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229. モフウフのキラキラ王子

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「第2小隊、もう少し右に展開して、ニャンゴン城塞東側から襲ってくるデーモン部隊を叩け!
 第1小隊は引き続き、正面門を護り続けてくれ!」

 西部戦線指揮官カレン·ロマンチックの声が、ニャンゴン城塞都市の北東地区城壁側にある、王宮テラスの臨時戦略本部から響き渡る。

 戦いが始まり数時間は、攻めてくる下級デーモンを簡単に倒し続けて、順調のように思われていたのだが、いくら倒しても、一向に終わりそうもないデーモン軍団の怒涛の攻撃により、西部戦線の要の都市であるニャンゴンは疲弊していたのだ。

「大姉御! サンアリさんに言われて、『カワウソの牙』総勢12名、助太刀に来たぜ!」

『カワウソの牙』団長、狼耳族のヤナトが、カレンに挨拶をしにきた。

「大姉御?」

 カレンは、ヤナトが誰に向かって話し掛けているのか解らない。
 自分を見て、話しかけられている気はするが、自分は猫耳族なので、狼耳族の弟などいないのだ。

「ブリトニーの姉御の姉ちゃんだから、アンタは大姉御だろ!」

 どうやら、この狼耳族の若者は自分の事を大姉御と呼んでいたようだ。

「見ず知らずのお前に、姉呼ばわりはされたくないな。
 それから、私の可愛い妹の事も姉御とは呼ぶな!」

 カレンは、ヤナトを睨みつける。

「でもよ、自分の事を姉御と呼べと最初に言ったのは、ブリトニーの姉御だぜ!
 それに、普通にブリトニーさんと呼んだら、手足を切り刻まれて、ダルマにされた挙句、チンコスライスされてしまいますよ!」

 カレンは、頭が痛くなってきた。
 まさか、ブリトニー自ら姉御と呼ばせているとは……
 それから手足を切り刻んで、チ……チンコスライス?
 一体、妹はなんて事をしているのだ……

「わ……解った。妹は姉御でいい。
 しかし、私はお前達の姉ではない。
 私の事はカレンと呼ぶように!」

「何でもいいけどよ。それより、俺達は何をすればいいんだ? 大姉御?」

 ヤナトは懲りずに、カレンの事を大姉御と呼び続ける。

 シュンッ!!

 カレンは目にも止まらない速さで、剣を抜き、ヤナトの喉元に、剣の切先を突きつける。

 ヤナトは、瞬きもせず、平然とした態度で、「勘弁してくれよ! 俺達は援軍に来たんだぜ!」と、ブー垂れている。

 カレンは、少し驚いた。
 ヤナトは、完全にカレンの動きを見切り、切先が喉元で止まると予測し、全く動かなかったのだ。

「成程、サンアリさんが、私の元に寄越すだけの実力はありそうだな。
 で、お前達の実際の実力はどれ程なのだ?」

 カレンは、『カワウソの牙』をどこに編成するのか決める為に、質問した。

「取り敢えず、『カワウソの牙』メンバー12名、全員が闘気使いだ。
 サンアリさんに言われて、来年の冒険者ギルド会議のメンバーに入るように言われているので、毎日5Sダンジョンに籠っている。
 先日、5Sダンジョンの攻略も終了したので、次からは未攻略の5Sダンジョンの攻略を始めるつもりだ!
 それから毎朝、俺とスイセイはブリトニーの姉御に個人的に修行して貰っているので、そこら辺のイキってる冒険者には負けないぜ!」

「成程、大体の実力は分かった。
 私は冒険者でないので、5Sダンジョンがどんな所なのかは全く分からないが、限られた超一流ギルドのみ、挑戦が認められている事は知っている。
 見ての通り、現在、北の大魔王軍に押されてジリ貧の状態だ。
 今教えて貰った、お前達の自己申告を信じて、この状況を打破する為に、敵本陣に切り込んて貰うとしよう!」

「……」

 ヤナトが黙り込んでしまった。

「ヤナト! あんた何考えてんのよ!
 最近、少しばかり強くなったと思って調子に乗ってるのがいけないのよ!
 あんた、敵本陣の方に、巨大な闘気をだだ流しているヤバい奴がいるの分かってるの!
 あんな化け物と戦って、私達が勝てる訳ないでしょ!
 て、言うか、カレン様は大人しそうな顔をしていらっしゃるけど、ブリトニー姉さんのお姉様なのよ、そのお姉様がまともな感覚の人間の筈ないでしょ!
 そんなまともじゃないお姉様に、俺達は強いアピールなんかしたら、そりゃあ、敵の大将を倒して来いって言われるわよね!」

 ヤナトという青年の後ろに控えていた、気の強そうな魔法使いの格好をした女性が、何故か私の事をディスっている。

「クリスティーヌ、カレン様にそんな事言ったら失礼だろ!
 カレン様! お任せ下さい!
 見事、『モフウフのキラキラ王子』の二つ名を持つ、この『カワウソの牙』副団長のスイセイが、必ずや、敵の大将を倒してまいります!」

 スイセイとか言う、自分で自分自身の事をキラキラ王子とか言ってしまう、おバカなイケメンが、金髪をなびかせ、歯をキラリとさせながら、私に近付いて来て、片膝をつき、私の足にキスしようとしてきた。

 私は、突然の事に、思わず足を引く。

 すると、スイセイとかいう青年は、再び近付き、懲りずにまた私の足にキスしようとしてくる。

 私は、再び足を引く。

 それでもまた、スイセイは近付いてきて、私の足にキスをしようとする。

「カレン様、そいつを踏みつけてもらって構いませんよ。
 スイセイは、イケメンだけど、おバカだから、カレン様に嫌がれてるのが解ってないと思いますので」

 クリスティーヌと呼ばれている気の強そうな女性が、またおかしな事を言っている。
 しかし、イケメンおバカのスイセイと呼ばれる男が、とてもしつこい。

「オイ、本当にコイツを踏みつけて良いのか?」

「問題ないと思いますよ。
 多分、スイセイは喜ぶと思いますので」

 よ……喜ぶ? 

 クリスティーヌと呼ばれている女性が、またまた、おかしな事を言っている……

「スマン! 今は戦いの最中だ。
 お前に、いつまでも構ってる訳にはいかないのだ!」

 カレンは思いっきし、スイセイの頭を踏みつけた。

「いぃーーーー! もっと踏んずけて下さい! 女王様ぁーーー!」

「ウッ!」

 カレンは後ずさる。

「気にしないで下さい。いつもの事ですから」

 クリスティーヌは、何事でもないような涼しい顔をしている。

 いつもの事?

 こ……こいつらは、いつもこんな事をしているのか……

 この『カワウソの牙』とかいう、ギルドは相当ヤバい。

 ヤバいというのは、戦闘の実力もそれなりにヤバそうなのだが、色々な事がそれ以上にヤバ過ぎるのだ。

 私は、この変態軍団と どう接すれば良いのだ……

 今の戦況も、相当頭が痛いのだが、それ以上に、今までの人生の中で決して遭遇する事がなかった未知の生命体の相手をする方が、もっと頭が痛い。

 カレンは、『カワウソの牙』を援軍に寄越したサンアリの事を、恨めしく思うのであった。
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