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110. 異世界弁当

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 入学早々、ヘルナンド王子の一団と揉めてから、ヘルナンド王子の一団の態度は一変した。

 最初見た時は、周りの生徒達にプレッシャーを掛けていたのだが、今は大人しくしている。
 できるだけ、自分達に関わらないでいてくれといった感じである。

 やはり、最初に力関係を解らせておいたのは正解だった。
 折角、学園生活がギスギスした感じだと嫌だもんね!

 そして現在は、一番歳下で飛び級で入学したサクラ姫がノーブルクラスを纏めてる感じだ。

 まあ、王族だから当たり前なのだけど、いつも思うがサクラ姫の人心掌握術は、王族の中でも飛び抜けてるように思う。

 元々、本気を出すと口は上手かったけど、それに加えて自分自身も強くなって、益々自信を付けているのだ。
 口でも勝つし、己の武力だけでも勝つ。

 多分、ヘルナンド王子もお付の者達からかなり信頼されてるようで、噂でも相当出来る王子だと聞いてたのだけど、サクラ姫と並んでしまうと、完全に霞んでしまう。

 俺の婚約者で、第1夫人は、どうやら思った以上の王女様だったようである。
 下手すると、正義の人であるクレア姫より、マール王国の女王様になる資質があるのではないのか?
 クレア姫は、正義の人過ぎて腹芸は出来ないが、一方、サクラ姫は腹芸も得意。しかも荒事も得意で、自分自身が血を浴びるのも厭わない、ヤバいお姫様なのだ。

 それにしても、学園生活は思ってた以上にたるい。

 ずっとダンジョンやバツーダ帝国で暴れまくってたので刺激が足りない。
 もっと、ヘルナンド王子が問題を起こしてくれたら楽しかったかもしれないけど。
 やはり、最初にやり過ぎてしまったか……

 だって、ヘルナンド王子の野郎、俺のサクラ姫に対して、愛玩ペットにすると言いやがったのだ。そんな事言われたらカチンと来て、やり過ぎちゃうでしょ。

 まあ、一応、王様にヘルナンド王子の護衛を頼まれてるので、今の状況は本来、頂けない状況だ。
 護るべき護衛対象が、どう考えても俺の事を一番警戒してるし。

 なので俺は、一計を案じてヘルナンド王子達と仲直りする作戦を立てたのだ。

 どうやって?

 そんなの普通に話し掛けるだけだよ。

 昼食は、それぞれ食堂で食べたり、持ってきた弁当を教室や学園の敷地内で食べるのだが、俺はその時を狙ってヘルナンド王子一行に話し掛けたのだ。

 ヘルナンド王子は、毒を盛られるのを恐れてか、絶対にバツーダ帝国から連れて来た料理人に弁当を作って貰って昼食を食べてるのだが、俺も、継母に作ってもらった弁当を持参して、ヘルナンド王子の一団が昼食を食べてた芝生の広場に乱入したのだ。

「一緒に、昼食食べようぜ!」

 俺が、ギリギリまで透明スキルで透明になって、いきなり現れたもんだから、ヘルナンド王子の一団は慌てまくる。

「ど……どこから現れた!」

 イチゴ・ストロベリーと言ったか?赤髪ロン毛のヘルナンド王子のお付の者が食べてた弁当をひっくり返して、飛び上がる。

「ん? 普通に来ただけだから」

「嘘つけ! 俺はずっと辺りを警戒しながら弁当を食べてた!
 ここで弁当を食べてたのも、周りを見渡せるからだ!」

「だったら、目が悪いんじゃないか?まあ、人間の視界は虫みたいに360度見える訳じゃないから、絶対に死角はあるよね!」

「俺を、蝿やトンボと同じにするな!」

 何か知らんが、イチゴ・ストロベリーが憤っている。

「まあまあ、はい、コレ! 制服が汚れてるよ」

 俺は、継母に持たしてもらっていたお手拭きなる袋に入った濡れた布巾をイチゴ・ストロベリーに渡す。

「これは何だ?!」

「そん中に濡れた布巾が入ってるんだよ。それで汚れた制服を拭きなって言ってんの!」

「そうか。それはありがとう」

 イチゴ・ストロベリーは、そんなに悪い奴じゃなかったのか、一言、俺にお礼を言ってから汚れた制服をお手拭きで拭く。

「これはいいな!」

「だろ! じゃあ、俺の弁当を分けてやるよ!」

 俺は、少し馴染んだ所でグイグイ行く。
 俺の今日のミッションは、ヘルナンド王子一行との距離を詰める事。
 取り敢えず、実際の距離を詰めてなし崩し的に仲良くなる作戦なのである。

「敵国の人間の弁当など食べる訳ないだろ!」

 イチゴ・ストロベリーは、俺の弁当を拒否する。

「怖いのか?別に、毒とか盛ってないから安心して食べていいぞ」

「怖くなんかない!」

「なら、食ってみろよ。俺の継母が作った弁当は、本当に美味いんだぜ!」

「何言ってやがる! 俺達が帝国から連れて来た超一流料理人の弁当の方が美味しいに決まってるだろ!」

「なら、食べてみろよ」

「ああ、食ってやるよ!」

 イチゴ・ストロベリーは、売り言葉に買い言葉で、継母が作った異世界弁当の定番料理、唐揚げなる鶏肉の揚げ物を食べる。

「なっ?!」

 イチゴ・ストロベリーは、勢いに任せてムシャムシャ食べてたのだが、突然、口が止まる。
 そして、途中から、ゆっくりと、味を味わいながら、口の中から唐揚げが無くなるのを口惜しそうに、全て唐揚げを食べきったのだった。

「どうだった?」

「美味かった……」

「帝国の一流料理人の料理と、どっちが美味しかった?」

「悔しいが、お前の弁当の鶏肉の揚げ物の方が美味しかった……」

 イチゴ・ストロベリーは、嘘が言えないタイプなのか悔しがりながら感想を述べる。

「だろ! うちの継母が作る唐揚げは、ニンニクと生姜が効いて美味いんだよ!」

「ヤバいくらい美味かった」

「もう1つ居るか?」

「もう1つ貰えるのか!」

「いいぞ!」

 イチゴ・ストロベリーは、嬉しそうに唐揚げを取ろうとする。

「イチゴ!」

 それを窘めるように、ヘルナンド王子のお付の者の紅一点。確か、モモ・プルーンと言ったか、桃色ショートのキツめの目をした女がイチゴ・ストロベリーを止める。

「まあまあ、モモさんも食べたら」

「私は食べない」

「そう言わずに、さあさあ」

「食べないと言っている」

「もしかして、怖いの?」

「怖くなどない」

「帝国貴族は、王国の弁当が怖くて食べれないんだな!」

「だから、王国など怖くない!」

「なら、食ってみろよ!」

「ああ!食ってやる!」

 何か知らんが、帝国と絡めて煽ると直ぐに食べてくれる。

「何これ?! とっても美味しい!」

 そりゃあ、そうだろ。
 うちの継母の料理は世界一美味しいのだ。
 なんか、継母の料理を褒められると誇らしく感じてしまう。

「じゃあ、そろそろヘルナンド王子も一口」

「ああ」

 ヘルナンド王子は、流石は王族。ここまでの流れで既に覚悟を決めてたようだ。
 まあ、イチゴ・ストロベリーとモモ・プルーンが毒味もしてるので安心なのかもしれないけど。

「こ……これは……」

 ヘルナンド王子が驚愕してる。

「美味いだろ!」

「美味い!」

「他の料理もあるぞ!」

「貰おう!」

 こうして俺は、継母の弁当を利用して、ヘルナンド王子一行の胃袋を掴み、なんとかヘルナンド王子に近付く事に成功したのだった。

 ーーー

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