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第三章 王都へgo!

47. 挨拶しよう

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「たのもー!」

 クロメは、なんの挨拶なのか、空手家の道場破りのような挨拶をして、この街、ニナナカ城塞都市の冒険者ギルドの門を開いた。

 弱そうに、そ~と入ったら、誰にも気付かれないと思ったのだろう。
 案の定、冒険者ギルドに入る時の挨拶じゃないので、冒険者ギルドで昼間から飲んでいた冒険者達に注目を浴びる。

 クロメは、黒耳族とバレないように、三角帽子を目深に被り、尻尾も隠してる。

 誰にも、ただの魔法使い少女にしか見えないだろう。
 て、無理だし! 三角帽子だけなら、ただの魔法少女に見えるかもしれないけど、くノ一の衣装に、卍が書かれた眼帯付けてる自体で、ツッコミが入るだろ! 案の定、

「お前、どんな格好してんだよ!」

 飲んだくれた冒険者達からツッコミが入る。
 クロメは、伏せ目しながらニヤリと笑う。
 釣れたと思ったのだろう。
 だけど違うからね。普通は、弱そうな冒険者だから絡まれるんだからね。
 クロメの場合は、おかしな格好して絡まれてるだけだから。

 クロメはツッコミをガン無視して、そのままよっこいせと、バーカウンターに座る。
 で、定番のミルクを頼むのだろう。

「マスター! この店で一番強い酒、ダブルで!」

「オイオイ! チビッ子が、強い酒なんか飲んじゃダメだろ!」

 冒険者達から、総ツッコミを受ける。
 多分、中二が邪魔して、クロメは弱っちそうなミルクを頼めなかったのだろう。
 ていうか、何がしたいんだ……まあ、注目だけは浴びてるけど、だけど、冒険者達は、思いっきり中二の格好をした痛いクロメが、変な事しないように心配してるようだ。

 でもって、何故か、強い酒の代わりに、ちゃんとミルクが出てきてるし。

 これは、弱っちい初級冒険者は、強い酒じゃなくて、ミルクでも飲んでろ。と、暗に言ってくれてるように思われる。

 なんか、クロメは舐められた思ったのか、プルプル震えている。黒耳族は舐められたらダメなのだ。強者と思われなければ、全てを失ってしまうのである。だけど、

「ミルクだー!」

 まあ、そうなるよね。お子様のクロメはミルクが大好きだから。そもそも強い酒なんか飲めないし、飲んだ事もないからね。
 どうやら、クロメはバーテンダーに舐められたのではなく、善意でミルクを出してくれたものと勘違いしてしまったようである。

 だけど、クロメよ。ここでブチ切れないで、どこでブチ切れるんだよ?舐められた所で、怒って、自分の凄さを分からせるのが目的じゃなかったのかよ。

 そんなに美味しそうにミルクを飲んでるもんだから、荒くれ冒険者達が、クロメの事を、ほんわか癒されたような顔をして見てるし。もう、これ、絶対に絡まれないよ……

 だけれども、クロメは全て計画通りに進んでると思ってるようである。だって、冒険者ギルドに入って、ミルクまで飲んだからね。

 ゲフッと、ミルクを飲み終わると、クロメは、よいしょと、バーカウンターの椅子から下りる。
 そして、飲んだくれてる荒くれ冒険者の方に進んでいく。

「な……なんか、用かよ?」

 そりゃあ、聞くよね。
 無言で、目の前に立たれたら。
 だけれども、クロメは無言。
 多分、足を掛けられたりしたかったと思われる。切っ掛けないと、何も起こんないし。

 仕方が無いので、クロメは無言のまま荒くれ冒険者達が飲んでるテーブルの周りを、ウロウロ歩き続ける。
 クロメさん。それ相当ヤバい人だから。意味無く普通、人の周りを歩き回らないから。

 もう、冒険者さん達も、ちょっと引いてるからね。既に、ヤバそうなクロメを見守る体制が出来上がってるからね。

 10分くらい歩き周り、冒険者も慣れてきて、クロメを空気のように扱うようになった頃、突然、クロメが立ち止まる。

『どうしたよ。クロメ?』

「ウゥゥゥゥ……卍様……私、無視されてるよぉ……」

 そりゃあ、無視されるだろ。だって、クロメ変な子だし。誰しも自ら関わろうとはしないだろ。相当、変な行動してたからね。
 しかしながら今回は、かなり凹んでいる。
 多分、黒耳族の村に住んでた時の頃を思い出しちゃったのだろう。

 クロメって、黒耳族の村で、居ない子として扱われてたからね。村の大人からも子供からも居ない人間として無視されて育ってきたから、クロメにとって無視される事が一番こたえる行動なのである。

『じゃあ、ちゃんと自己紹介の挨拶をして、自分から話し掛けたらいいんじゃないのか?』

「ウゥゥゥゥ……そんな事したら、格下に見られちゃいます……」

 どうやら、ここでも弱肉強食の黒耳族の掟に縛られてしまってるようである。

 まあ、グラードバッハでは、いつも喋り掛けられてたけど、ここはホームのグラードバッハではないのだ。始めての街では、また最初から人間形成をやり直さなければならない。
 ここは、クロメの親役として、ガツン!と、言ってやるのが俺の仕事なのだ。

『クロメよ。初めて会った人達には、自分から挨拶するのが礼儀だぞ! そして、相手が歳上の人なら尚更だ。今、ここに居る人達の中で、クロメ。お前が一番歳下だろ?
 ならば、クロメから頭を下げて挨拶するのが、人の礼儀ってもんだ!
 礼節を忘れた人間は、その辺の獣と一緒だぞ。獣は挨拶無しに襲い掛かってくるだろ。
 日本の鎌倉武士などは、名前を名乗ってから、戦い始めたという! それが武士道というものだ!』

 俺は、威厳増し増しで、クロメに教えを授ける。

「あの……卍様……私は黒耳族なので、武士というか……世を忍ぶ、忍びなのですけど……」

『そうだったな……』

 俺は、返す言葉が見つからなかった。
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