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244. 王家御用達宿屋

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「おぉー! 結構出来ておるのう!」

 王宮の宿泊施設を存分に堪能した後、ブリジアは王宮の外に出てみた。
 王宮の目の前には、『ウルフデパート』モフウフ支店の工事が始まっていた。

「フフフフ、これは最高の立地じゃな。
 サンアリにゴネた甲斐があったのじゃ」

 サンアリの最初の計画では、王宮入口付近に新しい冒険者ギルド会館と、ケルベロス教の教会を建てると決定していたのだが、「王宮真ん前じゃないと『ウルフデパート』は出店しないのじゃ!」と、ブリジアに押し切られる形で、この場所に『ウルフデパート』が建設される運びになったのだった。

「王宮カジノとダンジョン、それからガブリエルのポーション入りの大浴場は、妾の予想以上の集客率を誇りそうなので、相乗効果で『ウルフデパート』にもたくさん客が来ること間違いなしなのじゃ! ウワッハッハッハッハッ!」

 美幼女が、何やら独り言をブツブツ言いながら、高笑いをしているのは、かなり目立っている。
 それをたまたま、目撃した1人の青年が、ブリジアに話しかけてきた。

「これはブリジア様! お久しぶりでございます!」

 ブリジアの目の前にアンちゃんの弟、ヨネン·ドラクエルが現れた。

「ヨネンか! 久しぶりじゃのう!
『ウルフデパート』の建設は順調そうじゃのう!」

「ハイ! サンアリさんに王宮の工事は一旦中止して、『ウルフデパート』の建設を急ピッチに進めて欲しいと言われましたので、現在は全ドワーフ族総出で、『ウルフデパート』の建設を進めております」

「そうか、すまんのう!
 ところで、王宮は完成しておるんじゃなかったのか?」

「まさか、まだ商業施設しか完成してませんよ!
 まだ肝心の王宮ができていません!
 サンアリさんは、実際の王宮はお飾りなので、それよりドワーフ族が請け負っているモフウフの他の商業施設の建設を、急ピッチでやってくれと言われております」

「成程、サンアリらしいのう。
 確かに、王宮はお飾りじゃしな。
 どう考えてもダンジョン内のアジトの方が、セキュリティー面も豪華さも、あれを越える地下王宮は他にはないじゃろう。
 あれ程のものを建設しておいて、使わないのは勿体ないからのう」

「ハイ! 地下王宮はドン様、ガン様、ゾイ様の間違いなく最高傑作ですね!
 特に、あの贅の限りを尽くした大浴場を越えるお風呂は、今後、誰も造る事は出来ないでしょう!
 1つの王宮に、世界に1番と2番のお風呂があるのは、世界広しといえどこのモフウフ王宮だけですよ!
 因みに2番目のお風呂は、王宮2階の皆に解放されているガブリエル様のポーション入りの大浴場だったりします。
 モフウフ王宮は、必ずや、西の大陸のフレシア王宮やムササビの冒険者ギルド本部より、ドワーフ族の名にかけて立派にするつもりなのです!
 その建設に自分も関わっていると思うだけで、毎日興奮しっぱなしですよ!」

 ヨネンは、モフウフ王宮の事になると、すぐに熱くなる。
 ドワーフ王国の王子として、初めて自分が総指揮をとるビックプロジェクトなのだ。
 物作り大好き青年のヨネンには、毎日毎日が楽しい日々なのだろう。

「ウムウム、そうかそうか。
 ところでヨネンよ、あの宿屋はなんじゃ?
 妾は見た事がないのじゃが、有名な宿屋なのか?」

 ブリジアは、好立地な王宮入口正面、『ウルフデパート』の対面の宿屋に目を向ける。

 最初の予定では、王宮正面玄関から中央の大通りの左右に、冒険者ギルド会館とケルベロス教の教会を建設予定だったのだが、ブリジアのゴリ押しにより、左側に『ウルフデパート』を建設する事になったのだが、何故か右側に見知らぬ宿屋が建っていたのだ。

「あれはですね、『妖精のアクビ亭』ですね!
 あれは、ゴトウさんの猛烈な推薦で、誘致された宿屋みたいです。
 確かに、今まで中級の宿屋と認識されてたようですけど、なかなかどうして、僕も最近宿泊してみたのですけど、サービスは超一流ホテルと比べても遜色ないレベルでしたよ。
 今まで中級と思われていたのが、おかしなくらいです!
 今回、モフウフ王宮正面に店を構えられたので、これからは漆黒の森王家御用達の、超一流宿屋として認識されるでしょうね!」

「そうであったか。ご主人様がわざわざ誘致したというからには、何か思う所があったのじゃな。
 ああ見えて、ご主人様は礼儀や作法、おもてなしにうるさいからのう」

「そうなんですか?」

「そうじゃ。お風呂に入る時に、どちらの足から入れるかも決めているぐらいじゃ。
 尚且つ、それをゴトウ族のルールとか言って、ゴトウ族の全ての人間に強制しているしな。
 話はこれぐらいにして、もうそろそろ出発しようかのう。」

「どこに行かれるのですか?」

「元漆黒の森の王宮に、北の大魔王に会いに行くのじゃ!」

 ブリジアは、そう言うと空中にフワリと浮き上がった。

「それではヨネン、サラバじゃ!」

 ブリジアはそのまま、元漆黒の森王宮に向かって飛んでいこうとする。

「ブリジア様! 待って下さい!」

 ヨネンが慌てて、ブリジアを呼び止めようとする。

「話の続きは、次に会った時にしようぞ!」

 ブリジアは、ヨネンが待てとい言うのを振り切り、別れを告げて飛んで行った。

 ドカン!!

 ブリジアは上空で、何かに激突し墜落していく。

 ヒュ~ン……………ズッド~ン!!

「痛たたた!! な……なんじゃ?!」

 ブリジアは、服に付いた汚れを、手で振り払いながら起き上がる。

「だから、待ってて言ったじゃないですか……
 現在、戦時中の為、モフウフ城塞都市の上空には、【聖級結界】が張ってあると言いたかったんですよ!」

 ヨネンが残念そうに、ブリジアを眺めるのであった。
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