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31. 偉大なるスケルトン

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「それって、今話題のシルクタランチュラの服だろ?」

「あら、分かった? シルクタランチュラの服を手に入れた冒険者に売ってもらったのよ!」

『鷹の爪』団長のラインハルトの質問に、凄腕魔法使いアナスタシアが答える。

「高かっただろ?」

「3000万ゴルぐらいね! だけどそれ以上の性能よ!」

「3000万ゴル? 嘘だろ!?
 3000万ゴルって言ったら、ミスリルの片手剣が買える値段だろ!」

 ラインハルトは、その価格を聞いて、目ん玉が飛び出しそうなほど驚いている。

「この服は、ミスリルの剣より価値が有るって事よ!」

 アナスタシアは、事も無げに答える。

「で、何で最近、第12階層ばかり周回しようって言うんだ?」

「そりゃあ、シルクタランチュラ様に出会う為よ。
 今度は、私の身体にフィットした服を製作してもらうのよ!」

 アナスタシアは、ピチピチでキツそうな胸周りを摘んで見せた。

「って、そんな上手いこと行くのか?」

 ラインハルトが、不安そうに質問する。

「行く筈よ。最近、シルクタランチュラに遭遇した冒険者の話によると、魔法の鞄の中に、シルクタランチュラの欲しそうな物を入れておくと、物々交換で、代わりに服を製作してくれるみたいなの!」

 アナスタシアは、自信満々に答える。

「……それって、本当なのか?
 シルクタランチュラって、前、ここで見た個体だろ?
 奴の虫の居所が悪かったら、俺達なんて瞬殺だぜ……」

 ラインハルトが、心配そうにアナスタシアに言う。

「男の癖に、何ビビってるのよ!
 取り敢えず、シルクタランチュラに遭遇したら死んだフリをしとけばいいのよ!
 ちゃんと、シルクタランチュラが好きそうな貢ぎ物を、この魔法の鞄に用意してるから!」

「オイ! 二人とも、何か来るぞ!」

 ラインハルトとアナスタシアが話していると、何かに気付いた和装束のケンジが、二人に注意を即す。

『来たわよ! 二人とも死んだフリ!』

 アナスタシアが、ラインハルトとケンジに小声で指示をだす。

『本当に大丈夫かよ……』

『俺も死にたくない』

 ラインハルトとケンジは、グズグズ言いながらも、今更どうする事も出来ないので、その場で死んだフリをした。

 暫くすると、

「オ〇パイ! オ〇パイ! 嬉しいな~!」

 遠くから、幼い少女の声が聞こえてきた。

『オイ……アナスタシア……女の子の声が聞こえてくるぞ……』

『……そ…そうね……』

「オ〇パイ! オ〇パイ! 早く大きくな~れ!」

『オイ……何か卑猥な歌を歌ってるようだぞ……』

『……そ…そうね……』

 アナスタシアは、困惑しながら答える。

「ご主人様に、吸われたい~!」

 少女の歌は、ますます卑猥になっていく。

『というか、何で第12階層に女の子がいるんだ?』

『分からないわよ……だけど、声の主は、相当な強者よ……兎に角、今は死んだフリをするのよ!』

「オ〇パイ! オ〇パイ! 嬉しいな~!」

 卑猥な歌を歌う少女の声が、ドンドン、ラインハルト率いる『鷹の爪』に近づいてくる。

「オ〇パイ! オ〇パイ! 早く大きくな~れ! ……アッ!人間だ!」

 どうやら、卑猥な歌を歌っていた少女が、ラインハルト達に気付いたようだ。

「何持ってるかな?」

 声の主は、無警戒で近づいて来て、アナスタシアの魔法の鞄を漁りだした。

「ちえっ! 何も無いよ。残念! もう行こ!」

 卑猥な歌の主は、アナスタシアの魔法の鞄から、何も取らずに立ち去ろうとした。

「ちょ…ちょっと待って下さい!」

 アナスタシアが、立ち上がり、卑猥な歌の主に話し掛けた。

「オイ! 何やってるんだよ! アナスタシア! お前、正気か?!」

 ラインハルトも、慌てて立ち上がる。

「アッ! 起き上がった!?」

 卑猥な歌を歌っていた少女が、言葉を発した。

 しかし、アナスタシアとラインハルトは、言葉が出ない。

 無理もない、目の前にいる少女の下半身が、シルクタランチュラの胴体だったからだ。

「僕に何か用かな? 僕は今、お腹が空いてるんだよ。
 ご主人様は、人間を食べちゃいけないって言ってるけど、僕に敵対するつもりなら食べちゃうからね!」

 下半身がシルクタランチュラの少女が、8つ有る真っ赤な冷めた目で、アナスタシアとラインハルトを睨みつけてきた。

 ラインハルトのチ〇コは、その恐ろしさで縮み上がる。
 しかし、アナスタシアは怯まない。
 シルクタランチュラの服を作ってもらう事の方が、恐怖より勝っているのだ。

「私達は、貴方に敵対行為をする気は有りません!
 ただ、私の服を作って欲しいなと……」

「オイオイ、この状況で今言う事か?」

 ラインハルトが、思わず、アナスタシアに突っ込む。

「ハッハッハッハッハッ! 君達面白いね!
 服は幾らでも作って上げてもいいけど、対価が必要だよ!」

 下半身がシルクタランチュラの少女は、一応、話は通じるみたいだ。

「なら、この魔法の鞄を持っていって下さい!」

 アナスタシアは、自分の魔法の鞄を突き出した。

「要らないよ! 僕が欲しい物なんか何も無かったもん!」

「えっ! 金銀財宝が要らないんですか?
 このミスリルの剣なんか、かなり高価な物ですよ!」

 アナスタシアは、魔法の鞄に中から高価そうな装飾品や剣などを出して、下半身シルクタランチュラの少女に見せた。

「ミスリルなんて、腐るほど持ってるからいらないよ!
 ほら、これなんか今、僕が使ってる包丁! 僕の手作りなんだ!」

 下半身シルクタランチュラの少女が、アナスタシアに純度が高そうなミスリル製の包丁を見せてきた。

「包丁を、高価なミスリルで……しかも、加工が難しい、ミスリルを加工したですって……」

 アナスタシアは、目を見開いて驚愕する。

「ミスリルの加工なんて簡単だよ!
 このミスリルスライムの死骸を、整形してから乾燥したら終わりだよ!」

 下半身シルクタランチュラの少女が、自分の魔法の鞄から、ミスリルスライムの死骸を出して見せてくれた。

「ミスリルスライムですって!?」

「オイオイ、嘘だろ……そんなスライム存在するのかよ……」

 下半身シルクタランチュラの少女と、アナスタシアの会話を震えながら聞いていた、ラインハルトが、ミスリルスライムの死骸を見ると、興奮しながら会話に入ってきた。

「ミスリルスライムって珍しいの?」

 下半身シルクタランチュラの少女が、質問してきた。

「珍しいも何も、ミスリルスライムなんて聞いた事ないぞ!
 そのミスリルスライムを、俺に譲ってくれ!
 お金なら幾らでも払うから!」

「ヤダよ! さっきも言ったでしょ!
 対価が必要って!」

「そしたら、何が欲しいんだ!
 俺が幾らでも持ってきてやる!」

「えっ! 本当、僕が欲しい物を持ってきてくれるの!」

 下半身シルクタランチュラの少女が、食いついてきた。

「チョット待ってよ! 私が話をしてたんだから!」

 アナスタシアが、ラインハルトの話を遮る。

「お前、邪魔するなよ!」

「あんたこそ、私の邪魔しないで!」

 アナスタシアは、ラインハルトを一喝した後、愛想を振り撒きながら、
「さてさて、それでは、貴方様は、何がご所望でしょうか?
 このアナスタシアが、命に替えてもご用意 致しますわ!」
 と、下半身シルクタランチュラの少女に、ゴマをすり始めた。

「イヤイヤイヤ! この俺、『鷹の爪』団長のラインハルトに頼ってくれ!
 S級ギルド『鷹の爪』の名に掛けて、お望みの物を用意するぜ!」

 ラインハルトも、負けじと名乗りを上げる。

「ウン! ありがとう。アナスタシアとラインハルトだね!
 僕の名前はシロ。
 偉大なるスケルトンの下僕だよ!」


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