上 下
107 / 145

107. ヘルナンド・ヘル・バツーダの邂逅

しおりを挟む
 
 その日、バツーダ帝国の帝都は壊滅寸前まで追い込まれた。

 あの日の事は、よく覚えている。

 突然、帝都の外壁が轟音と共に破裂したのだ。

 ドゴ~ン!! ドゴ~ン!!

 と、何度も響き渡る轟音。
 そして、一度止まったと思ったら、再び更に大きな轟音が響き渡る。

 最初は一番外側の城壁が破壊されていったのだが、どんどん城壁を爆発させる破壊音は城に近付いて行き、そして直ぐ近くの城壁が破壊され、その破片が城にぶつかって城が揺れた時は肝を冷やした。

 見えない敵が攻めて来る恐怖。

 どこからか極大魔法攻撃を受けてるのか?はたまた遠くから砲撃を受けているのか全く分からないのだ。
 ただ、突然、城壁が破壊音と共に、ボコッ!と、穴が開き破裂する。

 城内は、兵士の怒号が響き、城で働く女のメイドや使用人共は恐怖で泣き叫ぶ。
 帝都に暮らす人々も、突然、どこの城壁が爆発するのか分からないので、右往左往。
 どこに逃げれば良いのか、誰も全く分からないのだ。

 自分の部屋に居たバツーダ帝国第3王子ヘルナンド・ヘル・バツーダも、最初の爆発音で、敵国からの攻撃かと思い慌てて部屋を飛び出て、そして、被害の状況を見る為に、城のテラスに出て確認してみたのだが、そこで驚くべき光景を目にしたのであった。

 帝都の一番外枠の城壁が次々に破壊されていき、その石の破片が、飛び散り周辺の家に穴を開けて破壊して行く様子を。

 その有様は、正に地獄絵図。
 帝都に住む人々は、泣き叫びながら逃げ惑い、帝都を守る兵士達も敵がどこから攻めているのか全く分からないので、どうする事も出来ないでいるのである。

 そして、一度攻撃が止まったと思ったら、次は、何重に設置されている。より内側の城壁が突如破壊されるのだ。
 そして城壁の破壊が、どんどん中央に近付いてくる恐怖。
 城のすぐ近くの城壁が破壊された時は、肝を潰した。
 瓦礫の石が城に当たり、城が揺れる。
 このまま、城が破壊されるかと思ったが、次は、また外側の違う城壁が破壊される。

 ヘルナンドは、城が破壊されなくて安堵したが、それでも帝都の城壁という城壁が破壊されて行くのだ。
 もう、帝都は終わった。誰にもどうする事も出来ないし、敵がどこから攻撃してくるか分からないので打つ手が無いのである。

 結局、城壁破壊は夕方まで続き、帝都の城壁の3分の2を。そして街の半分が城壁が爆発して飛び散った石のせいで崩壊。
 たった一日で、帝都は壊滅の危機に陥ってしまったのだった。

 これにより、各地の紛争地帯に派遣されてた兵の殆どが帝都防衛の為に帝都に呼び戻すしかなく、結果として、その時戦争していたマール王国に領土の5分の1を切り取られ、屈辱の停戦を申し込むしか無くなってしまったのだった。

 そして現在は、バツーダ帝国第3王子である自分は、マール王国への人質として、マール王国学園に入学したのだが、そこで更に屈辱を受けたのである。

 バツーダ帝国宮廷魔術師ヨセフ・アッカマンが、予言の子として、マール王国で一番恐れているというサクラ・フォン・マールが突然、自分に絡んで来たのだ。

「初めまして。貴方がバツーダ帝国第3王子、ヘルナンド様ですね!」

 その自分より、4歳も年下の王女は、頭も下げず俺に尋ねてくる。
 こんな屈辱など初めての事だ。

 バツーダ帝国では、誰しも自分に跪き挨拶して来ていたのだ。
 それなのに、年下のサクラ・フォン・マールは、頭も下げずに上から目線で挨拶して来たのである。

 この無礼には、自分以上にお付の者達が激怒する。
 それにも、全くひるまずに、逆に、

「あら?ヘルナンド様は、マール王国の人質だと思ってたのですけど、違ったのでしょうか?
 そんな態度をしていますと、また帝都が穴だらけになってしまいますわよ」

 いけしゃあしゃあと、自分に屈辱の言葉を被せて来たのだ。
 しかも、帝都が壊滅状態になった事を、サクラ・フォン・マールは知っている。
 バツーダ帝国の暗部の調査だと、マール王国はその件について全く関与して居なく、マール王国の上層部もその事について全く知らないという調査内容が出されていたのに……

 やはり、サクラ・フォン・マールは、自分の家庭教師でもあったヨセフ・アッカマンが言うようにバツーダ帝国に将来害をなすであろう予言の子なのか?

 というか、帝都の破壊にサクラ・フォン・マールが関わっているのなら、既に、バツーダ帝国に相当な害を与えている。
 実際に、帝都は壊滅状態まで追い込まれ、帝国の領土の5分の1を奪われ、そして、自分がマール王国の人質にされてしまっているのだから。

 そして、そんなサクラ姫の事を危険視してるバツーダ帝国宮廷魔術師ヨセフ・アッカマンは、自らサクラ姫を始末する為に、自分と一緒に敵国であるマール王国学園の教師として乗り込んだのだ。

 だけれども、サクラ・フォン・マールの防御は相当以上に硬かったようである。
 現在、自分はサクラ・フォン・マールが所属しているというS級冒険者パーティー『銀のカスタネット』の団長であり、サクラ・フォン・マールの護衛騎士であるトト・カスタネットに鼻先に刀を突き付けられて、冷や汗をポタポタと垂れ流しているのだ。

 こいつはヤバイ……
 自分の家庭教師であり、我が師でもあるバツーダ帝国宮廷魔術師で、世界一の魔術師であると言われてるヨセフ・アッカマンと同じくらいの強者のオーラを醸し出しているのだ。

 それに、自分は帝国の王子であるというのに、全く怯む事なく平気で自分に刀を向けた。
 これは本来出来る事ではない。

 自分の行動で、再び、マール王国とバツーダ帝国の戦争が始まってしまうかもしれないのに。
 それなのに、この男が自分に躊躇なく剣を向けて来ると言う事は、マール王国がバツーダ帝国と戦争して打ち勝つ自信があるのか、はたまた、この目の前で、自分の鼻先に刀を突き付けてきてるトト・カスタネットが何も考えてないバカなのか……

 結局、バツーダ帝国第3王子ヘルナンド・ヘル・バツーダは、穏便に事を収める選択をするしかなかったのであった。

 ーーー

 面白かったら、応援してね!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編の予定&完結まで書いてから投稿予定でしたがコ⚪︎ナで書ききれませんでした。 苦手なのですが出来るだけ端折って(?)早々に決着というか完結の予定です。 ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいですm(_ _)m *・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・* 顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。 周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。 見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。 脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。 「マリーローズ?」 そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。 目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。 だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。 日本で私は社畜だった。 暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。 あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。 「ふざけんな___!!!」 と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

大嫌いな聖女候補があまりにも無能なせいで、闇属性の私が聖女と呼ばれるようになりました。

井藤 美樹
ファンタジー
 たぶん、私は異世界転生をしたんだと思う。  うっすらと覚えているのは、魔法の代わりに科学が支配する平和な世界で生きていたこと。あとは、オタクじゃないけど陰キャで、性別は女だったことぐらいかな。確か……アキって呼ばれていたのも覚えている。特に役立ちそうなことは覚えてないわね。  そんな私が転生したのは、科学の代わりに魔法が主流の世界。魔力の有無と量で一生が決まる無慈悲な世界だった。  そして、魔物や野盗、人攫いや奴隷が普通にいる世界だったの。この世界は、常に危険に満ちている。死と隣り合わせの世界なのだから。  そんな世界に、私は生まれたの。  ゲンジュール聖王国、ゲンジュ公爵家の長女アルキアとしてね。  ただ……私は公爵令嬢としては生きていない。  魔族と同じ赤い瞳をしているからと、生まれた瞬間両親にポイッと捨てられたから。でも、全然平気。私には親代わりの乳母と兄代わりの息子が一緒だから。  この理不尽な世界、生き抜いてみせる。  そう決意した瞬間、捨てられた少女の下剋上が始まった!!  それはやがて、ゲンジュール聖王国を大きく巻き込んでいくことになる――

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

結婚三年、私たちは既に離婚していますよ?

杉本凪咲
恋愛
離婚しろとパーティー会場で叫ぶ彼。 しかし私は、既に離婚をしていると言葉を返して……

処理中です...