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76. アムルー冒険者ギルド

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 薄暗い階段を上がっていくと、懐かしい炭火の匂いが漂ってくる。

 光が差し込むアムルーダンジョンの入口に近づいてくると、目の前に屋台が現れ、その先には、活気漲るアムルー城塞都市の街並みが見えてくる。

 階段に上がっている時から気になっていた食欲そそる炭火の匂いは、どうやら冒険者時代、よくお世話になっていた焼き鳥屋の匂いのようだ。
 今でも、昔と変わらず大勢の冒険者で賑わっているようで、とても忙しそうである。

 と、アムルーダンジョンの外はこんな感じなのだが、今の俺には、そんな感慨に浸るような人の心など持ち合わせていない。

 何故なら今の俺は、闇の血族バンパイア。

 どうやら、バンパイアになってしまった俺は、人の血より、バンパイアの血の方が色濃くなってしまっているようだ。

 で、実際の俺は、こんな感じ。

「ウオォォォォォ……! 太陽光だぜーー!
 遂に、俺は、バンパイアの悲願、太陽光を克服したのだーー!」

 と、勢い余って絶叫してしまっていた。

「ご主人様……そんな大きな声で、自分がバンパイアだと正体を明かしたら駄目ですよ……」

 シロが、小声で注意してくる。

「そ……そうだったな……スマン。ただ、種族の悲願が達成されたので、とても感動してしまったのだ」

「種族の悲願って……ご主人様がバンパイアになったのって、たったの2日前ですよ!」

「まあ、そうだけど……」

 確かに、俺がパーフェクトレッサーバンパイアに進化したのは、2日前だ。
 しかし俺の中では、もう、100年ぐらいバンパイアをやってる気分なのである。

「兎に角、人がジロジロ見てますから、冒険者ギルドに移動しますよ!」

 俺はシロに連れられて、冒険者ギルドに移動する事にする。
 というか、アムルー城塞都市は、俺の生まれ故郷なのに、なんでシロに案内されないといけないのだ?

「オイ! シロ、案内は要らぬ! 何故ならアムルー城塞都市は、俺の生まれ故郷なのだ!
 お前は、俺の下僕らしく、俺の1メートル後を着いてくるがよい!」

 俺は、ご主人様らしく、シロに命令する。

「そうですか……それならお願いします」

 シロは、大人しく命令に従う。
 そして、俺は、ご主人様らしく、シロを後ろに引き連れて、アムルー冒険者ギルドまで歩くのだった。
 しかし、いつまで経ってもアムルー冒険者ギルドは見つからない。

 おかしい……。

 何故、どこにも無いのだ?
 というか、ここは何処だ?

「シロー!」

 俺は、ノビ〇くんが、ドラ〇もんに助けを求めるみたいに、シロに涙目で助けを求める。

「ハイハイ、こんな事になるのは分かってましたよ!
 ご主人様は、脳ミソ無かった時期が長すぎて、アムルー城塞都市の道を忘れてしまっただけですからね。
 決してアホになった訳では無いので、気を落とさないで下さいね!」

 シロは、いつものように悪気なく、俺をディスりながらも励ましてくれる。

「シロー!」

 俺は、そんなシロの事を、頼もしくも愛らしくも思い、思わず勃起してしまうのだ。

「チ〇コ痛てぇよぉぉぉーー!」

 こんな感じで、結局、シロに案内されて、俺は、アムルー冒険者ギルドに到着した。

 そして俺は、アムルー冒険者ギルドの扉の前で、ドキドキしながら突っ立ている。

 手がブルって、俺は扉を開く事が出来ないのだ。

「ご主人様、入らないんですか?」

 シロが、見兼ねて話し掛けてくる。

「入りたいんだけどな……しかし、ここには、俺の事を知ってる奴が確実に居るだろ……そう思うと、俺は、緊張してブルってしまうんだよ……」

「そんなに、知られていると不味い事があったんですか?」

「全く、何も覚えてないから、逆に怖いんだよ!」

 俺は、思わずシロに本音をぶつける。

「大丈夫ですよ! ご主人様には、僕がついてますから!
 もし、ご主人様が、冒険者時代に誰かに悪さしていて、人に恨まれるような悪人だったとしても、僕だけは、いついかなる時もご主人様の味方ですからね!」

「シロー……お前という奴は……」

 俺は、シロの事がますます好きになり、思わず勃起してしまう。

「チ〇コ痛てぇよぉぉーー!」

 やはりというか、俺のチ〇コに激痛が走り、絶叫してしまうのだった。

 そんな感じで、俺がもんどり打って苦しんでいると、
 突然、冒険者ギルドの扉が開き、酒臭く生暖かいギルド特有の匂いが、扉から外に向けて吹き抜けてきた。

「お前……何をしてるんだ?」

 俺は、股間を押さえながら声がする方を見上げると、
 ギルドの扉の前に、いかにも荒くれな冒険者が怪訝な顔をして、俺の事を睨みつけていた。

「いやその……」

 俺は、この、いかにもの状況を誤魔化そうと考えるが、言葉が浮かんでこない。

「お前まさか、その娘に、ちょっかい掛けて、股間を蹴られたのか!」

「いや、違うから!」

 俺は、全力で否定する。

「お前、その娘にだけは、手を出さない方が身の為だぞ。
  その娘は、あるド偉い貴族のお嬢様で、S級パーティー『鷹の爪』の上客だぞ。
 今日は、『鷹の爪』がギルドに来てないから助かったけど、もし、『鷹の爪』に、その娘にちょっかい掛けてる所を見られていたら、お前、『鷹の爪』に殺されてたぞ!」

「そ……そうなんですか……」

「当たり前だろ! 特に、その娘を神のように崇めているロリコンのケンジなんかに見つかってみろ!
 その場で、一刀両断にされてしまうからな!」

 どうやら、シロは、ロリコンのケンジに崇められているようである。

 唯一、俺の記憶が曖昧になる前に思い出す事が出来たケンジは、確かに度が超えるロリコンであった。
 刀の腕が立たなければ、ただのキモいロリコン野郎であったのだ。

 いつも、童顔のドワーフ娘を追っ掛けてたし、風俗も、『ロリッ娘クラブ』に通っていた。

「兎に角、俺は、この娘に何もしてません!
 ただたまたま、冒険者ギルドの門の前で、風俗で昔もらった性病が疼いただけです!」

「そうか……て、性病?……お嬢ちゃんは本当に、このヤバそうな男に何か変な事されてないのかい?」

「して欲しいけど、されてません!」

 シロは、真剣な顔をして、荒くれ冒険者に答えた。

「……」

 俺と、荒くれ冒険者のオッサンの間に、微妙な空気が流れる。

 まあ、こんな感じで、俺は何年振りかのアムルー冒険者ギルドの扉を開く事に成功したのであった。

 ーーー

 ここまで読んで下さりありがとうございます。
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