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第1話
029. 登場人物が増え始めます15
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「うぅ、寒い……
冷たい……
まさか、こんなことになるなんて」
ボクは今、滝行をしてます。
高い場所から落ちる水に体を晒して、その痛くて冷たい水で身を清めているんです。
修行?
修行って言うか、禊というか……
「期待を裏切らない。
お前のいいところはそこだよ。
職業:観客としての仕事を立派にこなしてくれてる。
やっぱり、ウチの目に狂いはなかった」
水の当たらないところで自身に胸を張っている女神・エリィ。
きっとコイツなら、宙に浮かんでるし、手を伸ばしても触れられないのだから、ボクのそばにいても水の飛沫なんてあたらないんだろうけどさ。
いや、近くに居られたらボクも色々恥ずかしいから、有難いことはありがたいんだけど。
「キミさぁ、いい加減なこと言うのやめてよね。
大体、その職業の通りなら見てるだけだよね。
一緒になって冒険したり被害を受けたりする必要ないんじゃない?」
きっと何もかも、この女神のせいだ。
そういう思いもあったんだ。
「次から次へと敵には襲われるし、お腹もすく、そりゃあ楽しいこともあるけど……
もっと安全なところから眺めているものじゃないのかな。
『観客』って」
地肌に触れるほど浴びたカタバミの汁を頭髪の間から洗い流しつつ、恨みもこめてボクは大きめに訴えた。
滝の水が落ちる音が存外大きくて。
「ばっかねぇ~。
見てるだけじゃわからないことばっかりでしょう。
お前の耳も、鼻も、舌も――
全身使って、隈なくこの世界の事を感じ取りなさい!」
「じゃあ、エリィが自分で……」
「何の話なのだ?」
きっと彼女にはボクが滝に打たれながら何もない中空に向かってひとり、訴えているように見えたのだろう。
慌てて、取り繕おうと髪をかきあげた。
「違うんだ。
コレは……
うわぁあっ!
チガウチガウ!
見てないよ!」
ボクの目の前には、アニーが立っていた。
いつもの露出の多い軽装ですらない。
その体の輪郭がボクの視力でも見て取れるほど、ありありと。
身に着けた下着が滝の水を含んでぴったりと体にまとわりついていた。
「ああ、あの、その――
別にアニーのを覗こうとしたわけじゃなくって!
でも、なんでここに!?」
慌てて体を拭くためにそばに置いてあった布を手繰り寄せてボクは前を隠した。
「なんでって、またイツキが危ない目に遭っているのかと思ったのだ。
誰もいないはずなのに、何かしゃべっている声がしたから」
そうだった。
彼女もボクのミスで身体についた汚れを落とすために、滝を挟んで反対側にいたはずなのに、うっかりエリィに対して声を張ったから不審に思ったんだ。
「ごめんね、ボクが色々失敗するから、いつもこんな風に……」
恥ずかしさと申し訳なさで口がうまく回らない。
そんなボクの紫色になりかけていた唇に、アニーはそっと人差し指を添えてきた。
「失敗なんて取り返しがつくなら何度でもするといいのだ。
それでイツキが成長して、強くなって、一緒に居られるなら……
全然かまわないのだ」
その言葉が、ボクの胸を射抜いた。
アニーの肉感的な姿態よりも、水の粒が付いた整った顔立ちよりも、なんならさっきのカタバミの炸裂音よりも。
心臓の動きをせかして、全身や脳に血と酸素を送っていく。
「ワシも、そうできたらよかったのだ」
「それって、どういう……」
目の前の、美女の言葉の意味を解きほぐそうとして一歩、近づいた時だった。
「それよりも、ちょっと……
ね?」
彼女の視線が、ボクの顔ではなく、そのさらに下方に送られていたことに気が付いた。
そして、脈が速くなったのが結果としてもたらしたのは、彼女の赤面と、ハクたちの乱入だった。
「イツキ!?
アナタ、何をして――!」
「おーぅ、そんな勇気があったとはなぁ!」
「きゃー♪
はずかしー♪」
え? え? えぇ?
「違、違うんだ――!」
文字通り、ボクの赤裸々な叫び声が天まで届いた。
冷たい……
まさか、こんなことになるなんて」
ボクは今、滝行をしてます。
高い場所から落ちる水に体を晒して、その痛くて冷たい水で身を清めているんです。
修行?
修行って言うか、禊というか……
「期待を裏切らない。
お前のいいところはそこだよ。
職業:観客としての仕事を立派にこなしてくれてる。
やっぱり、ウチの目に狂いはなかった」
水の当たらないところで自身に胸を張っている女神・エリィ。
きっとコイツなら、宙に浮かんでるし、手を伸ばしても触れられないのだから、ボクのそばにいても水の飛沫なんてあたらないんだろうけどさ。
いや、近くに居られたらボクも色々恥ずかしいから、有難いことはありがたいんだけど。
「キミさぁ、いい加減なこと言うのやめてよね。
大体、その職業の通りなら見てるだけだよね。
一緒になって冒険したり被害を受けたりする必要ないんじゃない?」
きっと何もかも、この女神のせいだ。
そういう思いもあったんだ。
「次から次へと敵には襲われるし、お腹もすく、そりゃあ楽しいこともあるけど……
もっと安全なところから眺めているものじゃないのかな。
『観客』って」
地肌に触れるほど浴びたカタバミの汁を頭髪の間から洗い流しつつ、恨みもこめてボクは大きめに訴えた。
滝の水が落ちる音が存外大きくて。
「ばっかねぇ~。
見てるだけじゃわからないことばっかりでしょう。
お前の耳も、鼻も、舌も――
全身使って、隈なくこの世界の事を感じ取りなさい!」
「じゃあ、エリィが自分で……」
「何の話なのだ?」
きっと彼女にはボクが滝に打たれながら何もない中空に向かってひとり、訴えているように見えたのだろう。
慌てて、取り繕おうと髪をかきあげた。
「違うんだ。
コレは……
うわぁあっ!
チガウチガウ!
見てないよ!」
ボクの目の前には、アニーが立っていた。
いつもの露出の多い軽装ですらない。
その体の輪郭がボクの視力でも見て取れるほど、ありありと。
身に着けた下着が滝の水を含んでぴったりと体にまとわりついていた。
「ああ、あの、その――
別にアニーのを覗こうとしたわけじゃなくって!
でも、なんでここに!?」
慌てて体を拭くためにそばに置いてあった布を手繰り寄せてボクは前を隠した。
「なんでって、またイツキが危ない目に遭っているのかと思ったのだ。
誰もいないはずなのに、何かしゃべっている声がしたから」
そうだった。
彼女もボクのミスで身体についた汚れを落とすために、滝を挟んで反対側にいたはずなのに、うっかりエリィに対して声を張ったから不審に思ったんだ。
「ごめんね、ボクが色々失敗するから、いつもこんな風に……」
恥ずかしさと申し訳なさで口がうまく回らない。
そんなボクの紫色になりかけていた唇に、アニーはそっと人差し指を添えてきた。
「失敗なんて取り返しがつくなら何度でもするといいのだ。
それでイツキが成長して、強くなって、一緒に居られるなら……
全然かまわないのだ」
その言葉が、ボクの胸を射抜いた。
アニーの肉感的な姿態よりも、水の粒が付いた整った顔立ちよりも、なんならさっきのカタバミの炸裂音よりも。
心臓の動きをせかして、全身や脳に血と酸素を送っていく。
「ワシも、そうできたらよかったのだ」
「それって、どういう……」
目の前の、美女の言葉の意味を解きほぐそうとして一歩、近づいた時だった。
「それよりも、ちょっと……
ね?」
彼女の視線が、ボクの顔ではなく、そのさらに下方に送られていたことに気が付いた。
そして、脈が速くなったのが結果としてもたらしたのは、彼女の赤面と、ハクたちの乱入だった。
「イツキ!?
アナタ、何をして――!」
「おーぅ、そんな勇気があったとはなぁ!」
「きゃー♪
はずかしー♪」
え? え? えぇ?
「違、違うんだ――!」
文字通り、ボクの赤裸々な叫び声が天まで届いた。
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