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426. 惰性

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 耳栓を付けた、魔王討伐部隊は、スタンピードが起きているダンジョンに足を踏み入れる。

 まあ、魔王討伐と言っても、多分、まだ、魔王は誕生していないと思うけど。

「メフィスト・フェレスが、せっせっと集めてた魂を使って、魔王を誕生させる計画だったと思いますよ!」

 シロが、俺の頭の中を読んで解説する。

「それで奴ら、デスサイズで魂を狩ってたのかよ!」

「悪魔召喚の基本は、魔力量と、人間の魂の数が、基本になりますから!
 その量により、召喚出来る悪魔の格が決まってくるんですよ!
 より大物の悪魔を、地獄から現世に受肉させる為には、膨大な魔力と、人の魂が必要なんです!」

「ん? 悪魔? 魔王を誕生させるんじゃなかったのか?」

 俺は、疑問を口にする。

「魔王を誕生させるだけだったら、わざわざダンジョン内で魂を狩ったりしませんね!
 ダンジョン内で、魔物や人がたくさん死ねば、ダンジョン最下層のラスボス部屋に魔素がたくさん溜まって、ダンジョンが勝手に魔王を産み落とす仕組みです!」

「じゃあ、メフィスト・フェレス達は、悪魔を召喚する為に、魂を集めてたと?」

「魔王誕生と、悪魔召喚の為の魂集めを同時にしてたんですね!
 そして、序でに、魔王の体を悪魔の器にする為に」

「なんですって!」

 何故か、俺よりアナスタシアの方が驚いた。

「もう、アナスタシアさんが抱えてた問題を越えて、上の段階に進んでるんですよ」

 シロが、冷静に回答する。

「異界の悪魔の登場だけでも想定外なのに、新たに生まれる魔王を器にして、悪魔を召喚するなんて……マーリンは、一体、何をする気なの……」

「もう既に、マーリンさんの思惑を越えてると思いますよ!
 マーリンさんが、メフィスト・フェレスを召喚してしまった段階で」

 シロは、淡々とした口調で、アナスタシアに説明する。

「魔女マーリンが、自分の力量以上の異界の悪魔を召喚してしまったという事か?」

 俺は、考えこんでいるアナスタシアの代わりに、シロに尋ねる。

「ですね! 神器デスサイズで溜め込んだ魂を一気に解放したんですよ!
 神器は時空も時間も死に戻りも関係有りませんから。ご主人様の良質な魂を、デスサイズは何度も吸収してますからね!」

「俺の死に戻りが原因かよ!」

「黒髭が、デスサイズで殺してきた人間の魂だけで、異界の悪魔を同時に2匹も召喚できませんからね!」

 アナスタシアの顔から血の気が引いて、真っ青な顔になる。

 まあ、魔王対策の為に、自分が用意した『始祖の指輪』のせいで、この絶望的な状況を生み出してしまったので、無理もない。

「メフィスト・フェレスは、お父さんには全然敵いませんが、相当な高位の悪魔です。
 そして既に、主導権は、完全にメフィスト・フェレスにあると思います!」

 ファザコンのシロが、再び、メフィストが、アマイモンより下だと強調する。

「で、そのメフィスト・フェレスは、魔王の体を器にして、誰を召喚しようとしてるんだ?」

 そう、魔王を器にするくらいなのだ、そんじゅそこらの悪魔を召喚しようとしてる訳ではないと予想できる。

「メフィスト以上の存在、七つの大罪悪魔や、ソロモン72柱の上位の悪魔を召喚しようとしてると考えられますね!」

「南の大陸には、七つの大罪悪魔が、結構、既に召喚されてるだろ?」

 俺は、疑問を口にする。

「暴食ベルゼブブ、強欲マモン(アマイモン)、色欲アスモデウス、怠惰ベルフェゴールは、既に、南の大陸に召喚されてますね!
 まあ、南の大陸に既に召喚されてる悪魔達は、この世界には召喚されないと思いますよ!」

「七つの大罪悪魔なら、残り3枠。というか傲慢ルシファーと、憤怒サタンは同一人物だから、よく考えたら後2人。
 ルシファーと、嫉妬のレヴィアタンだな!」

「ですね! そして、多分。メフィストが召喚しようとしてたのは、ルシファーでしょ!
 メフィストは人気な悪魔ですから、色んな小説に出てきますけど、マーロウの『フォースタス博士』に登場するメフィスト・フェレスは、ルシファーに仕える悪魔という事になってますから!」

「メフィストは、ベルゼブブに仕える悪魔じゃなかったのかよ!」

「それぞれの作品によって違いますね!」

「それぞれの作品って、空想かよ!」

「悪魔や天使、それから神は、あやふやな存在ですから、認識されたり、噂話や伝承、物語、詐欺師の嘘、小説、映画、アニメ、色々な媒体から登場し、たくさんの人にその存在を認識された時点で、実体化するんです!」

「全ての可能性が、真実で嘘という事か?」

「誰かが信じた時点で、それはもう現実なんです!
 ある詐欺師が、自分の事を、神と名乗ったとして、誰かがその詐欺師の事を神と信じた時点で、その信じた人にとって詐欺師は、本物の神になるんですから!」

 シロが、哲学的なウンチクを垂れた。
 多分、シロも、その論理で、神に至ろうとしてるのかもしれない。

 新興宗教が、安価な壺を高値で売付けるんじゃなくて、800万もする超高級魔道具の白蜘蛛ネックレスを、5000円で売って。

「失敬な! 僕は、お金儲けの為にネックレスを売ってるんじゃないんです!
 神の領域まで自らを高める為に、本当にご利益があるネックレスを、安価な値段で売ってるんです!」

 シロが食入り気味に、訂正してきた。

「だから、何で、そこまでして神を越えたいんだ!」

「何度も言ってるでしょ! アラクネの習性だって!
 ご主人様だって、スケルトン時代、人肉食いてぇーー!とか、脳ミソ食いてぇーー!とか、不快な声で叫んでたでしょ!
 それと一緒ですよ!
 僕だって、何で神を越えようとしてるのか、解んないんですから!」

 どうやらシロは、深い考えがある訳ではなく、アラクネの習性というか、惰性で神越えを頑張ってたようであった。

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