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59. 継母クライシス

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 俺とリーナとサクラ姫は、一緒にお風呂に入ってる。
 王様にバレたら、殺されないのかって?

 そんなのバレたらね。

 サクラ姫の護衛係も、31階層の俺達のパーティーハウスにまでは来れないのだ。

 まあ、正直、1階の誰でも使える共用スペースまでは来れるかもしれないが、2階からの『銀のカスタネット』のパーティーハウスには、絶対に入れない。

 だって、『銀のカスタネット』以外のメンバーが、2階の扉の中に入るには、1億マール必要だから。
 しかも、いつも通り、鍵穴の中に1億枚マール金貨を入れないといけないので、1枚1枚入れるのに時間がかかり過ぎて、絶対に気付くしね。

 まあ、そんなバカな事する人居ないと思うけど。
 1人だけ居るとしたら、王様ぐらいなんだけど。

 でもって、サクラ姫とリーナは、仲良く洗いっこしてる。
 エロい気持ちならないのかって?
 まあ、リーナは実の妹だし、いつも一緒にお風呂に入ってたので慣れてる。
 サクラ姫も、俺の中で妹枠なので、全くエロい気持ちにならないのだ。ロリコンでもないしね。

 それにしても、パーティーハウスの風呂は最高。
 勿論、お城のお風呂の方が凄かったけど、カスタネット準男爵家のお風呂と比べると雲泥の違い。
 だって、俺とサクラ姫とリーナの3人が入っても、まだ湯船に余裕が有るし。6人ぐらいまでなら、一緒に湯船に入れる程の広さなのだ。

 因みに、風呂桶は木で作られており、木の良い香りがして気持ちが良い。
 まあ、31階層って、木がふんだんに有るからなんだけど。
 兎に角、珍しい事は確かだ。
 普通のお風呂って、大理石やタイルや陶器で作られてるからね。

 俺の実家のカスタネット準男爵家のお風呂は、陶器で出来ていて、子供の俺とリーナが2人でギリギリ湯船に入れる大きさだった。
 大人なら1人しか入れない大きさだ。
 まあ、陶器で風呂を作ろうとしたら、それぐらいの大きさが限界なのだろう。

 それにしても、サクラ姫が居ると本当に楽だ。
 リーナの相手をしてくれるし。
 実家で風呂に入ると、リーナがずっと抱きついてきて大変だったし。

 今日は、サクラ姫の目もあるので、俺にイチャついて来ないし、ゆっくりお風呂につかれて、本当に極楽。
 これからは、リーナがパーティーハウスに遊びに来た時は、サクラ姫も誘って3人でお風呂に入った方が良いかも。

 でもって、夕食も食べて、リーナも相当疲れていたのだろう。サクラ姫の部屋で、速攻で熟睡。

 そして、朝を迎え、朝食も一緒に食べ、リーナが実家に帰る所で事件が起きたのだ。

 パーティーハウス1階にある、どこでも扉が置いてある牢屋部屋に入ったのだが、そこには憔悴しきった継母が倒れていたのだ。

 俺は、驚き過ぎて二度見してしまう。

「なんで、まだ居るの!?」

 本気に意味が分からない。
 だって、どこでも扉に1万マール金貨を入れれば、元の場所に帰れるのだ。
 どこでも扉の鍵穴にも、1万マールと書いてるし。

 余っ程、パーティーハウスに入りたかったのか? やはり、本気に意味が分からない。

「お母さん! 」

 牢屋の鍵をタダで開けれる設定になってるリーナが、牢屋の中に入って、倒れてる継母に抱きつく。

 継母は、俺に対しては嫌がらせしてくるが、実の娘であるリーナに対しては、普通のお母さんなのだ。

「リーナ……」

 まだ、何とか意識はあるようだ。
 ずっと、ここに居たとしたら、一昨日の夜から居たという事か?
 1万マールがあったら、簡単に帰れるのに。

 ん? もしかして、継母は、1万マール持って無かったのか?
 良く考えたら、継母って、家の中で俺達の事を伺ってて、そのまま俺達に付いて来てしまったのだ。

 普通、自分の家に居て、財布など持ち歩かないか……

 まさか、自分の家から王都近郊のマールダンジョンの31階層に転移するなんて思わないし……

 しかも、帰りに1万マール必要って、誰しも分からない。
 今回は、たまたま2日間で気付いたが、これからも1万マール持ち合わせがなくて、牢屋部屋に置き去りにされちゃう人が、続出するかもしれない……

 でもって、1ヶ月間も、俺達がどこでも扉を使わなかったら、牢屋の中で飲まず食わずで干からびた死体が完成するという訳だ。

 このナナミさんが考えたシステム、全くダメじゃん!

「お兄ちゃん! お母さんを助けてあげて!」

 リーナが、泣きながら懇願してくる。
 俺的には、継母が弱ってる事に、何も感情が湧かなかったから、ほっといたんだけど、リーナが俺に頼んで来るならしょうが無い。

 俺は、リーナの頼れるお兄ちゃんでありたいのだ。
 過去に、どれ程、俺に嫌がらせして来た継母だったとしても、リーナと天秤と掛けると、リーナの方が勝ってしまうのだ。

「お兄ちゃんに、任せとけ!」

 俺は、『握手』スキルの派生スキル、『癒し手』で、継母の手を握り、回復してやる。

 すると、痩せこけていた継母がミルミル回復していき、元の継母の姿に戻ったのだった。

「ありがとうございます。トトさん」

 継母は、俺を見つめて、感謝の言葉を述べて来る。
 本当に、むず痒い。継母が俺の事をトトさんと呼ぶのも慣れないし、そもそも、ありがとうなんて言われた事がないのだ。

 継母が、俺に言うのは、井戸を掘りなさい。だけだったし。

「お兄ちゃん! お母さんを助けてくれてありがとう!」

 リーナまで、俺にありがとうと言ってくる。
 まあ、リーナの場合は、俺が継母の事を嫌いな事を、よく知ってる。
 それでも、俺が継母を助けた事を、本当に感謝しているのだろう。

 俺的には、どんなに継母が憎かったとしても、リーナの頼みだったら、王様であろうと、魔王であろうと、誰でもぶっとばすんだけどね。

 俺を、散々、いじめ抜いた継母程度、リーナが許せと言えば、許してやってもいいし。
 俺は、リーナの為なら寛容な男になれるのだ。

「トトさん。本当にありがとう」

 何故か知らないが、継母の胸に押し付けられ抱かれてしまった。
 何故か、悪い気はしない。これが母親の愛情?

 俺は、物心ついた時には、実の母親は、継母に虐められて失踪していた。
 そう、俺は、母親の愛情を知らずに育って来たのだ。

 なんか知らんが、継母の胸に抱かれて、ウルっと来てしまう。
 あんなに憎んでた継母なのに……

 俺は、それ程、母親の愛情に飢えていたのか……
 継母が、俺が泣いてるのに気付いたのか、俺の頭をヨシヨシしてくる。

 チキショー! 俺の弱味に漬け込みやがって、少し嬉しい反面、グツグツと怒りが込み上げてくる。

「この野郎! 俺は、お前を許した分けじゃないんだからな!
 リーナが、助けてあげてと言ったから、助けてやっただけで、お前がリーナの母親じゃなければ、絶対に、助けなかったんだからな!」

 俺は、継母が調子に乗るといけないので、必死に釘を刺しておく。

「分かってます。私が貴方にした事は、今更、謝っても許されない事を。それでも私は、トトさんに謝りたいのです」

「お兄ちゃん、お母さんを許してあげて」

 リーナまで、俺に瞳に涙貯めてお願いしてくる。
 クソー! 俺の可愛いリーナまで使いやがって……

「お兄ちゃん、お願い……」

「クソー! 分かったよ! 許すよ! 許してやるよ! 本当は許してないけど、リーナが許せというなら、お前を許してやる!」

 俺は、本当に、リーナに甘いお兄ちゃんである。

「トトさん。ありがとう!」

 再び、俺は継母に捕まって胸に抱かれた。
 継母は、多分、俺が母親の愛情に飢えてる事を分かってる。
 だから、継母の胸に抱かれて頭をヨシヨシされる事に、俺が抗えない事も良く分かってるのだ。

 俺の継母は、そういう計算高い女なのだ。
 それが分かってるのに、俺という奴は、継母の胸に抱かれて嬉しい気分になってしまうのだ。

 本当に人間の感情って、分からない。
 兎に角、俺の心のモヤモヤは、リーナの為という事で、今回は口を塞ぐ事にする。

 今は、ただ、母親の愛情という物を満喫しよう。
 それが、偽物の愛情だったとしても、俺の心は、何故か満たされてしまっているのだから……

 ーーー

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