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93. サクラ姫のお爺ちゃんは、孫バカだった

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 俺達、『銀のカスタネット』は、トランペット辺境伯の馬車で、トランペット城塞都市の中央付近にある城に連れてこられてしまった。

 流石は、辺境伯の城というか無骨でデカい。質実剛健というか、無駄な装飾などなく、ただバツーダ帝国の防衛の為の城といった感じだ。

 そして、トランペット辺境伯が居ると思われる謁見の間に行くと、ガタイの良い立派な髭を生やした50代くらいのオッサンが待っていたのだった。

「サクラよ! 久しいな!」

 多分、トランペット辺境伯と思われる人物は、良く通る大きな声でサクラ姫に話し掛けてきた。

「ハイりお久しぶりでございます。お爺様」

 サクラ姫は、ナナミさんが、ミスリルシルクスパイダーの糸で作ったワンピースの端を両手で持ち、貴族風の挨拶で返す。

「な……なんと、あのお転婆サクラが、敬語で、しかも挨拶したじゃと!?」

 トランペット辺境伯が、心底驚いている。
 サクラ姫って、どんだけお転婆だったんだよ……

 まあ、自分の枕を作るだけの為に、スライムの生き〆殺しを覚えるくらいにはお転婆だったのだろう。

「私も、もうすぐ妻になる身。これぐらいの事、当然でございます」

 サクラ姫は、にべもなく答える。

「なんと! そ奴が、噂のカスタネット伯爵か?!
 サクラを呪いから救ってくれたとは聞いてるが、それでもワシは許さんぞ!
 サクラは、大きくなったらお爺ちゃんと結婚すると言ってた程のお爺ちゃん子だったのだ!
 毎年、夏になると、王都より涼しいトランペット辺境伯領に訪れて、毎日、ワシと遊んでくれてたのに……」

 なんか、サクラ姫が、トランペット辺境伯に会いに行かなかった理由が分かった。
 トランペット辺境伯は、生粋の孫バカだったのだ。
 会いに行ってたら、多分、塔のダンジョンの攻略どころでは無くなってた。

「確かに私は、毎年トランペット領に遊びに来ていましたが、それはスライムの生き〆殺しを極める為に、集中特訓する為!」

「じゃから、ワシがトランペット領の兵士を使って、活きの良いスライムをたくさん集めてやったじゃろ」

「それは感謝していますが、私はもう大人なんです! トランペット伯爵の第一夫人として、他の夫人の模範になる為に威厳が必要なのです!」

 サクラ姫は、そういうとナナミさんとアマンダさんを見る。

「うん。サクラはよくやってる。たまに僕にお小遣いくれるし」

「サクラちゃんは、優しい第一夫人だよ」

 サクラ姫って、ナナミさんにお小遣いまでやってたのかよ。
 というか、金の力で従わせてる?
 以外とナナミさんって、小金を稼ぐのも好きだし、ナナミさんを従わせるのはお小遣いを上げるだけで良いのか。

「なんと! その歳にして、他の夫人達に慕われておるとは、流石はワシの孫じゃ!」

 どこに感動する場面があったのか、トランペット辺境伯は、鼻水垂らしながら感動して泣き出してしまった。

「そういう事ですから、これで失礼致します」

 サクラ姫、凄くクール。まだ8歳児の子供なのに。
 どう考えても、トランペット辺境伯より大人だ。

「ちょっと待てい! ワシが何もせずに返すと思ったか!
 サクラよ。ワシに頬ずりさせてくれ!」

「私はもう、レディーで大人です。子供の頃のような事など、絶対にしません!」

「ぜ……絶対に……じゃと……
 昔は、ワシに頬ずりされるのが大好きなお転婆娘じゃったのに……」

 トランペット辺境伯は、想像以上にショックを受けている。

「では」

 サクラは、もうここには用はないとばかりに、踵を返す

「ならば、カスタネット伯爵よ! ワシと勝負せい!」

「えっ?! 何で俺が」

 俺は、突然、振られて驚く。

「当然じゃろ!ワシの可愛い孫娘を目取ろうといのじゃ! ならばお爺ちゃんである、ワシを越える事が当然であろう!」

 父親が、娘をやらん!というのは良く聞くが、お爺ちゃんがそれを言うのは初めて聞いた。

 サクラ姫の家族の場合、父親のマール王が俺とサクラ姫の結婚に乗り気だったから、ちょっと新鮮な感じがしてしまう。
 まあ、この熱い熱量で何度もちょっかい出されるのも面倒なので、俺も、サクラ姫の爺さんと戦うのはやぶさかではない。

「いいですよ。やりましょう! その代わり、僕が勝ったら、サクラ姫との結婚を認めてもらいます!」

「きゃぁぁぁーー!! トトったら」

 何か知らんが、サクラ姫が真っ赤な顔をして嬉しがっている。

「私も、あんな事言われたいな」

「僕も言われてみたい。だけど、うちのお爺は、おっととトト君の事を認めて大好きだから決闘にはならない……」

 アマンダさんとナナミさんも、なんか言っている。

「クックックックッ。ワシと勝負すると? 言質は、しかと取ったからな。ワシに負けて、サクラから手を引くが良い!」

 何故か知らんがトランペット辺境伯は、自信満々である。
 もしかして、トランペット辺境伯って、物凄く強いのか?

 だけれども、俺の『握手』スキルの派生スキル、剣を持てば剣豪になれるスキルを持つ俺には勝てないだろ?

「じゃあ、やりますか?」

 俺は、余裕綽々に、愛剣、十一文字権蔵の鞘に手を置く。

「ちょっと、待った! 誰が剣術で勝負すると言った!
 勿論、腕相撲での勝負と決まっておろうが!」

「へ?」

 俺は、もう、へ?て、言うしかない。
 多分、塔のダンジョンを攻略したパーティーの団長なので、俺の剣術の腕は相当なものだろうと、トランペット辺境伯は思ったのだろう。

 そして、腕相撲なら俺に、確実に勝てると思ってしまったのかもしれない。
 それほど、俺とサクラ姫を結婚させたくないのだ。

 だがしかし、俺、どちらかというと腕相撲の方が強いのだけど……
 まあ、マール王都の自由市場で結構、腕相撲をして負けてるけど、それはわざと負けてる訳で、本気を出せば誰にも負けない自信がある。

 もしかして、トランペット辺境伯……俺の事を調べてる?
 それも、結構、中途半端に。又聞きじゃ、俺の腕相撲の実力は絶対に分からないというのに。

 ただ、トランペット辺境伯は、俺がよく腕相撲大会をやって、結構、負けてるという情報しか持って無いようだ。

 ガタイの良いトランペット辺境伯は、もう、勝ち誇った顔をしてるし。
 まあ、13歳の大人になり切ってない体の俺に負けるなんて、微塵に思わないよね。

 トランペット辺境伯って、実際、メチャンコ強そうだし。

 サクラ姫とか、あ~あ……て、顔してるし。

 だから、俺はトランペット辺境伯と勝負してやりました。
 もう、俺にちょっかい掛けてこないように、瞬殺で。

「もう1回だけ!」 と、再戦を求められないように、腕相撲の台ごと壊してやりました。

 そして、あらぬ方向に折れてしまったトランペット辺境伯の腕を『癒し手』のスキルで、一瞬に治してあげましたよ。

 で、どうなったか?

 まあ、ここまでされたら俺を認めるしかないでしょ!

「流石は、我が孫サクラの旦那様じゃ! このワシを瞬殺とは、見所がある男である!」

 俺は、何故か知らんが、トランペット辺境伯のぶっとい腕で抱きかかえられ、5分ほど頬ずりされてしまう。

 どうやら、トランペット辺境伯は、認めた者を頬ずりする性質であるようだった。

 ーーー

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