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第1話
047. 初めての街です16
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「よぉ、キミタチ。
儲かってるみたいだね」
台の上に手を付いてきた一人の男は、なんだか胸のムカムカするような香水の匂いと一緒に馴れ馴れしくボクの肩に腕を回して言った。
「さっきの声、聞こえちゃった?
ゴメンなぁ。
でもさ、ボクタチも意地悪してるわけじゃないんだ。
本当なんだもん」
耳元でささやく声も、香水と同じで嫌なにおいがした。
「そんでよ。
モノは相談だ。
黙っててやるから、な?
わかるだろ?」
そういってもう一人の男が、ボクから買ったと思われる飲み物の入ったジョッキで台に置いてあるカゴを指し示した。
大きめのドンブリほどのカゴには今日の売り上げが入っている。
コインにして既に7割ほどの量だ。
「お金が目的、ですか?」
「オォーイオィ。
人聞きの悪いこと言うなよな。
ただ、な?
目立つニンゲンてのは目ぇつけられるもんだ。
賢くやろうぜぇ」
すかさずジョッキを手にした短髪の男が動く。
ボクと香水の男のやり取りを客の列からは見えないように、その体でついたてにしたのだった。
「こんなのばっかりだ。
弱い人に、真面目な人に――筋違いなことばかりをして……」
「なにブツブツ言ってんだ?
さっさと寄こさねぇと、もっと叫んじまうぞぉ?」
短髪が右手に持っていたジョッキを高々と上げた。
「みなっさぁ~ん!
コレですよ!
この店で買った、コレを飲んで――あれ?」
彼が晒しものにしようとしたジョッキは、その右手の内にはいなかった。
「ふ~ん。
これがねぇ……
この少年から買ったっていうの?」
見れば、男が持っていたはずの杯をその足元で黒猫が持っていた。
中に手を入れ、何かを調べている。
「そ、そうだとも。
正真正銘、ここで買った飲み物だ。
返せよっ」
「おかしいわね。
オレはさっきから列の整理をしてたけど、アンタの顔は見た覚えがないわ。
それに、この中身、きっと別物ね」
え?
黒猫は、あえて大きな通る声で言ってのけた。
「な、何言って――」
「この中身、レモンの香りがしないもの。
それに、卵も違う。
この子が使ってるのは白いニワトリの卵。
この器の中に入ってるのは茶色い卵みたいね?」
そういって黒猫は器用に肉球でジョッキの中の茶色い殻をすくって見せた。
声を聞いた大通りを歩く人からも、列から身を乗り出して騒ぎを見ていた人たちからも、ボクの屋台の横に積まれた卵の色が白いことは一目でわかった。
「いい加減なことを言いやがってッ――」
短髪の男が足元の黒猫を蹴り上げる。
しかし男の変に磨かれた革のブーツが黒猫に当たることはなかった。
「いい加減なことを言ってるのはアンタじゃないの」
黒猫は、音もなく男の身体をよじ登り、黒い前脚から伸びる銀色に光る爪をその首筋に突き立てて言った。
「この、クソネコがっ。
この小僧を……」
そこまで言うと、香水クサイ男が悲鳴を上げた。
イテテテテ。
「だめですよー。
そんな汚い言葉を使っちゃ。
それに、もうやめましょうね?」
ボクの後ろに座って作業をしていたラギがボクの腕に回されていた腕を無造作に掴んでいた。
どうやら、見た目通りの怪力らしい。
「は、離せっ。
離すんだ!
おれ、折れるぅ!」
ドシン、と音がすると香水の臭いの元は既にボクを離れていた。
カァンッ。
「これに懲りたら、変な言いがかりをつけるのは辞めることね」
通りに投げ飛ばされた香水男の頭のすぐ横に、木の杖の石突が突き立てられ、石畳とぶつかって乾いた音が響いた。
「ハク!」
「ちょっと離れてる間に、楽しそうだったわね」
「楽しくなんて――
大変だったんだから!」
「そうみたいね。
ほら、アナタたちもさっさと逃げちゃいなさいな。
次は、その頭をカチ割ってあげるわ」
ハクが氷の笑顔で見下ろした先では、男がムカムカとする香水の匂いも流れ落ちるほど冷や汗をかいていた。
黒猫も短髪男を解放すると、捨て台詞も残さずに二人は逃げて行った。
「材料が足りなくなると思って、追加で買い出しにいったんだけど……
ゴメンナサイね」
ハクが曳いてきた台車には大量の牛乳の桶と卵をはじめとした材料、ミルクセーキを入れるためのジョッキなどが積まれていた。
「さぁ、このお客さんの列がミルクセーキへの期待の表れ!
味は飲んだ人に聞いて頂戴!
どんどん作るから、どんどん買っていってくださいな!」
ハクが手を打ち、拍子をつけると、御客の列はどっと増えた。
先ほどコインをしまった女性も、改めて台にコインを置いてくれた。
そして、4人。いや、三人と一匹で材料がなくなるまで、ミルクセーキを作って売り続けた。
日が暮れると、後片付けをしながらハクが言った。
「頑張ったじゃない。
すごいわよ」
「ボクだけじゃなくて、こっちのラギちゃんたちが助けてくれたから……」
「そうね。
いつの間に仲良くなってたの?」
え?
「ラギも、ジャコも、帰ってきてたなら言いなさいよ」
「そっかー
イツキくんはハクの知り合いだったんだね」
ラギが台替わりにしていた箱を片付けてクスクスと笑って言う。
「この味付けはもしかして、と思ったけど……
やっぱりハクが一枚噛んでたって訳か」
ジャコ、と呼ばれた黒猫も器用にごみを片付けながら言う。
「知り合いだったの!?」
「図らずも、ね」
ハクがフッフフと笑って後片付けは終了した。
「仲間っていいものねぇ~」
エリィがオレンジ色の夕陽を浴びてボクに言った。
儲かってるみたいだね」
台の上に手を付いてきた一人の男は、なんだか胸のムカムカするような香水の匂いと一緒に馴れ馴れしくボクの肩に腕を回して言った。
「さっきの声、聞こえちゃった?
ゴメンなぁ。
でもさ、ボクタチも意地悪してるわけじゃないんだ。
本当なんだもん」
耳元でささやく声も、香水と同じで嫌なにおいがした。
「そんでよ。
モノは相談だ。
黙っててやるから、な?
わかるだろ?」
そういってもう一人の男が、ボクから買ったと思われる飲み物の入ったジョッキで台に置いてあるカゴを指し示した。
大きめのドンブリほどのカゴには今日の売り上げが入っている。
コインにして既に7割ほどの量だ。
「お金が目的、ですか?」
「オォーイオィ。
人聞きの悪いこと言うなよな。
ただ、な?
目立つニンゲンてのは目ぇつけられるもんだ。
賢くやろうぜぇ」
すかさずジョッキを手にした短髪の男が動く。
ボクと香水の男のやり取りを客の列からは見えないように、その体でついたてにしたのだった。
「こんなのばっかりだ。
弱い人に、真面目な人に――筋違いなことばかりをして……」
「なにブツブツ言ってんだ?
さっさと寄こさねぇと、もっと叫んじまうぞぉ?」
短髪が右手に持っていたジョッキを高々と上げた。
「みなっさぁ~ん!
コレですよ!
この店で買った、コレを飲んで――あれ?」
彼が晒しものにしようとしたジョッキは、その右手の内にはいなかった。
「ふ~ん。
これがねぇ……
この少年から買ったっていうの?」
見れば、男が持っていたはずの杯をその足元で黒猫が持っていた。
中に手を入れ、何かを調べている。
「そ、そうだとも。
正真正銘、ここで買った飲み物だ。
返せよっ」
「おかしいわね。
オレはさっきから列の整理をしてたけど、アンタの顔は見た覚えがないわ。
それに、この中身、きっと別物ね」
え?
黒猫は、あえて大きな通る声で言ってのけた。
「な、何言って――」
「この中身、レモンの香りがしないもの。
それに、卵も違う。
この子が使ってるのは白いニワトリの卵。
この器の中に入ってるのは茶色い卵みたいね?」
そういって黒猫は器用に肉球でジョッキの中の茶色い殻をすくって見せた。
声を聞いた大通りを歩く人からも、列から身を乗り出して騒ぎを見ていた人たちからも、ボクの屋台の横に積まれた卵の色が白いことは一目でわかった。
「いい加減なことを言いやがってッ――」
短髪の男が足元の黒猫を蹴り上げる。
しかし男の変に磨かれた革のブーツが黒猫に当たることはなかった。
「いい加減なことを言ってるのはアンタじゃないの」
黒猫は、音もなく男の身体をよじ登り、黒い前脚から伸びる銀色に光る爪をその首筋に突き立てて言った。
「この、クソネコがっ。
この小僧を……」
そこまで言うと、香水クサイ男が悲鳴を上げた。
イテテテテ。
「だめですよー。
そんな汚い言葉を使っちゃ。
それに、もうやめましょうね?」
ボクの後ろに座って作業をしていたラギがボクの腕に回されていた腕を無造作に掴んでいた。
どうやら、見た目通りの怪力らしい。
「は、離せっ。
離すんだ!
おれ、折れるぅ!」
ドシン、と音がすると香水の臭いの元は既にボクを離れていた。
カァンッ。
「これに懲りたら、変な言いがかりをつけるのは辞めることね」
通りに投げ飛ばされた香水男の頭のすぐ横に、木の杖の石突が突き立てられ、石畳とぶつかって乾いた音が響いた。
「ハク!」
「ちょっと離れてる間に、楽しそうだったわね」
「楽しくなんて――
大変だったんだから!」
「そうみたいね。
ほら、アナタたちもさっさと逃げちゃいなさいな。
次は、その頭をカチ割ってあげるわ」
ハクが氷の笑顔で見下ろした先では、男がムカムカとする香水の匂いも流れ落ちるほど冷や汗をかいていた。
黒猫も短髪男を解放すると、捨て台詞も残さずに二人は逃げて行った。
「材料が足りなくなると思って、追加で買い出しにいったんだけど……
ゴメンナサイね」
ハクが曳いてきた台車には大量の牛乳の桶と卵をはじめとした材料、ミルクセーキを入れるためのジョッキなどが積まれていた。
「さぁ、このお客さんの列がミルクセーキへの期待の表れ!
味は飲んだ人に聞いて頂戴!
どんどん作るから、どんどん買っていってくださいな!」
ハクが手を打ち、拍子をつけると、御客の列はどっと増えた。
先ほどコインをしまった女性も、改めて台にコインを置いてくれた。
そして、4人。いや、三人と一匹で材料がなくなるまで、ミルクセーキを作って売り続けた。
日が暮れると、後片付けをしながらハクが言った。
「頑張ったじゃない。
すごいわよ」
「ボクだけじゃなくて、こっちのラギちゃんたちが助けてくれたから……」
「そうね。
いつの間に仲良くなってたの?」
え?
「ラギも、ジャコも、帰ってきてたなら言いなさいよ」
「そっかー
イツキくんはハクの知り合いだったんだね」
ラギが台替わりにしていた箱を片付けてクスクスと笑って言う。
「この味付けはもしかして、と思ったけど……
やっぱりハクが一枚噛んでたって訳か」
ジャコ、と呼ばれた黒猫も器用にごみを片付けながら言う。
「知り合いだったの!?」
「図らずも、ね」
ハクがフッフフと笑って後片付けは終了した。
「仲間っていいものねぇ~」
エリィがオレンジ色の夕陽を浴びてボクに言った。
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