3 / 568
3. 兎肉
しおりを挟むまずは、超隠蔽スキルを使って、全てのステータスを消しておく。
これは、ダンジョンで冒険者に会った時の保険である。
今の俺は、骨人間の魔物だからな。
そしてもし、ダンジョンで冒険者に遭遇したら死んだ振りをする。そうする事により、例え鑑定スキルを持っている者が俺のステータスを見ても、ただの白骨死体にしか見えないという訳だ。
これは余談だが、ダンジョン内で人が死んだら、普通、ダンジョンに吸収されてしまう。
なので、ダンジョンで白骨死体が転がっている事は中々ないのだが、たまにイレギュラーで、死体がダンジョンに吸収されない事もある。
そんな、ダンジョンに吸収されなかった死体が、俺のようなスケルトンやグールになるのだ。
そんな話は置いといて、戦いの準備が出来たので、いよいよレベル上げを始める。
今いる場所は、ダンジョンの最下層近く。
そう、俺は生前というか人間だった時、ダンジョン上層部で移転トラップに掛かり、そのまま最下層近くのトゲトゲの落とし穴に落とされていたのだ。
この場所には、俺が倒せる魔物は居ない。
本来なら、強い魔物に殺されてしまう運命だったのだが、俺は骨だし、不死者。
誰にも襲われないし、例え襲われても死なないのだ。
多分、骨が粉々に砕かれてもゴーストになるのが関の山だ。
という訳で、俺が倒せる魔物がいる上層部に向かう事にしたのだが、暫く歩いても上層部に行く階段が見つからなかった。
「これは地道にマッピングしていくしかないか……」
俺は独り言を言う。
人間が聞いていたら、こんな感じに聞こえてるだろう。
「ギギギ…ギギィーーーギィーーギィ……」
不快なだけの音である。
俺は嫌な思い出がある、トゲトゲの落とし穴の部屋に向かい、俺が冒険者時代に使っていた、血だらけの薄汚れた鞄を拾った。
そして、その中からマップラーを取り出す。
『まさか、魔物になってからマップラーを使うとはな……』
マップラーは、一度通った場所を記憶するノート型の魔道具だ。
これさえあれば、いちいち手描きでマッピングしなくてもよい。
まあ、別に自分でマッピングしてもよいが、骸骨がノートで地図を引いている絵面はシュール過ぎるので止めておく。
そして俺は、ひたすらマッピングをしながらダンジョン上層部に向かった。
基本、俺は骨なので、他の魔物に狙われない。
唯一厄介な階層だったのは、牙狼族の住処がある12階層だった。
奴らは、やたら俺をシャブってくるのだ。
そんなに骨が好きなのか?
俺は全身舐められ過ぎて、骨がピカピカになってしまった。
近くで見ると顔が映るぐらい純白で、いわゆる鏡面仕上げにされてしまっている。
こんなにピカピカだと、薄暗いダンジョンだと目立ってしまうので、11階層に着いたらわざと土で汚した程だ。
まあ、そんな冒険も有りつつ、俺は遂に5階層に到着した。
この階層は、俺が移転トラップに引っかかって、死んだというか、骨になってしまう原因になった階層である。
一応ここで、このダンジョンについて説明しておこう。
ダンジョンの名称は、アムルーダンジョン。
アトレシア大陸のハルマン王国の東部にある巨大ダンジョンだ。
最深攻略階層は、15階層。
未だにダンジョンの深さは不明だが、多分、30階層位だと言われている。
ダンジョン内は、石造りだったり、草原だったりと色々バリエーションに富んでいる。
因みに俺は、28階層から5階層まで上がって来た。
多分、1階層から28階層まで網羅されている俺のマップラーを売れば、確実に1000万ゴルは下らないだろう。
ゴルとは、アトレシア大陸共通の通貨の名称で、大体、日本の円と同じくらいの通貨価値である。
俺がスケルトンでなければ、確実にマップラーを売っていただろう。
そんな訳で、俺は目標だった5階層に辿り着いた。
人間だったら、強い魔物がウヨウヨいる下層の方が厄介なのだが、俺にとっては、弱い魔物しか居ない上層の方が厄介であったりする。
何故なら、上層には冒険者がわんさかいるからだ。
俺は魔物のスケルトンなので、人間は天敵。
本来なら、もっと上の階層でレベル上げをしたいのだが、1階層や2階層は冒険者だらけ、3階層で少し人が少なくなり、4階層では常時30パーティーぐらいが活動している。そして、5階層になると10パーティー程。
俺が常時 目を光らして、冒険者に対応できるギリギリの階層が5階層なのである。
俺は早速、鞄から剣を取り出す。
俺の鞄は魔法の鞄になっていて、鞄の大きさ以上の物を収納できる。
一応、重さ制限があり、30キロの重さまでなら何でも入れられる。
で、どうやって魔物を倒そう……。
5階層の魔物でも、肉がないスケルトンの体の俺にとっては、みんな格上だ。
一番弱いであろうホーンラビットでさえ、普通に闘ったら負けてしまう。
ウン。これは死んだフリ作戦だな。
ホーンラビットの通り道で、行き倒れの骸骨のフリをして、目の前に通りかかった所で急所に一突き。
まあ、失敗しても、俺は骨だし、不死者だしどうとでもなる。
俺はホーンラビットの通り道を研究し、息を潜め、行き倒れの骸骨になりきった。
長い……。
何日行き倒れの骸骨のフリをしただろう。
全く動かないと、自分が本当の行き倒れの骸骨のように思えてくる。
何度かホーンラビットが目の前を通ったが、少し遠過ぎた。凄く近くまで来てくれないと、倒せる気がしない。
なんせ俺は、肉が無いスケルトンなのだから。
筋力がないと、体を早く動かせない。
しかしながら、その時は突然訪れた。
ホーンラビットが、俺の前にトコトコやって来て、俺の足に向けてオシッコを掛けて来たのだ。
俺は、何とも言えない悲しい気持ちになったが、これを逃がしたら、一生、ホーンラビットを倒せる気がしない。
ホーンラビットは無防備。
何故ならオシッコの最中だ。
俺は手に持っていた剣を、ホーンラビットの首筋に向けて振り下ろす。
ドビュー!
ホーンラビットの首から鮮血が舞う。
ホーンラビットは、オシッコをしながらそのまま倒れ、俺の腰骨にまで、オシッコを引っ掛けた。
汚い……。
ホーンラビットの体にも、オシッコがたくさん引っ掛かっている。
しかし、目の前には肉がある。
スケルトンになってから初めてのご馳走だ。
オシッコ臭い肉なのだが、思わず涎が垂れる。
骨だから、そんな感じかするだけだけど……。
俺はそのまま、オシッコ臭いホーンラビットの肉にむしゃぶりついた。
滅茶苦茶美味い。
肉ってこんなに美味しかったけ?
今の俺には、オシッコの塩加減も、肉の味を引き出す絶妙な調味料と感じてしまうぐらいだ。
俺は一気に、頭も尻尾も残さず平らげた。
こ……こいつはヤバいな……。
一度、肉を食べると凄く物足りなくなる。
もっと肉が食べたい。
物凄い肉への欲求が襲ってくる。
肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉……もっと肉が食べたい。
それも、血が滴る人肉が。
俺の体は、無性に人肉を欲している。
何となくだが、俺には分かる。
人肉を食べれば、体に肉が付くと。
「あぁぁ……人肉が食べたいよぉー!」
俺は思わず叫ぶ。
「ギィィ……ギィギィギィ…ギィ……!」
因みに、人間にはこんな風に聞こえている。
冷静になれ俺。
人肉は駄目だ。
絶対、一度人肉を食べたら止められなくなる。
糞っ! どうしても人肉への衝動が抑えれない。
こんな時は、声に出して叫べばストレスが発散されると聞いた事があった。
カラオケ発散法とかいう、アレだ。
そして俺は、ストレスを発散する為に叫んだ。
「俺は人間に戻りたいのだ。
人肉を食べたら人では無くなる。
人以外の肉を食べて、人間に戻るのだ!
そして、肉棒を手に入れて、異世界でハーレムを作ってやるのだ!」
(骨語)
「ギィギィギィギィギィ。
ギィギィギィギィギィギィ。
ギィギィギィギィギィギィギィー!
ギィギィギィギィーギィギィーギィギィギィギィギィギィー!」
この日、冒険者ギルドに、アムルーダンジョンの5階層にいた複数の冒険者パーティーから、得体の知れない不快な絶叫が聞こえたという報告があった。
その報告内容を調査する為、冒険者ギルドから5階層を調査するクエストが出されたのは、また別の話。
ーーー
ここまで読んで下さりありがとうございます。
続きを読んでくれたら嬉しいです。
4
お気に入りに追加
634
あなたにおすすめの小説
モブだった私、今日からヒロインです!
まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。
このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。
そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。
だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン……
モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして?
※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。
※印はR部分になります。
死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く
miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。
ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。
断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。
ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。
更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。
平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。
しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。
それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね?
だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう?
※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。
※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……)
※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。
異世界召喚されて神様貴族生活
シロイイヌZ
ファンタジー
R18です。グロテスクな表現や直接的な性描写などがありますので、不快に思われる方や未成年の方はお読みにならないようお願い致します。
『なんだよ。俺、こんなあっさり死ぬのかよ』
そう思って目を開けたら、目に飛び込んできたのは青空。
流れに任せて魔物と闘い、流れに任せて美少女たちとのハーレム生活。
異世界と現世を自由に行き来出来る上に、異世界で欲しい物も錬金術で思いのまま。
誰もが羨むような異世界生活とおっさんの快進撃が始まる!
本業の合間に細々と書いています。平日は出来るだけ更新したいと考えてますが、仕事が立て込んでいる時は更新が遅れることがあります。ご容赦ください。
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
幼い頃から家族に忌み嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ
中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。
※ 作品
「男装バレてイケメンに~」
「灼熱の砂丘」
「イケメンはずんどうぽっちゃり…」
こちらの作品を先にお読みください。
各、作品のファン様へ。
こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。
故に、本作品のイメージが崩れた!とか。
あのキャラにこんなことさせないで!とか。
その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)
【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで
あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。
連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。
ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。
IF(7話)は本編からの派生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる