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205. 『三日月旅団』(1)

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『三日月旅団』は、元々サキュバスが運営する旅芸人の一座だった。

 ミカサ、ララ、モモの3姉妹は、その旅芸人のリーダーの娘として産まれた。

 『三日月旅団』は数年前まで、大陸中の城塞都市を回りながら、見世物やサーカスの興行を行ったり、性を売ったりする旅団だったのだ。

 サキュバスは知っての通り、精液を摂取しないと生きられない、女系の種族だ。
 興行を行って人を集めるのも、男を漁って精液を得る為だ。

 ただ、男性の精液を得たいだけなら、普通に結婚すれば良いだけなのでは?
 という話になるのだが、実際にはそう単純な話ではない。

 それでは何故、サキュバスが結婚しないで家庭を持たないかと言うと、最悪な結末が待っていると解ってしまっているからだ。

 結婚し始めの新婚の頃は、毎日SEXするのが当たり前なので、精液摂取が簡単なのだが、【魅惑】スキルを持っているサキュバスでさえ、結婚して数年が経つと、必ずSEXレスに陥ってしまう。

 稀に、SEXレスに陥らなかった場合にも問題は起こってしまう。

 何故なら、サキュバスは不老不死なのだ。
 サキュバスは、精液さえ摂取し続ければ、本来 死ぬ事はない。

 しかし、サキュバスが普通の人間の男性と結婚した場合、どうしても問題が起こってしまう。
 年齢を重ねた男性は確実に不能になり、精子が打ち止めになってしまうのだ。
 サキュバスは、パートナーが不能になったからといって、他の男性から精液を摂取するという事を絶対にしない。

 サキュバスは、結婚するという行為を、物凄く神聖視しているのだ。

 サキュバスは、普通、パートナーの男性を、どれ程愛していたとしても、結婚などしない。
 それでも結婚する場合は、その相手と生涯共にして、死ぬ時も一緒と、覚悟を決めた時だけなのだ。

 サキュバスは、その性質上、男性を惑わす魔性な性獣と思われガチだが、実際には、生きる為に男性の精液が必要なだけで、本来は普通の人間の女性に較べても、恋愛に物凄く真面目なのだ。

 そんなサキュバスなのだが、一般人から見れば、例え生きる為とはいえ、一夜限りの相手を求めて男性を漁りまくる姿は、どう見てもエロの化身にしか見えない。

 その為、世の女性達に白い目で見られている訳なのだが、ミカサ達姉妹は、そんな風に白い目で見られている一族である自分達が、嫌で嫌で仕方がなかったのだ。

『三日月旅団』は、昼はサーカスなどの興行をし、夜は性のお仕事をするのが定番だ。

 夜のお仕事のお相手は、大体が冒険者である。
 冒険者は、いつ命を落とすか分からない為、後腐れがない女を好む。

 サキュバスから見ても、冒険者は金払いの良いお客様で、尚且つ、豪快で後腐れもない。

 サキュバスを買いに来る冒険者達は、アソコのダンジョンはああだったとか、あの未攻略ダンジョンのお宝は凄かったなど、子供だったミカサ達に色々な話をしてくれた。

 ミカサ達姉妹の名前も知らない父親達も、多分 冒険者だ。
 ミカサ達にも当然、冒険者の血が流れている。

 そんな冒険者の血が流れているミカサ達姉妹が、冒険者達がする心躍る冒険の話に、ワクワクしない筈などないのだ。

 いつしか、ミカサ達姉妹は、サキュバスである呪縛から逃れ、冒険者になり、色んなダンジョンを冒険したいと思うようになるのは、自然の流れだったのだ。

 そんな日常の中、事件が起こった。

 ミカサ達の母親でもある『三日月旅団』の団長が、滞在している城塞都市の男と結婚すると言い出したのだ。

 結婚は、不老不死のサキュバスにとって、不老不死ではなくなる事を意味する。
 ミカサの母親にとっては、相当な覚悟を持って決断したのだろう。

 団長が結婚するに当たって、『三日月旅団』は新しい団長を選出しなくてはならなくなった。

 必然的に、団長の長女であるミカサが選ばれたのだが、ミカサは冒険者になるつもりだったので、団長にはなれないと必死になって断ったのだが、
 どういう訳か、若いサキュバスの中からも、ミカサと同じように、『自分も冒険者になりたい!』と、いう者達が、ララやモモも含めて10人以上出現してしまったのだ。

『三日月旅団』のサキュバス達は、主に冒険者を相手にする一座だった為、殆どの若いサキュバス達の父親は、冒険者である。なので、ミカサと同様に冒険者に憧れるのは、必然な事だったのであろう。

 しかし、古い世代のサキュバス達の大半は、今までの生活が良いという。

 話し合いは中々進まなかったが、最終的には、今までどうり興行を続ける一団と、冒険者を目指す一団とに、別れる事が決定し、『三日月旅団』の名前は、団長の血を引く者達が多いミカサ達が引き継ぐ事になったのだった。

 ことが決まれば、動くのは早い。

 早速、ミカサ率いる新生『三日月旅団』のメンバーは、その日の内に冒険者ギルド会館で冒険者登録をし、『三日月旅団』もギルド登録した。

 そして、ギルド会館で全ての登録が終わった後、ミカサ達はある行動を起こしたのだ。

 そう、その行動とは、サキュバスの【魅惑】スキルを抑える為に、昔、ゾイ爺さんがサキュバス専用に製作したという指輪を、指から外す行為だ。
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