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128. 安宿
しおりを挟むアニエス神聖国は、アニエス教の聖地てもあるアニエスダンジョンを中心に作られた国である。
アニエスダンジョン自体が純白な綺麗な塔なので、それに合わせて、アニエス神聖国の聖都であるアニエスも、建物が純白で統一された街となっている。
「流石に、こうも真っ白だと目がチカチカするな」
「てすね。だけれども大きな建物は石造りで立派な大理石とかできてますけど、大きな通りを抜ると掘っ立て小屋とかもありますね」
サクラ姫は、よく観察してる。
だけれども、その掘っ立て小屋も、ちゃんと白色のペンキで塗ってるのは凄いと思うんだけど。
まあ、だけれども綺麗だったであろう聖都アニエスも崩壊して落ちてきたダンジョンの瓦礫のせいで、聖都の中心部の大部分が崩壊してしまってたりする。
幸い、聖都の中心部分は、神聖なる女神を祀る神殿も兼ねており、人通りが全くなかったので人の被害は全く無かったとか。
アニエスダンジョンに挑む冒険者達も、聖域を避ける兼ね合いもあり、アニエス冒険者ギルドに設置してる転移陣からアニエスダンジョンに入るらしく、冒険者の怪我人も0だったらしい。
そんな理由もあり、アニエス神聖国は、崩壊したダンジョンから溢れ出た魔物を、女神様が退治した後は、普通の生活に早い段階で戻っていたのであった。
「それにしても人が多いよね!」
アマンダさんが、馬車の上から話し掛けてくる。
アマンダさんは、アニエス聖都に入る時でさえも馬車の上に乗ってたもんだから、アニエス神聖国の衛兵が物凄く驚いていた。
だって、一応、俺達が乗ってる馬車って、マール王家の馬車だもんね。
その馬車の上に、普通、ビキニアーマーの冒険者なんか乗ってないし。
だけれども流石は、プラチナランクの冒険者証書だよね。
文句を言われたアマンダさんが、プラチナランクの冒険者証書を見せたら、衛兵は、
「プラチナ冒険者様でしたか!」
全てが不問にされてしまった。
プラチナ冒険者だと、少しくらいの奇行は全て許されてしまうようだ。
王家の馬車の上にビキニアーマーで乗ってても、プラチナ冒険者の場合はOKのようである。
まあ、プラチナ冒険者になるような者は、みんな変わり者の奴が多いのだろう。
下手に逆らうと、街を破壊される恐れもあるしね。
ん?プラチナ冒険者は、そんなに危ない奴ばかりなのか?
うちの『銀のカスタネット』のナナミさんなんて、既に、バツーダ帝都とエルフ王国と、ここ。アニエスダンジョンをポッキリ折ってるんだから。
そう考えると、プラチナ冒険者は恐ろしいでしょ。
でもって、話が戻って、アニエス聖都に入ったんだけど、アマンダさんが言うように、本当に、人人人。
本来なら、俺らのような王族の一行は、迎賓館のような所に迎えられる筈なのだが、大陸全土から王族やら貴族とかが、女神様にお目通りしようと殺到していて、既に迎賓館はいっぱい。
しかも、聖都中央付近は、ナナミさんが破壊したアニエスダンジョンから落ちて来た破片のせいで、殆どが崩壊してるし。
なので、遅れてきた他の王族やら貴族やらは、聖都の宿屋に泊まる羽目に。
しかも、殆どの高級宿屋は、既に他国の王族やら貴族に押えられていて、俺らは冒険者が泊まるような安宿に泊まる羽目になってしまったのだ。
結構な大国の、マール王国のお姫様がだよ。
まあ、俺ら『銀のカスタネット』は、そもそもが冒険者だから、冒険者が泊まるような安宿でも、実際は平気だけどね。
俺って、そもそも貧乏準男爵家の三男坊だし、アマンダさんも言わずものがな、サクラ姫も、全く安宿でも苦にしない元お転婆お姫様なのだ。
でもって、入った安宿なのだが、本当に荒くれ冒険者が泊まるような宿屋だったらしく、殺伐とした空気とどんちゃん騒ぎが同居するような有り得ない雰囲気の宿屋だったのだ。
分かる?よそ者の冒険者は、取り敢えず、試されるような。そんな感じ。
例に漏れず、1階は飲み屋で、俺達が入った瞬間。どんちゃん騒ぎしてたのが、一瞬静まり返る感じ。
そして、
「オイオイ! ここは嬢ちゃんや子供が来る場所じゃねえぞ!」
いきなり、サクラ姫と俺を見て、荒くれ冒険者に注意されちゃう始末。
まあ、サクラ姫は9歳児だから、どう考えてもこの酒場に来ちゃいけないと思うけど、俺も14歳だからやっぱり、こういう酒場は早すぎたか……
だけれども、宿屋はここしか空いてなかったので仕方が無いのだけど。
空いてた理由も、難攻不落のアニエスダンジョンに挑む荒くれ冒険者御用達の宿屋なので、旅行客とかは、皆回避して他の宿屋に泊まってたりするから。
誰しも、無理して泊まって荒くれ冒険者に絡まれたくないからね。
俺達も別に、アニエス聖都の外で野営してもいいのだけど、流石、アニエス聖都にまで来て、王族が野営するとか体裁が悪いので、この宿屋に泊まる事にしたのだ。
「クックックックッ。いいね!この雰囲気!!」
案外、アマンダさんは、このむさ苦しい男臭い雰囲気が気に入ってるようだ。
まあ、基本、アマンダさんって、男好きだからね。
「おっ! エロい姉ちゃんだけは、ここに残っていいぞ!
嬢ちゃんと、坊主は、早く家に帰って、母ちゃんのオッパイでも飲んでな!」
「オ……オッパイ?!ブゥッーーー!! アンタら、ちょっとからかい過ぎだよ!」
奥の方の席に座った女冒険者が、オッパイという言葉に反応したのか、飲んでたエールを吹き出し、俺達をからかっていた冒険者に注意してくれた。
「だけどよ、マリアンヌ……」
「分かってるよ! ここは女子供が来る所じゃないと言うんだろ?
だけれども、よく見てみな、その子ら結構やりそうだよ!」
なんか無駄に格好良い女冒険者は、この荒くれ冒険者が集う安宿の顔役であるようである。
「嘘だろ?」
どう考えでも、荒くれ冒険者は、俺達の事を疑っている。
「はぁ? 私の見る目を疑ってるのかい?」
「そういう訳じゃないけど?」
「そしたら、そうさね。その男の子と腕相撲とかやってみな。そしたら、その子らの実力が分かる筈だから!」
無駄に格好良くて男前の女冒険者が、勝手に話を進めてしまう。
まあ、俺的には、握手すれば経験値も稼げるし、負ける気も全くしないので吝かではないのだけど。
それにしても、この女冒険者の顔をどこかで見た気がするのは、気にせいか?
そんな事を思いながら、俺は荒くれ冒険者と腕相撲する事となってしまったのだ。
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