上 下
182 / 574
愛する瞳

40

しおりを挟む

 
 
 
 
 
 
 
 そしてソンジュさんは、あいかわらず僕の手を引き、僕の腰の裏を抱いて、ゆったりとしたピアノの音に合わせて緩やかに踊りながら――人形のように整った真顔を、くいと少し傾けて見せる。
 
「…俺が思うにケグリは、ユンファさんに異常なほど執着しているように思います。――それこそ最終的には、貴方と本当に結婚したかったのかもね…」
 
 ソンジュさんの言っていることは、僕もはなはだ同意するところだ。――「ええ」と合わせてステップを踏みながら答えた僕に、ソンジュさんは確信の自信を深めたのか、やや口調を強くする。
 
「…やはり貴方もそう思いますか。ケグリは、どうやらユンファさんに、本気の恋をしている。――分不相応な、ね。」
 
「…そうかもしれませんね…」
 
 そこでかなり真剣な顔をしたソンジュさんは、さらにケグリ氏を責めるような、激しい強さのある口調で。
 
「…ですが、単純な恋心というのも少し違うかと。――あの男はおそらく、ユンファさんをあのまま支配し続けたかったのですよ。…」
 
「…………」
 
 支配…――性奴隷として、ということだろうか。
 ソンジュさんは僕のその考えを、やはり僕の目を見ただけで神妙に見透かしてきた。
 
「……ユンファさんはきっと、性奴隷としての立場のみのことだとお考えでしょう。…貴方は今、自分は心の底からケグリたちに支配などされていない、とお思いかもしれません。――しかし、。…いいですか、ユンファさん。」
 
「………、…」
 
 僕は――ソンジュさんの、僕の目を射抜くような真剣な眼差しをぼんやりと見ている。…その人の、ゆったりと言い聞かせるような強く固い声が、僕の頭にこう響く。
 
 
「貴方は、ケグリたちに、のですよ。…肉体のみならず、精神、思考も、感情も…、ね。」
 
 
「……、…、…」
 
 僕…――僕、…支配…支配されて、いる。
 ソンジュさんは、少しまぶたを細めて目を翳らせる。
 
「ユンファさんの尊厳を壊し、言いなりの性奴隷として…もう戻れない、あとには引けないという状況になったユンファさんを支配し、最終的には……」
 
「わからないんです…、…」
 
 そうなのか、どうなのか…僕にはもうわかっていない。判別がつかないのだ。――自分の意思なのかもしれないし、ケグリ氏の意思なのかもしれない、ケグリ氏に言われたから、指示されたからそうなのかもしれないが、…彼らの命令に頷くのはたしかに、僕なのだ。
 
「わからないんです……、僕、でも…ケグリ氏たちが見えない僕の思考まで、支配できるわけがないんじゃないですか…、それに、彼らを憎んでいました、僕、ちゃんと……」
 
 するとソンジュさんは真剣な目をしたまま、「いいえ」ときっぱり否定した。
 
「……それこそが、の恐ろしいところなのですよ…」
 
「……マインドコントロール…?」
 
 なんだっけ、それ…――。
 ソンジュさんは立ち止まり、つう…とその切れ長のまぶたを鋭く細めると、さらに僕の腰の裏を抱き寄せてくる。
 
「…マインドコントロールというのは…――他人の精神を支配し、人知れず操るものです。…しかし、そのマインドコントロールをされている人は、あたかも自分の意思で決定、判断したというように感じている…、貴方は元来、とても賢い人だ。」
 
 ソンジュさんは、鋭く真剣な目をしている。
 
「…ユンファさんには、多角的かつ複雑に思考する能力がある。現に…――先ほども決して、貴方は二元論で物を語りはしなかった…、ユンファさんは、属性によって判断できることはない、とおっしゃいましたね……」
 
「………、…」
 
 僕は、小さくそれに頷いた。
 するとソンジュさんは、その眼光を強めたのだ。
 
 
「…しかし…――ご自分を淫魔と称するユンファさんは、は…善と悪、そのでしょう……」
 
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大親友に監禁される話

だいたい石田
BL
孝之が大親友の正人の家にお泊りにいくことになった。 目覚めるとそこは大型犬用の檻だった。 R描写はありません。 トイレでないところで小用をするシーンがあります。 ※この作品はピクシブにて別名義にて投稿した小説を手直ししたものです。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

【完結】紅く染まる夜の静寂に ~吸血鬼はハンターに溺愛される~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
 吸血鬼を倒すハンターである青年は、美しい吸血鬼に魅せられ囚われる。  若きハンターは、己のルーツを求めて『吸血鬼の純血種』を探していた。たどり着いた古城で、美しい黒髪の青年と出会う。彼は自らを純血の吸血鬼王だと名乗るが……。  対峙するはずの吸血鬼に魅せられたハンターは、吸血鬼王に血と愛を捧げた。  ハンター×吸血鬼、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血描写・吸血表現あり  ※印は性的表現あり 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 全89話+外伝3話、2019/11/29完

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

ドS×ドM

桜月
BL
玩具をつかってドSがドMちゃんを攻めます。 バイブ・エネマグラ・ローター・アナルパール・尿道責め・放置プレイ・射精管理・拘束・目隠し・中出し・スパンキング・おもらし・失禁・コスプレ・S字結腸・フェラ・イマラチオなどです。 2人は両思いです。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

処理中です...