93 / 166
93. サクラ姫のお爺ちゃんは、孫バカだった
しおりを挟む俺達、『銀のカスタネット』は、トランペット辺境伯の馬車で、トランペット城塞都市の中央付近にある城に連れてこられてしまった。
流石は、辺境伯の城というか無骨でデカい。質実剛健というか、無駄な装飾などなく、ただバツーダ帝国の防衛の為の城といった感じだ。
そして、トランペット辺境伯が居ると思われる謁見の間に行くと、ガタイの良い立派な髭を生やした50代くらいのオッサンが待っていたのだった。
「サクラよ! 久しいな!」
多分、トランペット辺境伯と思われる人物は、良く通る大きな声でサクラ姫に話し掛けてきた。
「ハイりお久しぶりでございます。お爺様」
サクラ姫は、ナナミさんが、ミスリルシルクスパイダーの糸で作ったワンピースの端を両手で持ち、貴族風の挨拶で返す。
「な……なんと、あのお転婆サクラが、敬語で、しかも挨拶したじゃと!?」
トランペット辺境伯が、心底驚いている。
サクラ姫って、どんだけお転婆だったんだよ……
まあ、自分の枕を作るだけの為に、スライムの生き〆殺しを覚えるくらいにはお転婆だったのだろう。
「私も、もうすぐ妻になる身。これぐらいの事、当然でございます」
サクラ姫は、にべもなく答える。
「なんと! そ奴が、噂のカスタネット伯爵か?!
サクラを呪いから救ってくれたとは聞いてるが、それでもワシは許さんぞ!
サクラは、大きくなったらお爺ちゃんと結婚すると言ってた程のお爺ちゃん子だったのだ!
毎年、夏になると、王都より涼しいトランペット辺境伯領に訪れて、毎日、ワシと遊んでくれてたのに……」
なんか、サクラ姫が、トランペット辺境伯に会いに行かなかった理由が分かった。
トランペット辺境伯は、生粋の孫バカだったのだ。
会いに行ってたら、多分、塔のダンジョンの攻略どころでは無くなってた。
「確かに私は、毎年トランペット領に遊びに来ていましたが、それはスライムの生き〆殺しを極める為に、集中特訓する為!」
「じゃから、ワシがトランペット領の兵士を使って、活きの良いスライムをたくさん集めてやったじゃろ」
「それは感謝していますが、私はもう大人なんです! トランペット伯爵の第一夫人として、他の夫人の模範になる為に威厳が必要なのです!」
サクラ姫は、そういうとナナミさんとアマンダさんを見る。
「うん。サクラはよくやってる。たまに僕にお小遣いくれるし」
「サクラちゃんは、優しい第一夫人だよ」
サクラ姫って、ナナミさんにお小遣いまでやってたのかよ。
というか、金の力で従わせてる?
以外とナナミさんって、小金を稼ぐのも好きだし、ナナミさんを従わせるのはお小遣いを上げるだけで良いのか。
「なんと! その歳にして、他の夫人達に慕われておるとは、流石はワシの孫じゃ!」
どこに感動する場面があったのか、トランペット辺境伯は、鼻水垂らしながら感動して泣き出してしまった。
「そういう事ですから、これで失礼致します」
サクラ姫、凄くクール。まだ8歳児の子供なのに。
どう考えても、トランペット辺境伯より大人だ。
「ちょっと待てい! ワシが何もせずに返すと思ったか!
サクラよ。ワシに頬ずりさせてくれ!」
「私はもう、レディーで大人です。子供の頃のような事など、絶対にしません!」
「ぜ……絶対に……じゃと……
昔は、ワシに頬ずりされるのが大好きなお転婆娘じゃったのに……」
トランペット辺境伯は、想像以上にショックを受けている。
「では」
サクラは、もうここには用はないとばかりに、踵を返す
「ならば、カスタネット伯爵よ! ワシと勝負せい!」
「えっ?! 何で俺が」
俺は、突然、振られて驚く。
「当然じゃろ!ワシの可愛い孫娘を目取ろうといのじゃ! ならばお爺ちゃんである、ワシを越える事が当然であろう!」
父親が、娘をやらん!というのは良く聞くが、お爺ちゃんがそれを言うのは初めて聞いた。
サクラ姫の家族の場合、父親のマール王が俺とサクラ姫の結婚に乗り気だったから、ちょっと新鮮な感じがしてしまう。
まあ、この熱い熱量で何度もちょっかい出されるのも面倒なので、俺も、サクラ姫の爺さんと戦うのはやぶさかではない。
「いいですよ。やりましょう! その代わり、僕が勝ったら、サクラ姫との結婚を認めてもらいます!」
「きゃぁぁぁーー!! トトったら」
何か知らんが、サクラ姫が真っ赤な顔をして嬉しがっている。
「私も、あんな事言われたいな」
「僕も言われてみたい。だけど、うちのお爺は、おっととトト君の事を認めて大好きだから決闘にはならない……」
アマンダさんとナナミさんも、なんか言っている。
「クックックックッ。ワシと勝負すると? 言質は、しかと取ったからな。ワシに負けて、サクラから手を引くが良い!」
何故か知らんがトランペット辺境伯は、自信満々である。
もしかして、トランペット辺境伯って、物凄く強いのか?
だけれども、俺の『握手』スキルの派生スキル、剣を持てば剣豪になれるスキルを持つ俺には勝てないだろ?
「じゃあ、やりますか?」
俺は、余裕綽々に、愛剣、十一文字権蔵の鞘に手を置く。
「ちょっと、待った! 誰が剣術で勝負すると言った!
勿論、腕相撲での勝負と決まっておろうが!」
「へ?」
俺は、もう、へ?て、言うしかない。
多分、塔のダンジョンを攻略したパーティーの団長なので、俺の剣術の腕は相当なものだろうと、トランペット辺境伯は思ったのだろう。
そして、腕相撲なら俺に、確実に勝てると思ってしまったのかもしれない。
それほど、俺とサクラ姫を結婚させたくないのだ。
だがしかし、俺、どちらかというと腕相撲の方が強いのだけど……
まあ、マール王都の自由市場で結構、腕相撲をして負けてるけど、それはわざと負けてる訳で、本気を出せば誰にも負けない自信がある。
もしかして、トランペット辺境伯……俺の事を調べてる?
それも、結構、中途半端に。又聞きじゃ、俺の腕相撲の実力は絶対に分からないというのに。
ただ、トランペット辺境伯は、俺がよく腕相撲大会をやって、結構、負けてるという情報しか持って無いようだ。
ガタイの良いトランペット辺境伯は、もう、勝ち誇った顔をしてるし。
まあ、13歳の大人になり切ってない体の俺に負けるなんて、微塵に思わないよね。
トランペット辺境伯って、実際、メチャンコ強そうだし。
サクラ姫とか、あ~あ……て、顔してるし。
だから、俺はトランペット辺境伯と勝負してやりました。
もう、俺にちょっかい掛けてこないように、瞬殺で。
「もう1回だけ!」 と、再戦を求められないように、腕相撲の台ごと壊してやりました。
そして、あらぬ方向に折れてしまったトランペット辺境伯の腕を『癒し手』のスキルで、一瞬に治してあげましたよ。
で、どうなったか?
まあ、ここまでされたら俺を認めるしかないでしょ!
「流石は、我が孫サクラの旦那様じゃ! このワシを瞬殺とは、見所がある男である!」
俺は、何故か知らんが、トランペット辺境伯のぶっとい腕で抱きかかえられ、5分ほど頬ずりされてしまう。
どうやら、トランペット辺境伯は、認めた者を頬ずりする性質であるようだった。
ーーー
面白かったら、お気に入りにいれてね!
107
お気に入りに追加
874
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます
兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~
有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。
主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。
魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど
富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。
「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。
魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。
――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?!
――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの?
私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。
今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。
重複投稿ですが、改稿してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる