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80. ミスリルシルクスパイダー

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 次の日、久しぶりにマール冒険者ギルドに、ナナミさんが59階層に到達した事を報告しに行った。

 昨日、『ドラゴンズアイ』が、57階層に到達してお祭り騒ぎだったのか、冒険者ギルドには酔い潰れた人がたくさん転がっていて、相当、酒臭い。

 多分、『ドラゴンズアイ』が、調子に乗って、冒険者ギルドに居た人達、全員にタダ酒でも奢ったのだろう。

 俺は、何故か、とても申し訳ない気持ちになってしまう。
 だって、『ドラゴンズアイ』の団長さんが、とても気持ち良さそうに、大いびきで眠ってるんだもん。
 まさか、一日天下だったなんて、俺は可哀想過ぎて、団長さんの顔をマトモに見る事が出来ない。

 それは置いとて、俺達は、取り敢えず、空いてる冒険者カウンターに向かう。

「アッ! 久しぶりですね。『銀のカスタネット』の皆さん!
 知ってますか? 昨日、『ドラゴンズアイ』の皆さんが、『銀のカスタネット』が保持してた、マールダンジョン最高到達記録を抜いてしまったんですよ!」

 受け付けのお姉さんが、何故か、テンション高めに話し掛けてくる。
 普通は、そういうセンシティブな話を、抜かされた本人達にテンション高めに言うもんじゃないと思うのだけど。
 まあ、この受け付けのお姉さんは、これぐらいの事じゃ、俺達が動じないと思ってるのだろう。

「知ってます。昨日、直接、『ドラゴンズアイ』の皆さんに聞きましたから」

 俺は取り敢えず、なんとも思ってない感じで答える。
 だって、ナナミさんは、それ以上の事をしでかしてるし、その事を今から話さないといけないと思うと、本当に頭が痛い。

「そうだったんですか! それで、『銀のカスタネット』の皆さんも、本腰入れて、マールダンジョンの攻略に出ると言う事ですね!」

 なんか、受け付けのお姉さんは勘違いしてる。

 きっと、俺達『銀のカスタネット』は、『ドラゴンズアイ』に最高到達記録を抜かされて悔しがってると。
 そして、『ドラゴンズアイ』から、マールダンジョン最高到達記録を奪回しようと、ダンジョン攻略に本腰を入れる為に、久しぶりにマール冒険者ギルドに訪れたと。
 受け付けのお姉さんは、勘違いしているのだ。

「ハイ。コレ、鑑定して」

 ナナミさんが、全く空気を読まずに、魔法の収納ポーチから、57、58階層でゲットしたドロップアイテムを並べる。

 どうやって、受け付けのお姉さんに話せば良いかと考えてた俺がアホみたいだ。

「コレは何ですか?」

「鑑定してくれたら、分かる」

 ナナミさんは、いつも通りマイペース。
 受け付けのお姉さんは、ギルドの鑑定員を呼びに行く。

 そして、

「こ……これは、シルクスパイダーの糸?」

 なんか、鑑定員さんが、驚いている。
 それ以上に、受け付けのお姉さんが騒ぎ出す。

「えっ?! なんですって! シルクスパイダーの糸って、バツーダ帝国の通称スパイダーダンジョンでしか取れない高級品ですよ!
 まさか、今まで、ギルドに顔を出さなかったのって、『銀のカスタネット』の皆さんは、バツーダ帝国まで遠征に行ってたんですか!」

 確かに、俺達は、バツーダ帝国に向かおうとしていたが、ずっと国境付近の、塔のダンジョンで篭っている。

「フフフフフ。コレは、マールダンジョンの58階層でドロップした素材。そして、こっちが58階層のフロアーボスを倒した時、ドロップした素材」

 ナナミさんは、さっきのシルクスパイダーの糸より、もっとツヤツヤな糸を受け付けのお姉さんに見せる。

「なんですって!」

 受け付けのお姉さんは、俺達というか、ナナミさんが57階層のフロアーボスを倒した事より、シルクスパイダーの糸より、もっとツヤツヤな糸の方が気になるようである。

「ええと、コレは……まさか……」

「コレは、絶対にそうですよ!」

 鑑定員さんが、ツヤツヤの糸を手に取って鑑定する。
 でも、鑑定する前に、既に何か分かってるようだ。
 受け付けのお姉さんなんか、テンション上がり過ぎて失神しそうだし。

「やはり、コレは、ミスリルシルクスパイダーの糸ではないね。
 これだけで、800万マールはしますよ!」

 鑑定員は、ワナワナ震えながら宣言する。

「ちょっと、ギルド長を呼んで来ます!」

 受け付けのお姉さんは、大慌てで、ギルト長室に走って行く。

 そして、余っ程の事だったのか、すぐに冒険者ギルド長が、受け付けのお姉さんに連れられてやって来た。

「なんと、コレは、本当にミスリルシルクスパイダー糸なのか……
 是非、このミスリルシルクスパイダーの糸をギルドに売ってくれ!」

 ギルド長が、いきなりナナミさんに頭をさげる。

「これは、僕が使うから売らない」

 そりゃあ、ナナミさんならそうなるよね。
 ナナミさんは、権蔵爺さんと自分が使う素材集めする為に、冒険者してる訳だし。
 尚更、良い素材なら自分で使うよね。

「なんと……」

 ギルド長は、とても残念がっている。
 多分、ナナミさんが売っても、きっと権蔵爺さんが買ってしまうので、結局は、同じ事のように思うのだけど。
 まあ、ギルドにマージンだけ取られて、ナナミさんが損するだけだし。

「では、58階層に、どこでも扉を是非!」

 まあ、そうなるよね。
 だって、マールダンジョンの58階層には、貴重なシルクスパイダーの糸や、ミスリルシルクスパイダーの糸が取れる事が分かったのだから。

「イヤ」

 ナナミさんは、速攻で拒否する。
 これは、最初から決めてたから、予定通りり

「でしたら、57階層に」

「56階層のどこでも扉を、57階層に設置し直すならいい。
 そして、どこでも扉の移動料金は、500万マール必要!」

「了解しました! それで手を打ちましょう!」

 ギルド長は、2つ返事でOKした。

 どこでも扉を移動させるだけで、500万マールって、吹っ掛け過ぎだと思うけど、ギルド長からしたら、58階層が金になる階層だと分かったのだ。

 是が非でも、少しでも簡単に58階層に行けるようにしたいのだろう。

 そんな感じで、ギルド長も連れて、最初から設置してあったと思われる57階層に、どこでも扉でワープ。
 ついでに、ギルド長がどうしても、58階層のスパイダーステージを見たいというもんだから、実は58階層にも設置してある、どこでも扉でワープ。

 スパイダーステージを確認した、ギルド長は、泣いてこのまま58階層に、どこでも扉を設置したままにして、と頼んで来たがナナミさんは全拒否。
 約束通り、56階層の どこでも扉を撤去して、ギルドの依頼を達成して500万マールゲットしたのだった。

 ナナミさんは、500万マールを、その場で貰ってウホウホ。

 多分、ギルド長は、各国から凄腕冒険者を呼び寄せて、58階層でシルクスパイダーや、ミスリルシルクスパイダーを狩りまくるつもりなのだろう。
 それで、元を取るつもりなのかもしれない。

 まあ、それだけの実力者が何人居るか知らないけど。

 だけど、ギルド長は、ナナミさんにシルクスパイダーの糸を定期的に納品してもらう契約をしていた。

 ナナミさんも、自分で使うミスリルシルクスパイダーの糸以外ならOKと、快く快諾。

「グフフフフ」

 今日は、ナナミさんのニヘラ笑いが止まらない1日と、なったのだった。

 そして、『ドラゴンズアイ』の面々が、酔いから覚めて、現実を受け入れるのに数日掛かったのは、言うまでも無い話だった。

 ーーー

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