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189. マオパイパイ再び(1)

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「黒髭達、どこにも居ませんね……」

「そりゃ、そうだろ。海は広いからな。今も必死に俺達を探してるんだろ」

 俺達は、ドーナツ島の穴の真ん中の船着場で、ボーとしている。
 もしかしたら、黒髭達が居るかもと思って緊張して入って来たのだが、拍子抜けだ。

 どうやら黒髭達は、この時期、ドーナツ島を見つけていなかったようである。

「どうするんだよ!」

 メアリーが、俺に聞いてくる。
 メアリーは、ヤル気満々だったのだ。

「探すしかないだろ」

 黒髭海賊団は全軍率いて、この海域を探索中の筈。
 この海域でフラフラしてたら、そのうち、黒髭海賊団の方から見つけてくれるだろう。

 そんな訳で俺達は、ドーナツ島から少し離れた場所で釣りをしながら、のんびり待つ事にした。

「来ませんね……」

「そりゃあ、全軍率いて俺達を探してると言っても、海は広いからな」

 とか、シロと話していると、

「ご主人様、来てますよ!」

「黒髭か?!」

「違います! 竿が引いてるんですよ!」

「おっ! 本当だ!」

 今まで一度も当たりが無かったのに、竿がいきなりグニャリとしなっている。

「結構、大物みたいですよ!」

「ああ、この引きはマグロかもしれないぞ!」

「やりましたね! ご主人様が唯一食べれるマグロですよ!」

 シロが適当な事を言ってくる。

「刺身だったら、カツオの叩きと、平目の刺身も食べれるけどな!」

 一応、シロを正しておく。
 俺は、マグロの刺身も好きだが、平目の刺身とカツオの叩きも同じように好きなのだ。
 勝手に勘違いされて、食卓に平目の刺身とカツオの叩きが出てこなくなったら悲しくなるからね。

「分かってますって! それより、今日の夕飯は、マグロの刺身パーティーですね! 
 一番美味しい大トロは、全部ご主人様のものですよ!」

「お前、俺が大トロだけ食べれれないの分かって言ってるだろ!」

「バレました?」

「バレてるよ!」

 シロはイタズラがバレた子供のように、ペロッと舌を出す。

 とか、やってると、

「おい! 釣りしてる場合じゃないぞ!
 黒髭海賊団が現れたぞ!」

 黒髭海賊団と早く戦いたいからと、ずっと釣りをしないで見張り台から魔道式望遠鏡で辺りを見回っていたメアリーが、俺達に報告してきた。

「こんな時に!」

 俺的に、今は、黒髭よりマグロだ。
 完全にマグロパーティーの頭になっていたのに、今更、黒髭なんかと戦いたくない。
 死んじゃったら、マグロパーティー出来なくなっちゃうし。

「ご主人様! 早く釣り上げて下さい!」

 シロも、俺と心が一緒のようだ。
 まあ、シロの場合、俺がマグロと言えばマグロ。黒髭海賊団と戦うと言えば戦うのであろう。

「当たり前だ! 今日の夕飯は、マグロパーティーって、気持ちになっちゃってるんだよ!
 絶対に、このマグロを釣り上げて、黒髭海賊団から逃げきるぞ!」

「オオーー!!」

「ちょっと待てーー! 私達は、黒髭海賊団を戦う為に、海で待ってたんじゃなかったのかよ!」

 メアリーが、俺とシロの会話を聞いて、慌てて見張り台から飛び降りてきた。

「五月蝿い! 俺の頭の中には、もう夕飯のマグロの刺身パーティーの事しか無いんだよ!
 マグロの刺身を食べずして死んだら、死んでも死に切れないだろ!」

「って、お前、死んでも死に戻るんじゃなかったのかよ!」

「た……確かにそうだが、今の俺の気分は、マグロの刺身パーティーなんだよ!
 兎に角!
 オリ姫、全速力で追っ手を振り切るのだ!」

「キュイ!」

 俺の号令に、オリ姫は元気に返事をする。

「オイ! セドリック! お前、適当というか、自由過ぎるぞ!」

「自由で、何が悪い!
 異世界転生ものの主人公は、異世界で自由に生きると決まってるんだよ!」

「異世界転生ものって、何だよ!」

「異世界転生ものは、日本で流行りのなろう系だよ!」

「なろう系?」

「これだから、日本を知らない奴と喋るのは面倒臭んだ!」

「クッ! 返す言葉が無い……」

 アホなメアリーには、取り敢えず、日本を出して置けば何とかなるようだ。

「分かったら、俺の代わりにマグロを釣り上げとけ!」

「承知した」

 俺は、メアリーにマグロを任せて、魔道式望遠鏡で黒髭海賊団の様子を伺う。

「って?! エエェェェェェェーーーー!!」

 俺が望遠鏡で黒髭海賊団の方を見ると、白髪の中華服を着た爺ちゃんが、海の上を全速力で走って来ていた。

「ご主人様! マオパイパイです!」

 どうやら、シロもマオパイパイの存在に気付いたようだ。

「何でアイツ、海の上を走れるんだよ!」

「マオパイパイだからじゃないですか?」

「だから、何でマオパイパイだと走れるんだよ!」

「ドラゴン〇ールの武天老師と同じ立ち位置の設定なら、海の上ぐらい走れるでしょ」

「確かに……なら、か〇はめ波とかも、放ちそうだな」

「フラグですか?」

「フラグというか、あの白髪の爺が、か〇はめ波を放たない方がおかしいだろ?」

「確かに」

 とか、話してると、

「とぉーー!」

 いつの間にか、ゴールデンスカル号の目の前まで来ていたマオパイパイが、海を蹴り、華麗にジャンプして、ゴールデンスカル号の甲板に飛び移って来た。

 しかし、

「なんじゃ、こりゃ!」

 マオパイパイが、素っ頓狂な声をあげる。

「デジャブですね」

「ああ、デジャブだな」

 マオパイパイは、前回と同様、シロが予めてゴールデンスカル号に張り巡らせておいた蜘蛛の巣に、まんまと自分から飛び込んでいたのだった。

 ーーー

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