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74. 63階層

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 俺達『銀のカスタネット』は、塔のダンジョンを攻略する事と決め、現在63階層に来ている。

「ウオリャ~!!」

 アマンダさんが最近お気に入りの大剣バスターソードで、魔物をぶった切っている。
 結構、重そうなので、疲れてしまいそうだと思うのだが、お構い無し。

 バーサーカー化しても、俺の『癒し手』の派生スキルでHPを分けて貰えれば良いと思ってるのだ。

「楽しー! 楽しいよぉ~!」

 もう、アマンダさん悦に入っちゃってるし。
 目が血走って怖いのだけど。
 多分、今のアマンダさんは、バーサーカー化すればプラチナ冒険者レベルなのかもしれない。

 63階層の結構強いと思われる魔物も、バッタバッタと斬り倒しちゃうし……

「私も、負けてられません」

 サクラ姫も、その良すぎる目で、これまた63階層の結構速い動きをする魔物に、レイピアで一撃必殺の経絡秘孔突きをカマしていく。

 というか、サクラ姫のスピードもトンデモなく速くなってるし。
 サクラ姫の場合は、パワーを捨てて、スピード全振りという感じで育っていってるようである。

 本当に、蝶のように舞い、蜂のように刺すと言った感じだ。

 まあ、サクラ姫の場合、パワーの無い8歳のお子様なので、この戦い方しか出来ないのだけど。

 これで、13歳でスキルを得たらどうなるのだろう……考えただけで目眩がする。

 でもって、俺?

 俺のメインは、現在、アマンダさんのHP管理と、それから、いつもギリギリの線で魔物の攻撃を避けてるから、擦り傷、生傷が絶えないサクラ姫の治療係。

 本当に、アマンダさんもサクラ姫も、リスキー過ぎる戦い方をしてるのだ。
 盾役が出来るナナミさんがいれば良いのだけど、ほら、ナナミさんって天才肌の自由人だから、今は権蔵爺さんの王都の武器屋建築に没頭してるんだよね。

 権蔵爺さんの店を世界一立派な店にしてみせる!って、燃えてるのだ。
 多分、ナナミさんが本気を出したらトンデモない事になると思うのだけど。
 だって、あんなに立派な『銀のカスタネット』のパーティーハウスだって、たった1日かそこらで作っちゃったんだよ。

 結構、権蔵爺さんの店に付きっきりだから、本当にどうなる事やら……
 多分、王都の土地を与えた王様が、驚き過ぎて目玉が飛び出ること間違い無し。

 まあ、ナナミさんが居ないのは、しょうがない事なので、俺も自分が今やるべきベストの事をやるのだ。

 レベルが上がって強くなってしまったアマンダさんのバーサーカー化は、俺でも止めれるか分かんないし。
 なので、早め早めに、アマンダさんが疲れる前にHPを分け与えないといけないのだ。

 簡単に言うと見極めが肝心。いい塩梅に疲れてる状況を保てれれば、アマンダさんの最高のポテンシャルを発揮させれるという訳。

 それにしても、アマンダさんもサクラ姫も、戦いが大好きだ。

 アマンダさんは、見るからに戦いが大好きそうな格好してるから分かるけど、サクラ姫まで……

 まあ、サクラ姫も、スライムの生き〆を極める為に、幼少期にスライムを狩りまくってた変わり者の姫様だけど。

 こっちとしては、本当にハラハラするんだよね。
 サクラ姫なんて、まだお子様だから防御力無いのに。ましてやA級冒険者しか来れない63階層の魔物と戦ってるんだよ。
 一撃でもマトモな攻撃を食らったら大怪我じゃ済まないかもしれないのに。

 今のサクラ姫の戦い方を、王様が知ったら、俺、絶対にぶっ殺されると思うし。

 そんな感じで、63階層を攻略して行き、とうとう63階層のフロアーボス部屋に到着したのだった。


「扉を開けるぞ!」

「うん!」

「了解!」

 俺の言葉に、サクラ姫とアマンダさんが返事をする。

 俺が扉を開けると、サクラ姫とアマンダさんが、フロアーボス部屋に飛び込んで行く。
 本当になんなんだろう。全く2人とも躊躇無いのだけど……
 ここの階層に来れるのも、一握りの冒険者だけなのに……本当に、二人とも、頭のネジが外れたバトルジャンキーだったようだ。

 そして、どうやら63のフロアーボスは、ミノタウロスじゃなくて、ミノタウロスキングであるようだった。
 ミノタウロスキングの両脇に、2体のミノタウロスジャネラルまで居るし。

 サクラ姫とアマンダさんは、それぞれミノタウロスジェネラルに挑んでいる。

 という事は、残る一体、ミノタウロスキングは、俺の分?

 サクラ姫とアマンダさんは、こういう所で、カスタネット子爵家の家長である俺を立てるのである。二人共、根っからのバトルジャンキーなのに。

 俺的には、2人が、ミノタウロスキングを倒してくれても良いのだけど。

 まあ、ミノタウロスキングを殺れというなら殺るよ。
 俺も男の子で、冒険者なのだ。

 フロアーボス戦なんて、心踊らないはず無いのである!

「やってやんぜ!」

 俺は、腰に差してあった、愛刀 十一文字権蔵をスラリと抜く。

 その様子を見てた、ミノタウロスキングもニヤリと笑う。
 どうやら、ミノタウロスキングも武の者であったらしい。

 3メートル以上もあろう巨体が、これまた2メートルはあろうバトルアックスを振りかぶるのだ。

 迫力あり過ぎて、少し怖気付きそうになるが、俺より小さくて非力なサクラ姫だって頑張ってるのだ。
 俺は、決して家長として『銀のカスタネット』の団長として、引く訳にはいかないのである。

「ウオリャーー!!」

「ウガオーー!!」

 ガキン!!

 十一文字権蔵と、ミノタウロスキングの巨体なバトルアックスが重なり、火花が飛び散る。

 全く、十一文字権蔵は負けて居ない。
 逆に、巨大なバトルアックスの方が歯欠けしてるし。

「フッ。負ける気しねーな!」

 俺は、確実に強くなっている。
 ミノタウロスキングの巨体からフリ下ろさたバトルアックスの攻撃に耐え切れる程の筋力も、レベルアップにより身につけられた。

 元々、『握手』スキルの派生スキル、剣を握れば剣豪になれる派生スキルを持ってたのだ。
 なので技術はある。後は、己の肉体の強さだけの問題だったのだ。

 俺は、レベルアップでパワーを身に付けられた。
 逆に、サクラ姫は、パワーを捨ててスピードと正確性だけを身に付けた。

 多分、レベルアップとは、成りたい自分に体が強化される事なのだろう。
 スキルと同じように。
 そして、有り得ない環境であればあるほど、レベルアップの成長の度合いも変わるのだ。

 今のサクラ姫のように。

 サクラ姫の成長の仕方は異常だ。

 普通、8歳児が塔のダンジョンの63階層で戦えない筈なのだ。

 しかし、実際、サクラ姫は、63階層で戦えている。
 確かに、レベルアップはしてるが、スピードと正確性のステータスだけが、極端に上がるなんて普通考えられないし。

 兎に角、俺が『握手』スキルを得た時と同様、人がやらないような極端な行為を子供の時からしてると、極端な成長を成し遂げられるのを、俺は、サクラ姫を見て確信した。

 レベルアップもスキルも基本は一緒。自分が願えば願うほど、理想の自分に進化出来るのである。

 まあ、願うと言っても、成りたい自分になる常軌を逸した努力も必要なのだけど。

 俺みたいに、子供の頃から深い井戸を掘ったり、サクラ姫のように、8歳のお子様なのにA級やS級冒険者しか来れないような階層で戦ったりね。

 それにしても、本当に、俺の正妻サクラ姫が、どう育っていくか楽しみである。

 ん? そんな話より、フロアーボスは、どうなったって? 戦ってた筈だよね?だって。

 そんなの瞬殺だよ。

 俺達、『銀のカスタネット』って、どうやら、トンデモなく強かったみたいだし。

 というか、成長して強くなったのだ。有り得ない努力によってね。

 やった努力が、確実に返ってきて、しかも、しっかり成長して強くなれる世界って、本当に最高だよね。

 俺達は、どこまでも強くなるのだ。

 サクラ姫は、倒さなくても良いと言ったけど、俺は絶対に、バツーダ帝国宮廷魔術師ヨセフ・アッカマンを倒すつもりだし。

 俺の将来の正妻を手に掛けようとした奴を、絶対に許せるかっていうの。

 俺は、その為に、誰よりも強くなろうと、努力し、頑張っているのだから。

 ーーー

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