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ハレの日売ります 後編
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一夜明けて。
「ってことがあったんだよ。あの話って本当だったんだなぁ」
「いや、オレもSNSの噂でしかないと思ってたんだが……」
日時は月曜の午前中。
マサヒロは会社でデスクに向かったまま同僚のアンドウに、レインコートの少女の事を報告していた。
「ほぅ。なにか面白い事を話しているねぇ?」
マサヒロ達の会話に割って入ったのは彼らの上司、マツダ課長であった。
「えぇ?
晴れの日を売る?
それはホントかぃ?」
「ハイ、にわかには信じられないでしょうが、この呪いの様な雨男の僕でも晴れを買うことが出来ました、ハイ」
「そうかそうか。
実は今度の日曜日はボクの娘の結婚式でね。
何も結婚式の日に雨だなんて、って思うけど、親としてはやっぱりイイ結婚式にして、祝ってやりたくてね。
そのお店って、どこにあるんだい?」
その夜。
「おぉ、君が例の晴れの日を売るっていう女の子だね?
いや、話に聞いては見たものの、本当なのかはにわかには信じがたいよ。
だって、天候を自分のいいようにするなんて、聞いたことがないよ。
科学的に言えば、空高くで化学物質をまいて人工的に雨を降らせて、そのあとは雲がなくなり晴れるってのは聞いたことがあるけど、まさか、個人でそんな事をするほどのものでもないし……
で、本当のところはどうなの?」
マサヒロに聞いた通りの場所でレインコートの少女を前にペラペラと良く喋るはマツダ課長。タダでさえ口数の少ないレインコートの少女は目を合わせても口を開きもしない。
「ハレの日、売りますよ」
「そうかそうか、それじゃあ、今度の日曜日、お願いするよ」
ピンポーン。
呼び鈴に催促され、玄関に向かったのはマツダ課長。居間でくつろいでいた中年男性とはかくもラフにして、みすぼらしい格好なのかと思わせる風貌だった。
「ん?
どなただね?」
扉をあけると、日差しがしっかりと仕事をしている昼過ぎに、頭から半透明なビニール製のレインコートを着た、あの少女が立っていた。
「お代。頂いてません……」
「ん~……?
あぁ、あのときの、晴れの日を売るとか言ってたオジョウチャンか。
ハハ、ほんとにあれを自分がやったっていうのかい?
馬鹿を言っちゃいけないよ。確かにあの日、娘の結婚式の日、天候は晴れたよ。うん、見事に晴れはしたよ。おかげで娘の晴れ姿を見てボクも泣いちゃってね。
でもだよ?
それを君がやったっていう証拠はどこにあるんだい?
ただ単に運よく天気予報が外れてにお日さまが出たってだけじゃないのかい?
ハハ、そうだ。そうに決まってる。」
そう、ハナからこのマツダ課長は少女にお金を払う気などなかったのだ。
これに対して、少女は冷たく言い放った。
「じゃあ、いいです。アナタに雨を降らせてもらいます」
それこそ、高らかに笑いながらマツダ課長は少女を追い返す。
「いいともいいとも、私でよければいくらでも雨を降らせてやるよ。さぁ、帰った帰った」
少女が帰った後、マツダは居間に戻り、再度寝ころんでテレビに向かう。
「忘れたころにやってきて、金の催促か。
まぁ、あんな眉唾ものは適当にあしらうに限る。ハッハッハ」
スマートフォンの呼ぶ声が聞こえる。
普段使っているLINEの通知音ではない。
「ハイ、モシモシ、マツダですが……
え?
警察?
ナニ?
娘が事故?
一緒に乗っていた私の妻も?
歩道を歩いていた人と――
そのまま電柱に激突?」
突如として訪れた、この知らせ。
娘と妻は事故によりマツダ課長と話をすることはなかった。
その際に数名の不幸な巻き添えを出してしまった。
この不幸により、マツダはその場に崩れた。
折しも、太陽は仕事を終える準備をし、膝から伏したマツダの陰が大きく啼いていた。
そう、それこそレインコートの少女のように泣き腫らした目。
いつまでも涙を雨粒のように滴らせていた。
「ってことがあったんだよ。あの話って本当だったんだなぁ」
「いや、オレもSNSの噂でしかないと思ってたんだが……」
日時は月曜の午前中。
マサヒロは会社でデスクに向かったまま同僚のアンドウに、レインコートの少女の事を報告していた。
「ほぅ。なにか面白い事を話しているねぇ?」
マサヒロ達の会話に割って入ったのは彼らの上司、マツダ課長であった。
「えぇ?
晴れの日を売る?
それはホントかぃ?」
「ハイ、にわかには信じられないでしょうが、この呪いの様な雨男の僕でも晴れを買うことが出来ました、ハイ」
「そうかそうか。
実は今度の日曜日はボクの娘の結婚式でね。
何も結婚式の日に雨だなんて、って思うけど、親としてはやっぱりイイ結婚式にして、祝ってやりたくてね。
そのお店って、どこにあるんだい?」
その夜。
「おぉ、君が例の晴れの日を売るっていう女の子だね?
いや、話に聞いては見たものの、本当なのかはにわかには信じがたいよ。
だって、天候を自分のいいようにするなんて、聞いたことがないよ。
科学的に言えば、空高くで化学物質をまいて人工的に雨を降らせて、そのあとは雲がなくなり晴れるってのは聞いたことがあるけど、まさか、個人でそんな事をするほどのものでもないし……
で、本当のところはどうなの?」
マサヒロに聞いた通りの場所でレインコートの少女を前にペラペラと良く喋るはマツダ課長。タダでさえ口数の少ないレインコートの少女は目を合わせても口を開きもしない。
「ハレの日、売りますよ」
「そうかそうか、それじゃあ、今度の日曜日、お願いするよ」
ピンポーン。
呼び鈴に催促され、玄関に向かったのはマツダ課長。居間でくつろいでいた中年男性とはかくもラフにして、みすぼらしい格好なのかと思わせる風貌だった。
「ん?
どなただね?」
扉をあけると、日差しがしっかりと仕事をしている昼過ぎに、頭から半透明なビニール製のレインコートを着た、あの少女が立っていた。
「お代。頂いてません……」
「ん~……?
あぁ、あのときの、晴れの日を売るとか言ってたオジョウチャンか。
ハハ、ほんとにあれを自分がやったっていうのかい?
馬鹿を言っちゃいけないよ。確かにあの日、娘の結婚式の日、天候は晴れたよ。うん、見事に晴れはしたよ。おかげで娘の晴れ姿を見てボクも泣いちゃってね。
でもだよ?
それを君がやったっていう証拠はどこにあるんだい?
ただ単に運よく天気予報が外れてにお日さまが出たってだけじゃないのかい?
ハハ、そうだ。そうに決まってる。」
そう、ハナからこのマツダ課長は少女にお金を払う気などなかったのだ。
これに対して、少女は冷たく言い放った。
「じゃあ、いいです。アナタに雨を降らせてもらいます」
それこそ、高らかに笑いながらマツダ課長は少女を追い返す。
「いいともいいとも、私でよければいくらでも雨を降らせてやるよ。さぁ、帰った帰った」
少女が帰った後、マツダは居間に戻り、再度寝ころんでテレビに向かう。
「忘れたころにやってきて、金の催促か。
まぁ、あんな眉唾ものは適当にあしらうに限る。ハッハッハ」
スマートフォンの呼ぶ声が聞こえる。
普段使っているLINEの通知音ではない。
「ハイ、モシモシ、マツダですが……
え?
警察?
ナニ?
娘が事故?
一緒に乗っていた私の妻も?
歩道を歩いていた人と――
そのまま電柱に激突?」
突如として訪れた、この知らせ。
娘と妻は事故によりマツダ課長と話をすることはなかった。
その際に数名の不幸な巻き添えを出してしまった。
この不幸により、マツダはその場に崩れた。
折しも、太陽は仕事を終える準備をし、膝から伏したマツダの陰が大きく啼いていた。
そう、それこそレインコートの少女のように泣き腫らした目。
いつまでも涙を雨粒のように滴らせていた。
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