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62. シロの大冒険(3)
しおりを挟むシロは雑談室で、片栗粉が届くのを待ちながら、セッセッとアナスタシアの服を作っている。
「シロ様が着ているローブと同じような金色の刺繍を、スカートの方にも縫ってもらえると有難いのですが……」
「了解!」
シロは、アナスタシアの注文を了承する。
そんな感じで、服作りをしていると、
トントン!
と、雑談室の戸を、叩く音がした。
「ハーイ!」
アナスタシアが返事をして、雑談室の戸を開けると、
ラインハルトが、坊主頭で、髭ズラのガタイの良い親父を連れて来ていた。
「姐さん、アムルー冒険者ギルド長が、挨拶したいって言うんで、連れてきやしたぜ!」
「ふ~ん……」
シロは、アナスタシアの服を作りながら生返事をする。
「お初にお目にかかります。私(わたくし)アムルー冒険者ギルド長をしておりますブルースと申します。以後お見知りおきを」
アムルー冒険者ギルド長ブルースは、シロの様子を観察しながら、深々と頭を下げる。
「僕はシロ、偉大で至高で崇高でピカピカの名無しの骨の王の第一の下僕だよ」
シロは、アナスタシアの服作りに集中してる為、やっつけな感じで、アムルー冒険者ギルド長ブルースに目を向けず答える。
そんなシロを、アムルー冒険者ギルド長は、暫くジッと、見つめる。
すると、
「何見てるの」
突然、シロが、アムルー冒険者ギルド長の方を向き、剣呑な目付きで、アムルー冒険者ギルド長を睨みつけた。
「オイ……まさかブルース……姐さんを鑑定したんじゃ……」
ラインハルトが、なんて事をしてくれたんだと、アムルー冒険者ギルド長の顔を見る。
「オイ、 ラインハルト、お前ら、こんな小娘相手に、何ヘコヘコしてるんだ?」
丁寧な言葉遣いをしていた、アムルー冒険者ギルド長のブルースが、人が変わったかのような言葉遣いに変わった。
「ブルース、お前、何て事を言いだすんだ! 姐さんに謝れ!」
ラインハルトは、慌てて、アムルー冒険者ギルド長に謝るように即す。
「シロ様に向かって、正気なの?!」
アナスタシアも、アムルー冒険者ギルド長の言葉に、耳を疑っている。
「ガタガタガタ……」
そしてケンジはというと、何故か、土下座をして震えだしている。
「お前らこそ、何いってんだ?
コイツのステータスを確認したのか?
今、コイツのステータスを鑑定スキルで確認したら、B級冒険者並のステータスだったぞ?」
「そ……そんな訳、ある筈無いだろ!
姐さんに喧嘩売って、ケツの穴に木の枝を突っ込まれた冒険者の中には、A級冒険者もたくさんいたんだぞ!」
「そうよ! シロ様の本当のプレッシャーを受けた事が無い人が、何、適当な事言ってるのよ!」
「ガタガタガタ……」
ケンジは、体中から滝のような汗を流して、頭を床に擦り付けている。
「お前らこそ、本当に何言ってんだ?
俺の鑑定の能力を疑ってるのか?
俺の鑑定は、A級レベルの鑑定能力なんだぞ?
その俺の鑑定が、間違える訳ないだろ!」
アムルー冒険者ギルド長は、ラインハルト達に向かってエラソーに言い放つ。
「ちょっとオジサンいいかな?
僕を弱っちいと舐めてるみたいだけど、それは、僕のご主人様を舐めてるのと一緒の事なんだよね」
シロは、剣呑な目付きをしたまま、アムルー冒険者ギルド長に釘を刺す。
「どうせ、お前の主人とやらのスケルトンが、闇属性の幻覚魔法かなんかを使って、強いと見せ掛けてるんだろ?
実際に、今まで、冒険者の1人も死んでないしな!」
「おい! それくらいで止めとけって!
俺達『鷹の爪』が、幻覚魔法なんかに掛かる筈が無いだろ!」
「そうよ! 人化できる程の実力を持った魔物が、B級冒険者レベルの実力な訳ないでしょ!」
「ガタガタガタガタガタガタ……」
ケンジは、ショッピングモールのフードコートで渡される呼び出し機のように、土下座をしながら、踊るようにガタガタ振動している。
完全に、ヤバい人になってしまったようだ。
「人が誰も死んでないのは、ご主人様が殺したらいけないと言うからだよ。
僕自身は、弱っちい人間なんか殺してしまえばいいと思ってるんだけどね」
「本性を表したな! 魔物め!」
「本性なんて、元々表してないよ。ブルース·モレルさん」
「なんで、俺のフルネームを?」
アムルー冒険者ギルド長ブルース·モレルが、不思議な顔をしてシロを見る。
「いまだ独身の35歳、恋人いない歴20年。受付のアリスちゃんが気になってる、ブルース·モレルさん」
「な……なんでお前が、そんな事まで知ってるんだ!
まさか、ラインハルト、お前が言ったのか!」
「俺は何も言っちゃいねえよ!」
シロは、どんどん続ける。
「それから、左肩の古傷のせいで、左腕が肩の高さより、上に上がらないブルース·モレルさん」
「俺が、誰にも言ってない事まで……」
アムルー冒険者ギルド長ブルース·モレルの顔が、みるみる真っ青になっていく。
そんなブルースの顔を伺いながら、シロの話はまだまだ続く。
「毎朝、毛生え薬を欠かさず頭に塗りこんでる、ブルース·モレルさん」
「グッ! そんな事まで……」
「寝る前に、欠かさずオ〇ニーしてから寝る、ブルース·モレルさん。
それから、いんきんたむしの、ブルース·モレルさん。
それから、それから、いぼ痔のブルース·モレルさん。
それから、それから、それから、チンコの長さが3センチのブルース·モレルさん!」
「もう、それ以上言うのはやめてくれよぉーー!
なんで、そんなプライベート過ぎる個人情報まで、知ってるんだよぉーー!」
下(しも)の話は、言って欲しくなかったのか、アムルー冒険者ギルド長が崩壊した。
シロは、してやったりと、ニヤリと、ほくそ笑む。
そして、
「それでは質問です。僕の鑑定眼は、何級なんでしょう?」
と、ブルース·モレルに質問した後、額にある真っ赤な6つの副眼を全て開き、一気に、自らの殺気を解き放った。
それと同時に、元々土下座をしていたケンジ以外の人間の両手両膝が、巨大な圧力により強制的に地面に着く。
「ブルース! お前のせいだぞ!」
「そうよ! アンタ一体、なんて事してくれてんよ!」
四つん這いのラインハルトとアナスタシアは、圧力に耐えながら、ブルース·モレルを非難する。
「知らなかったんですーー! 許して下さいーー!」
アムルー冒険者ギルド長ブルース·モレルは、ブルブル震えながら地面に顔を擦りつけ、これでもかと、シロに涙目で謝罪する。
そんなブルース·モレルを、土下座したまま睨みつけていたケンジが、突然、シロの圧力を跳ね除け、グワッ! と、立ち上がった。
そして、
「我が神、シロ様を愚弄する者は、死で償え!」
と、ブルース·モレルに、強い語気で言い放ち、愛刀『蜘蛛丸』を鞘から抜いた。
「死にます! 死んで謝罪しますから、どうか、アムルー冒険者ギルドを潰さないで下さいませーー!」
アムルー冒険者ギルド長、ブルース·モレルは、オシッコをチビりながら、シロに頭を下げ続ける。
「否(いな)! 我が神シロ様を愚弄した者は、例えギルド長でも許すまじ!」
ケンジは、愛刀『蜘蛛丸』を振りかぶる。
「いや……そ…そこまでは、求めてないからね……」
シロは、引き気味にケンジの申し出を断ったのだった。
ーーー
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