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492. 明日に向かって走り出す
しおりを挟む「ご主人様! 聞きましたよ! 一体何やってるんですか!」
夜、シロが俺の部屋に慌ててやって来た。
サセックス帝国学校の入学式が終わり、クラス発表が行われた後、俺は、自分の寮の部屋で引き篭っていたのだ。
勿論、シロが魔改造する前の3階最奥の部屋である。
「シロ。俺の頭の中を読んでくれ」
俺は、シロに命令する。
「エッ! まさか、死に戻り? 学園内で殺されたんですか!」
シロは、驚きながらも、目をつぶって、俺の頭の中を読む。
「なるほど。なるほど。1周目の学園生活は、結構、上手くやってたんですね!
しかし、学食で誰かに精神攻撃を受けて、それから殺されて、死に戻りしたと……。
という事は、犯人は、魔女マーリンですね!」
シロは、自信満々に犯人を言い当てた。
「魔女マーリンのデスサイズでしか、俺を殺せないからか?」
「そうです! ご主人様を殺せるのは、デスサイズと草薙剣だけですので!」
「そんなに簡単だと思うか?」
俺は現在、俺の為なら平気で死ねる、下僕のシロしか信用出来ないでいる。
「違うんですか?」
「わからん! 俺の事を大好きな魔女マーリンが、俺を殺すと思うか?」
「好きさが振り切って、自分だけのものにしようとして、殺したとか?」
「まあ、それも有り得るが、メフィストとか、キャメロットとかにも、俺を殺す動機がある!」
「メフィストは、ご主人様の魂を利用して、悪魔王ルシファーを、この世界に召喚しようとしてるんですよね?
そんでもって、キャメロットさんは、『恋愛イチャイチャ キングダム』のヒロインさんで、イレギュラーである、主人公体質のご主人様が邪魔だったと……」
「そうだ!」
「そして、金髪縦巻きロールさんや、小カール君、そして、貴族の子息達は、元々、敵国の人間だったので、征服者であるサセックス家のリコリット様を恨んでると?」
「そういう事だ!」
俺は、大きく頷いた。
「メフィストやキャメロットさんは、兎も角、貴族の子息達が、ご主人様を恨んでるとは思えませんけど?」
「恨まれてる! 入学式が終わった後、金髪縦巻きロールに嫌味を言われたし!
他の貴族連中にも、白い目で見られてたんだぞ!」
俺は、シロに反論する。
「それは、ご主人様が、入学式の生徒代表の挨拶で、『私に、2メートル以上近寄らないで下さい。 豚臭が移りますので』とか、酷い事、言ったからでしょ!」
「それは、しょうがないだろ! 俺は狙われてるんだ!
警戒するのは当たり前なんだよ!
友達だと思ってる奴に、至近距離から刺されたりするかもしれないんだぞ!」
「それで、2メートル離れろと?」
「そうだ!」
「なら、豚臭は余分でしたね!」
「自分の体から豚臭がしてると思ったら、人に近付かなくなるだろ!」
「ワキガですか!」
シロが、人として、最低最悪なツッコミを入れてきた。
「兎に角、最初の作戦としては、成功なんだよ!」
「そうですかね……ただ、暴走したとしか思えませんけど」
シロが、とても呆れている。
「五月蝿い! そしたら、何で、俺の傍に居なかったんだ!」
「そんなの知りませんよ! どうせ、今回の作戦は失敗するんですから、次に死んだ時は、直ぐに、僕の所に来て下さいよ!」
「何おー!」
バキッ!
俺は、ムカついたので、シロの顔面をグーパンしてやる。
しかし、高レベルのシロには、全く効かなくて、逆に、俺の手首が捻挫してしまった。
「やりやがったな!」
「やりやがったな! って、ご主人様が、勝手にやったんでしょ!
見せて下さい! エリクサー掛けてあげるから!」
「ありがとう……」
俺は、何か嬉しくなっちゃって、素直に頭を下げる。
「ハイハイ。謝るなら、最初からやらないで下さいね!
僕、中途半端に殴られるの嫌いですから。
ヤルなら、半殺しにするぐらいの覚悟で殴って下さい!」
「そんなの、今の低レベルの俺じゃあ、無理だろ!」
「そしたら、殴らないで下さい!」
「了解!」
てな、感じで、シロとの話し合いは終わったのだった。
「終わってないです! 何、頭の中で、サラッと、完了してるんですか!
ご主人様は、ただ、サセックス帝国学校の生徒達を、敵にまわしただけですよ!」
シロが、怒りながら突っ込んできた。
「そうなの?」
「そうですよ! 全員、敵で、どうやって、犯人を炙り出すんですか!」
「それは、シロが……」
「僕の管轄は、貴族寮の中までです!
学園内では、ご主人様に手を貸せません!」
「そうなの?」
「そうです! ペーター校長の方針で、学生達の自主性を重んじる為に、大人は学園の争い事に介入出来ないんです!」
まさかの新事実。
「なら、シロは、まだ、子供じゃん!」
「年齢は、子供でも、サセックス王国と、サセックス帝国連邦の要職についてますから、無理ですね!」
「そしたら、どうしたらいいんだよ!」
俺は、頭に来て、シロを怒鳴る。
殴ってやりたかったが、中途半端に殴ると怒られるから、止めといた。
「クラリスと、ウサウサに、手を貸して貰って下さい!」
「そんなの無理に決まってるだろ! 俺、さっき、クラリスに唾を吐きかけられたぞ!」
「それは、ご主人様が、生徒達に豚臭がすると言ったから!
狼耳族は、誇り高い種族なので、豚とか言われる事を嫌うんですよ!」
「そんな事言ったら、オークに失礼だろ!」
「それはそうですけど、今は、クラリスとウサウサに頼るしかないんです!
あの二人は、確実に、ご主人様を殺した犯人では無いですから!」
「何で、分かるんだよ!」
「ウサウサは、白蜘蛛教の敬虔な信者で、僕の事を神と崇めてますし、クラリスは、ブリトニー姉様の事を慕ってますから!
ブリトニー姉様に可愛がられてる僕に、逆らう事は、絶対にありません!」
「全部、シロの力かよ!」
「僕の力は、ご主人様の力です!
言ったでしょ! ご主人様は、漢の高祖 劉邦を目指すんです!
人を頼って下さい! 自分に能力が無くても、能力が高い部下に丸投げしちゃえばいいんですよ!
それで、劉邦は中国統一したんですから!」
「俺に、能力が無いというのかよ!」
俺はシロの、歴史を絡めた高度なディスり褒めに反論する。
「能力は、有りますよ! ご主人様は、僕を手に入れたでしょ!
ミレーネさんだって、メアリーさんだって、アナスタシアさんだって、ケンジだって、ご主人様を慕ってるじゃいですか!
ご主人様は、自分じゃ気付いてないかもしれませんけど、物凄い人たらしなんですよ!」
「俺が、人たらしだって?」
「そうです! 駄目で、グーダラで、要領は悪いけど、本当は真面目なご主人様を、みんなほっとけ無いんですよ!」
「それって、俺がダメ人間って事じゃねーかよ!」
「違うんですか?」
シロが、真顔で返してきた。
「ん……違わないかな……」
「兎に角、クラリスとウサウサの事は任せて下さい!
今から、クラリスとウサウサに話を付けて来ますから!
学園内で、ご主人様の仲間が居ないと、何も始まりませんしね!」
シロが、俺の為に、段取りをしといてくれるらしい。
「シロ。お前って奴は、なんて、ご主人様思いなんだ!」
「僕の仕事は、ご主人様の無理難題を叶える事ですから! なので、今日の所は、安心して早く休んで下さいね!」
シロは、そう言うと、クラリスとウサウサが居る、平民寮に向かったのだった。
そして、俺は、シロに言われたように、早く寝る事にした。
多分、明日は忙しくなると思うしね。
しかしながら、深い眠りについた俺に、明日が訪れる事は無かったのだ。
ーーー
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