャンティ先生の話を聞いていると、先程の騎士見習いが、俺達の冒険者ブレスレットを持って戻ってきた。

「それでは、冒険者ブレスレットを身に付けて下さいませ」

 俺達はシャンティ先生に従い、冒険者ブレスレットを再び身に付ける。

「冒険者ブレスレットを身に付けたら階段に進み、50階層目と心の中で思いながら階段を登って下さいませ」

「分かった」

「了解なのじゃ!」

「50階層目ね」

 俺達は50階層目と心の中で思いながら、階段を上がる。

 そして階段を登りきると、ダンジョンの外の入口に戻るではなく、今まで居た所と同じような50階層目の階段フロアーに到着したのだった。





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