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187. ヤル気の姫

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「それじゃあ! 行くか!
 ブリトニー! 扉を開けろ!」

「ハイニャ!」

 ブリトニーが勢いよく、フロアーボスがいる階段フロアーを開け放つ。

「ん? 何でフロアーボスが12匹もいるんだ?
 確か、ゴキ男爵の説明だと、8匹までしか選べなかったのではないのか?」

「ハハハハ! バレちゃった?
 試しに、8匹以上フロアーボスが設定できるかやってみたら、設定できちゃったのよ!
 なので、フロアーボス12匹にしてみちゃった! テヘヘ」

 シャンティーさんが、悪気の無い顔をして、テヘペロしている。

 道理で、魔物の密度がとんでもなかった訳だ。
 ゾイ爺さんは、今回の合宿の為に急遽、iPadぽい魔道具を短時間で製作したと言っていたから、細かい設定にミスがあったのかもしれない。

 普通の冒険者パーティーに、あの魔物の大軍を押し退けて前に進む事など、現実的に考えて不可能だ。

 モタモタ倒していたら、次から次に魔物が出現してしまう。

 スピードが大事なのだ。

 ペロのように、魔法の発射台が3つもあり、しかも無詠唱でリジャストタイムがゼロに等しく、姫の膨大な魔素により、弾切れがない神獣や、
 ブリトニーのように神速で、会心の一撃を出し続ける変態殺人マシーンにしか、
 この、シャンティーさんが設定した、冗談のように魔物が短時間で産み出され続けるダンジョンの攻略など、元々無理な話なのである。

「ご主人様! 最後の美味しい所は、ご主人様のパートなのニャ!」

 何故だか、いつもブリトニーは、最後のボスを俺に倒させようとする……

 勝手に倒してくれれば良いのに……

 ま……まさか、始めて会った時、『餓狼族のボスを倒すのは俺に任せろ!』 とか、言った事を今でも覚えているのか?

 と、すると、ブリトニーは意外にも、いつも俺を立ててくれているという事か?

 イヤ……ブリトニーに限って、そんな訳ないか……

 ブリトニーは、ただ、俺がいたぶられて殺されそうな姿を見たいだけだ。

 ブリトニーは、人が血を流し、半殺しになり、白目をむいて死にそうな状態を見ると、興奮し過ぎて、イッてしまうようなサイコニャン娘だった。


「それじゃあ、僕が前衛をやるから、いつものようにヒット&アウェーで戦うんだよ!」

 エッ! ア……アンちゃんまで、何を言っているんだ?
 俺がフロアーボスと戦う事、前提で喋ってる。
 俺はSSS級の魔物も、SSSS級の魔物も倒した事が無いんだぞ!
 それをいきなり5S級の魔物を倒せだなんて、アンちゃんは正気か……

 シャンティーさんも、めちゃくちゃな事をさせるが、アンちゃんも、負けず劣らずスパルタだ。

 良く考えたら、アンちゃんはシャンティーさんの愛弟子だった。
 めちゃくちゃな特訓をする事が、アンちゃん的には普通な事なのかもしれない。

「ゴトウ君! 頑張ってねぇー!」

 まるで天使の様な笑顔で、エリスさんが手を振りながら声をかけてくれた。

 全くヤル気がなかったのだが、急にヤル気が、ムラムラと股間の間から湧いてきた。

 ん!!  もしかしてこの試練は、エリスさんに良いところを見せて、俺の事を気に入ってもらうチャンスかもしれないぞ!

 必ず、このチャンスをモノにしてやる!

 しかし、どうする……

 俺にはSSSS級や5S級の魔物12体を倒すなど、絶対に無理だ。

 多分、ブリトニーやアンちゃんは、俺が魔物達を倒し切るまで、戦わせるつもりだろう。

 そんな事されたら、合宿期限の1週間では絶対に無理だ。

 しかし、そんな事お構い無しに、死にそうになっても、回復魔法をかけられ続け、不眠不休で倒すまで闘わされるのだ。

 兎に角、ブリトニーとアンちゃんの特訓は常軌を逸している。

 前のタコ侍との特訓でも、特訓という名の虐待だった。

 普通、自分達のご主人様を、アソコまで追い詰めるか!

 ブリトニーが頭がおかしいのは分かるが、アンちゃんまで、修行に関しては、頭のネジが一本緩んでいるのだ。

 そうだ! 『三日月旅団』を巻き込もう!
 奴らに手伝って貰えば、簡単に倒せる筈だ!

 実際に、先程の戦いも最初は悪くなかった。

 ただ、物量に飲み込まれてしまっただけなのだ。

 先程の魔物達より、フロアーボスなので、ランクは高いが、12体限定なので、何とかなるだろう。

「『三日月旅団』の皆さん、先程の挽回として、フロアーボスを、俺とアンちゃんと一緒に倒しませんか?」

『三日月旅団』のメンバーに提案する。

「宜しいのですか? 美味しい所ですよ。
 あれ程強いメンバーを引き連れた『犬の尻尾』の団長の実力を見てみたい気もするのですが、私達も挽回したい気持ちが強いですので、是非、参加させて下さい!」

 ヨシ! ノッてきた! 作戦どうりだ!

「駄目なのです! 最後の美味しい所は、至高なるマスターのパートなのです!」

 何を言ってるのだ?姫……

 折角、上手くいっていたのに……

 俺に、12体ものフロアーボスを倒せる筈がないだろ!

「姫! ちょっとコッチに来なさい!」

「ハイなのです!」

 姫が近づいできたので、しゃがんで耳元に、小声で、姫以外、誰にも聞かれないように話しかけた。

「あのな、姫。俺に、あの強そうな魔物12体を1人で倒せると思っているのか?
 絶対に殺されちゃうよ!

 多分、アンちゃん達は、あいつらを倒すまで、俺がボコボコにされても何度も回復魔法をかけ続け、勝つまでやらされると思うけど、今回は『犬の尻尾』のメンバーだけじゃないんだぞ!

『犬の肉球』も『三日月旅団』のメンバーも見ているんだ!

 それなのに『犬の尻尾』を率いる団長の俺が、実は弱かったと知れたら、カッコ悪いだろ!

『犬の尻尾』は、一応、モフウフの後ろ盾という事にもなっているんだ!
 その後ろ盾の団長が、大した事なかったら後ろ盾でもなんでも無くなってしまう!

 俺は良いんだ!

 俺が弱い事は、俺が1番分かっている。
 しかし、俺が弱い事で、『犬の尻尾』やモフウフ、ましてや、姫達が舐められるのが我慢ならないんだ!」

 姫は、最初は耳を真っ赤にして、緊張気味に聞いていたが、最後の方は目をうるうるさせて、今にも泣きだしそうな顔をして聞いていた。

 しまった……キツく言い過ぎたか……

 これでは、幼児を泣かしている悪いオッサンにしか見えないではないか……

 エリスさんも、なんとなく、俺を軽蔑した目で見ている気がする。

「マスター! 解ったのです!
 マスターがカッコ良く見えるように、私が上手くやるのです!
 なのでマスターは、アンさんと二人だけでフロアーボスと戦って下さいなのです!」

「エッ? 姫? 俺の話、聞いてた?」

「ハイなのです! 任せて下さいなのです!」

 姫は、何やら凄くヤル気になっている。

 でも、この感じはダメな奴だ。

 この感じを感じた時、姫は いつも、とんでもない事をやらかすのだ。

 しかし、それが解っていたとしても、俺には、姫を止める術を持ち合わせていないのだった。
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