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3. 兎肉

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 まずは、超隠蔽スキルを使って、全てのステータスを消しておく。

 これは、ダンジョンで冒険者に会った時の保険である。

 今の俺は、骨人間の魔物だからな。

 そしてもし、ダンジョンで冒険者に遭遇したら死んだ振りをする。そうする事により、例え鑑定スキルを持っている者が俺のステータスを見ても、ただの白骨死体にしか見えないという訳だ。

 これは余談だが、ダンジョン内で人が死んだら、普通、ダンジョンに吸収されてしまう。
 なので、ダンジョンで白骨死体が転がっている事は中々ないのだが、たまにイレギュラーで、死体がダンジョンに吸収されない事もある。
 そんな、ダンジョンに吸収されなかった死体が、俺のようなスケルトンやグールになるのだ。

 そんな話は置いといて、戦いの準備が出来たので、いよいよレベル上げを始める。
 今いる場所は、ダンジョンの最下層近く。

 そう、俺は生前というか人間だった時、ダンジョン上層部で移転トラップに掛かり、そのまま最下層近くのトゲトゲの落とし穴に落とされていたのだ。

 この場所には、俺が倒せる魔物は居ない。
 本来なら、強い魔物に殺されてしまう運命だったのだが、俺は骨だし、不死者。

 誰にも襲われないし、例え襲われても死なないのだ。
 多分、骨が粉々に砕かれてもゴーストになるのが関の山だ。

 という訳で、俺が倒せる魔物がいる上層部に向かう事にしたのだが、暫く歩いても上層部に行く階段が見つからなかった。

「これは地道にマッピングしていくしかないか……」

 俺は独り言を言う。

 人間が聞いていたら、こんな感じに聞こえてるだろう。

「ギギギ…ギギィーーーギィーーギィ……」

 不快なだけの音である。

 俺は嫌な思い出がある、トゲトゲの落とし穴の部屋に向かい、俺が冒険者時代に使っていた、血だらけの薄汚れた鞄を拾った。
 そして、その中からマップラーを取り出す。

『まさか、魔物になってからマップラーを使うとはな……』

 マップラーは、一度通った場所を記憶するノート型の魔道具だ。
 これさえあれば、いちいち手描きでマッピングしなくてもよい。

 まあ、別に自分でマッピングしてもよいが、骸骨がノートで地図を引いている絵面はシュール過ぎるので止めておく。

 そして俺は、ひたすらマッピングをしながらダンジョン上層部に向かった。
 基本、俺は骨なので、他の魔物に狙われない。

 唯一厄介な階層だったのは、牙狼族の住処がある12階層だった。
 奴らは、やたら俺をシャブってくるのだ。

 そんなに骨が好きなのか?

 俺は全身舐められ過ぎて、骨がピカピカになってしまった。
 近くで見ると顔が映るぐらい純白で、いわゆる鏡面仕上げにされてしまっている。

 こんなにピカピカだと、薄暗いダンジョンだと目立ってしまうので、11階層に着いたらわざと土で汚した程だ。

 まあ、そんな冒険も有りつつ、俺は遂に5階層に到着した。
 この階層は、俺が移転トラップに引っかかって、死んだというか、骨になってしまう原因になった階層である。

 一応ここで、このダンジョンについて説明しておこう。
 ダンジョンの名称は、アムルーダンジョン。
 アトレシア大陸のハルマン王国の東部にある巨大ダンジョンだ。

 最深攻略階層は、15階層。
 未だにダンジョンの深さは不明だが、多分、30階層位だと言われている。
 ダンジョン内は、石造りだったり、草原だったりと色々バリエーションに富んでいる。

 因みに俺は、28階層から5階層まで上がって来た。
 多分、1階層から28階層まで網羅されている俺のマップラーを売れば、確実に1000万ゴルは下らないだろう。
 ゴルとは、アトレシア大陸共通の通貨の名称で、大体、日本の円と同じくらいの通貨価値である。

 俺がスケルトンでなければ、確実にマップラーを売っていただろう。

 そんな訳で、俺は目標だった5階層に辿り着いた。
 人間だったら、強い魔物がウヨウヨいる下層の方が厄介なのだが、俺にとっては、弱い魔物しか居ない上層の方が厄介であったりする。

 何故なら、上層には冒険者がわんさかいるからだ。

 俺は魔物のスケルトンなので、人間は天敵。

 本来なら、もっと上の階層でレベル上げをしたいのだが、1階層や2階層は冒険者だらけ、3階層で少し人が少なくなり、4階層では常時30パーティーぐらいが活動している。そして、5階層になると10パーティー程。

 俺が常時 目を光らして、冒険者に対応できるギリギリの階層が5階層なのである。

 俺は早速、鞄から剣を取り出す。
 俺の鞄は魔法の鞄になっていて、鞄の大きさ以上の物を収納できる。
 一応、重さ制限があり、30キロの重さまでなら何でも入れられる。

 で、どうやって魔物を倒そう……。

 5階層の魔物でも、肉がないスケルトンの体の俺にとっては、みんな格上だ。
 一番弱いであろうホーンラビットでさえ、普通に闘ったら負けてしまう。

 ウン。これは死んだフリ作戦だな。
 ホーンラビットの通り道で、行き倒れの骸骨のフリをして、目の前に通りかかった所で急所に一突き。
 まあ、失敗しても、俺は骨だし、不死者だしどうとでもなる。

 俺はホーンラビットの通り道を研究し、息を潜め、行き倒れの骸骨になりきった。

 長い……。

 何日行き倒れの骸骨のフリをしただろう。
 全く動かないと、自分が本当の行き倒れの骸骨のように思えてくる。

 何度かホーンラビットが目の前を通ったが、少し遠過ぎた。凄く近くまで来てくれないと、倒せる気がしない。
 なんせ俺は、肉が無いスケルトンなのだから。
 筋力がないと、体を早く動かせない。

 しかしながら、その時は突然訪れた。
 ホーンラビットが、俺の前にトコトコやって来て、俺の足に向けてオシッコを掛けて来たのだ。

 俺は、何とも言えない悲しい気持ちになったが、これを逃がしたら、一生、ホーンラビットを倒せる気がしない。

 ホーンラビットは無防備。
 何故ならオシッコの最中だ。

 俺は手に持っていた剣を、ホーンラビットの首筋に向けて振り下ろす。

 ドビュー!

 ホーンラビットの首から鮮血が舞う。

 ホーンラビットは、オシッコをしながらそのまま倒れ、俺の腰骨にまで、オシッコを引っ掛けた。

 汚い……。

 ホーンラビットの体にも、オシッコがたくさん引っ掛かっている。

 しかし、目の前には肉がある。

 スケルトンになってから初めてのご馳走だ。

 オシッコ臭い肉なのだが、思わず涎が垂れる。
 骨だから、そんな感じかするだけだけど……。

 俺はそのまま、オシッコ臭いホーンラビットの肉にむしゃぶりついた。

 滅茶苦茶美味い。

 肉ってこんなに美味しかったけ?

 今の俺には、オシッコの塩加減も、肉の味を引き出す絶妙な調味料と感じてしまうぐらいだ。
 俺は一気に、頭も尻尾も残さず平らげた。

 こ……こいつはヤバいな……。
 一度、肉を食べると凄く物足りなくなる。
 もっと肉が食べたい。
 物凄い肉への欲求が襲ってくる。
 肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉……もっと肉が食べたい。

 それも、血が滴る人肉が。

 俺の体は、無性に人肉を欲している。
 何となくだが、俺には分かる。
 人肉を食べれば、体に肉が付くと。

「あぁぁ……人肉が食べたいよぉー!」

 俺は思わず叫ぶ。

「ギィィ……ギィギィギィ…ギィ……!」

 因みに、人間にはこんな風に聞こえている。

 冷静になれ俺。
 人肉は駄目だ。
 絶対、一度人肉を食べたら止められなくなる。
 糞っ! どうしても人肉への衝動が抑えれない。

 こんな時は、声に出して叫べばストレスが発散されると聞いた事があった。
 カラオケ発散法とかいう、アレだ。
 そして俺は、ストレスを発散する為に叫んだ。

「俺は人間に戻りたいのだ。
 人肉を食べたら人では無くなる。
 人以外の肉を食べて、人間に戻るのだ!
 そして、肉棒を手に入れて、異世界でハーレムを作ってやるのだ!」

(骨語)

「ギィギィギィギィギィ。
 ギィギィギィギィギィギィ。
 ギィギィギィギィギィギィギィー!
 ギィギィギィギィーギィギィーギィギィギィギィギィギィー!」


 この日、冒険者ギルドに、アムルーダンジョンの5階層にいた複数の冒険者パーティーから、得体の知れない不快な絶叫が聞こえたという報告があった。

 その報告内容を調査する為、冒険者ギルドから5階層を調査するクエストが出されたのは、また別の話。

 ーーー

 ここまで読んで下さりありがとうございます。
 続きを読んでくれたら嬉しいです。
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