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第2話
098. ポップコーンの準備はいい?15
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「そうら、おいでなすった」
そして続けられた言葉でやっと敵の襲来に気が付いた。
なんだかヒドく不格好な彫像が3体、岩陰の向こうからノソノソとボクたちに向かってきた。
敵だと分かったのは、手の形が明らかに握手を求めるそれではなく、変に大きく、尖って、その先をボクらに向けていたからだった。
「もう少し、ゆっくりしていたかったんだけどね」
ハクはそういうと、いつものように杖を構えた。
左右の手をそれぞれ順手のようにして離して杖を握り、先端の鉤状の部分を相手に向けている。
不格好な彫刻が一体、大きな手を振り上げた。
そして、同じようにノソノソと歩み寄って、振り上げと同じ速度でハクの頭部に爪を立てようとした。
ハクはそれを、受け止め、左に弾いた。
「え?」
おかしい。
いつものハクなら、流れるような動作でここで一撃入れているはずだ。
相手の攻撃の前に一歩踏み込み、相手の勢いを殺したうえで自分の攻撃に移る。
それが今まで見てきたハクの舞うような戦い方だったはずだが、今ボクの目の前には緩慢な敵の動きに、一呼吸遅れる様子で対応する杖で戦う華奢な男がいた。
どこか精彩を欠きながらも、二体ののろまな彫像を砕くと、三体目がハクの至近距離で大きく両の手を開いて見せたのだった。
違和感が確信に変わったのは次の攻防でだった。
ボンッ。
彫像の手が弾け、いくつもの破片がその場に飛び散った。
ハクはこの爆破を上手く避けられなかった。
彫像の破片が幾つか刺さりながらも、鉤状の杖が敵の頭を砕いた。
「ハク、だいじょうぶ?」
異常に気が付いて杖を構えて残心を取ったままのハクに近づいた。
駆け寄ったボクへやっと顔を向けたハクは、ボクが額から血を流しているのを見つけて、ゆっくりと謝ってきた。
「ごめん、ね……」
そういって目の前にいる青み掛かった灰色の着物の胸元が崩れた。
ハクがその場に膝をついたのだった。
「どうしたの!?
今の変な像がそんなに強かったの?」
「そうじゃないわ。
さっき、ちょっと、ね」
ハクは自分の目元を右手で押さえながら、左手に握った杖で頭の上を指示した。
くるりと大きく曲がった鉤が向けられた方向には、先ほど落ちてきたといった高さ十メートルは先の落とし穴。
「さっきって……
さっき、奇跡的にって……」
「そうよ。
キミに怪我がなかったのは奇跡的だったのよ」
ハクが押さえている目元が気になった。
エリィは自分の手で自分の目を覆う仕草をしている。
「ハク、目、どうしたの?」
「ちょっとボヤけてるだけよ」
「まさか――!?」
「落ちてくるときに、ちょっと打っちゃったみたいでね」
ボクは自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
「ボクをかばって……」
ハクは、目元から手を離すといつものようにフッフフと笑って見せた。
「そんなんじゃないわ。
私が勝手にドジ踏んだのよ」
エリィはブンブンと首を横に振っている。
答え合わせは出来たも同然だった。
「さ、行きましょう」
ハクは杖をついて立ってはいるが、今の彼の視力では到底一人で歩けるようには見えない。
ボクは、ぐっと唇を嚙むと黙ってハクの手を引いて歩くことにした。
「あらあら。
そんな齢でもないんだけどねぇ」
言葉をかけるなんてできなかった。
そして続けられた言葉でやっと敵の襲来に気が付いた。
なんだかヒドく不格好な彫像が3体、岩陰の向こうからノソノソとボクたちに向かってきた。
敵だと分かったのは、手の形が明らかに握手を求めるそれではなく、変に大きく、尖って、その先をボクらに向けていたからだった。
「もう少し、ゆっくりしていたかったんだけどね」
ハクはそういうと、いつものように杖を構えた。
左右の手をそれぞれ順手のようにして離して杖を握り、先端の鉤状の部分を相手に向けている。
不格好な彫刻が一体、大きな手を振り上げた。
そして、同じようにノソノソと歩み寄って、振り上げと同じ速度でハクの頭部に爪を立てようとした。
ハクはそれを、受け止め、左に弾いた。
「え?」
おかしい。
いつものハクなら、流れるような動作でここで一撃入れているはずだ。
相手の攻撃の前に一歩踏み込み、相手の勢いを殺したうえで自分の攻撃に移る。
それが今まで見てきたハクの舞うような戦い方だったはずだが、今ボクの目の前には緩慢な敵の動きに、一呼吸遅れる様子で対応する杖で戦う華奢な男がいた。
どこか精彩を欠きながらも、二体ののろまな彫像を砕くと、三体目がハクの至近距離で大きく両の手を開いて見せたのだった。
違和感が確信に変わったのは次の攻防でだった。
ボンッ。
彫像の手が弾け、いくつもの破片がその場に飛び散った。
ハクはこの爆破を上手く避けられなかった。
彫像の破片が幾つか刺さりながらも、鉤状の杖が敵の頭を砕いた。
「ハク、だいじょうぶ?」
異常に気が付いて杖を構えて残心を取ったままのハクに近づいた。
駆け寄ったボクへやっと顔を向けたハクは、ボクが額から血を流しているのを見つけて、ゆっくりと謝ってきた。
「ごめん、ね……」
そういって目の前にいる青み掛かった灰色の着物の胸元が崩れた。
ハクがその場に膝をついたのだった。
「どうしたの!?
今の変な像がそんなに強かったの?」
「そうじゃないわ。
さっき、ちょっと、ね」
ハクは自分の目元を右手で押さえながら、左手に握った杖で頭の上を指示した。
くるりと大きく曲がった鉤が向けられた方向には、先ほど落ちてきたといった高さ十メートルは先の落とし穴。
「さっきって……
さっき、奇跡的にって……」
「そうよ。
キミに怪我がなかったのは奇跡的だったのよ」
ハクが押さえている目元が気になった。
エリィは自分の手で自分の目を覆う仕草をしている。
「ハク、目、どうしたの?」
「ちょっとボヤけてるだけよ」
「まさか――!?」
「落ちてくるときに、ちょっと打っちゃったみたいでね」
ボクは自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
「ボクをかばって……」
ハクは、目元から手を離すといつものようにフッフフと笑って見せた。
「そんなんじゃないわ。
私が勝手にドジ踏んだのよ」
エリィはブンブンと首を横に振っている。
答え合わせは出来たも同然だった。
「さ、行きましょう」
ハクは杖をついて立ってはいるが、今の彼の視力では到底一人で歩けるようには見えない。
ボクは、ぐっと唇を嚙むと黙ってハクの手を引いて歩くことにした。
「あらあら。
そんな齢でもないんだけどねぇ」
言葉をかけるなんてできなかった。
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