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264. 醤油

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 スパン! 

 ブリトニーがタコ侍ロードの斬撃を掻い潜り、胴を真っ二つに斬り裂いた。

「一丁上がりニャ!」

 ブリトニーのスピードは、まさに光の速さだ。

 S10レベルのタコ侍ロードでさえ、一撃で倒してしまうのだ。

「コイツらは、私とは相性が悪そうなのニャ!
 私を倒すには、剣術だけで倒すのは無理なのニャ!
 コイツら基本、刀だけの攻撃なので、今の私のスピードなら全て避けれるのね!」

 どうやらタコ侍ロードは、闘気を使うブリトニーと相性が最悪のようだ。

「オ~イ! アマイモン!
 コイツら私が全部倒してもいいのかニャ?」

 ブリトニーは、後ろの扉の前に控えていたアマイモンに話しかける。

「困りましたね……
 ブリトニーさんが、ここまで強くなっているとは……
 もう既に剣聖ぐらいの実力があるのではないのですか?」

「私は、父上やシンタローよりは全然弱いのニャ!
 それぐらいは分かるのね!
 私はパワー不足なのニャ!」

 ブリトニーが、冷静に自分の実力を分析する。
 全ての攻撃が、会心の一撃ならパワーは関係ない気がするのだが……

「ブリトニーさんがタコ侍ロードを全て倒してしまったら、姫様の修行になりませんので、取り敢えずブリトニーさんは後5匹倒して下さい!
 残りの2匹を、姫様とゴトウさんに倒してもらいましょう!」

「了解ニャ!」

 スパン! スパン! スパン! スパパパーーン!

 ブリトニーは、軽く全て一撃でタコ侍ロードを倒してしまった。

「それでは、姫様。ご主人様。頑張って下さいなのニャ!」

 ブリトニーは、愛剣スキルスッポンソードをぺろりと舐めてから鞘にしまう。

「それでは行くのです!
 今回から力の闘気だけじゃなく、風の闘気や、氷の闘気とか色々使ってみるのです!」

 姫がタコ侍ロードの前に踊り出る。

 今までカウンター狙いだったので、相手を誘う為にドッシリ構えていたのだが、今回は、スピード系の風の闘気を使っているのか、一瞬でタコ侍ロードの懐に潜り込んだ。

 姫の剣から、炎が現れる。

 スパン!

 タコ侍ロードの体が、焦げ臭い匂いと共に真っ二つに斬り裂かれた。

 姫は同時に色々な闘気を発動する事ができる。

 姫の闘気は特殊だ。

 本来、戦いの最中、1種類の闘気しか使う事が出来ないのだが、姫の場合、異なる違う種類の闘気を混ぜ合わせ、同時に発動させる事ができるのだ。

 多分今回は、パワー系の闘気と、スピード系の闘気と、炎の闘気を同時に使ったのだろう。

 昨日までは、パワー系の闘気しか使っていなかったので、相手に合わせる戦い方しかできなかったのだが、今日は全属性の闘気を自由に使う許可を得たので、スピードを活かしてブリトニーのような戦い方をしたようだ。

「姫様! 凄いのニャ!」

「姫ちゃん! 剣術も、この1週間で物凄く上達したね!」

 ブリトニーとアンちゃんが、姫を褒めちぎるが、これはちょっと上達したとかいうレベルじゃないだろ……

 姫はまだ3歳の幼女なのだぞ……

 3歳でこの強さは、異常だろ。
 たった半年前まで、姫に攻撃力など無かったのだぞ!

 初めて姫と会った時、俺が姫の事をずっと守ってやると言った言葉が、今更ながら恥ずかしいぜ……

「最後の1匹は、ゴトウさんの分ですからね!」

 アマイモンが、意味が分からない事を言っている。

 今回は、絶対に無理だ。
 タコ侍ジェネラルでさえ、アンちゃんとペロに助けてもらいながら一日かかってやっと倒したのだぞ!

 て、言うか、俺はタコ侍ロードの動きがそもそも全く見えない。

「アマイモン! 俺には無理だ!
 多分、一生かかってもタコ侍ロードを倒す未来が見えない。
 未来が見えないというより、そもそもタコ侍ロードの動きが見えないからな!」

 俺は完全に開き直った。

「確かにゴトウさんには、とてもじゃないですけど無理ですね!
 天地がひっくり返っても無理です!
 そもそもゴトウさんは、前の世界でダメニートでしたね!
 すみませんでした! ブリトニーさんや姫様を見て、もしかしたらゴトウさんもいけるかな? と、思ったのですが、やっぱり無理ですよね!」

 ここまでハッキリ言われると、流石に凹む。
 しかしなんでアマイモンが、俺が前の世界でダメニートだった事を知っているのだ……

「アマイモン! マスターに謝るのです!
 マスターにかかれば、タコさんくらいイチコロなのです!
 マスターに土下座して、マスターの足の指の間をペロペロ舐めるのです!」

「姫様! 無理ですよ!
 ゴトウさんは、実はヘタレ野郎なのですよ!
 ゴトウさんがタコ侍ロードを倒すなんて、醤油のボトルを一気飲みするより無理ですよ!」

「醤油が何だか知りませんが、兎に角、今からマスターがタコ侍ロードを倒すのです!」

 姫は一体何を言っているんだ……
 俺がタコ侍ロードを倒せる訳ないだろう!

「姫……俺には無理だと思うんだが……」

「大丈夫なのです! 私が何とかするのです!
 マスターは、普通にタコ侍ロードと戦って下さい!」

 姫が、俺にタコ侍ロードと戦うように指示してきた。
 俺はこれから起こる事が、なんとなく分かってしまった。

 俺がタコ侍ロードに近づいて行くと、タコ侍ロードの動きが急に遅くなる。

 やっぱりね……

 姫がいつものように、タコ侍ロードに重力魔法をかけたようだ。

 俺がもっとタコ侍ロードに近づくと、タコ侍ロードが跪いた。

 これは俺が倒した事にはならないのではないか……

 俺は取り敢えず、タコ侍ロードの腕を切り落していく。

 タコ侍ロードは、最早まな板に乗った鯉状態だ。

 俺は無抵抗のタコ侍ロードの脳天に、刀を突き刺しトドメを刺した。

「凄いのです! マスターがタコ侍ロードを簡単に倒したのです!
 タコ侍ロードは、マスターの殺気に恐れを成して、固まって動けなくなっていたのです!」

 アンちゃんの方を見ると、苦笑いしている。

「さあ! アマイモン!
 醤油とやらを一気飲みするのです!」

 姫がアマイモンに詰寄ると、バハオウが俺の影から醤油を持って現れた。

「バハオウ! その醤油どこから持ってきたんだ?」

「ハッ! 総料理長のガリクソンさんに聞いたら渡されました!」

 アマイモンは、この後、姫に重力魔法をかけられ、無理矢理醤油のボトル1本丸々一気飲みさせられ、口から泡を吹いて失神したのであった。

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