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いちごミルクのフラッペ
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暑くなるこの季節には、少し早めだけどフラッペメニューが加わる。もちろんそれはフェリシアでも例外なく行われる事で、今回からなんと、写真付きのメニューを作るということになったのだ。
それは私が前の会社でやっていた仕事でもあり、提案してみたところすんなりと通ったので驚いた。けれど視覚の効果は強いと知っているだけにここは腕の見せどころ。頑張らねば。
フラッペとオシャレに言ってるけど要はかき氷だ。
「マスター、いちごミルクの写真でいいんですよね?」
「そうだね。あれが一番華やかでいいし」
顎の下に手を当て、少し悩んだところで写真を撮る1枚を決めた。メニューに挟む分と壁に貼る予定の取っておきの1枚を撮るのだ。
正方形型の簡易スタジオセットをうちから持って来ていたので、それを広げる。4人掛けのテーブル席が埋まってしまうほど嵩張るスタジオセットは、研修という名の強制購入した物であり、過去の遺産だ。もう必要ないと思っていただけにまた活躍できて嬉しい。
背景となる色を黒、白、グレー、青の中から白を選びセット内の布をたるませるようにして掛ける。こうすることにより壁と底の線ができなくなり、無駄な影が減る。私は余程の事がない限り背景に白を使う癖があったが、これで別に困ることとかなかっただけにこれが最善と思っている。
スタンドライトを当てて光源を真上に来るようにし、セット内に火が均一に回るように調節する。
「マスター、こっちは大丈夫です」
「プロみたいだね」
「プロだったんですけどね」
「そうだったの?はやく言ってくれれば良かったのに。そしたら色々と」
「残業はちょっと……」
冗談まじりに笑い合うと早速フラッペが溶けないうちに撮影することになった。
フラッペは時間勝負。氷なだけにライトの光だけで溶けてしまう。
漆塗り風の四角い和風なトレイにこんもりと盛られた氷にいちごをクラッシュしたジャムにも似た特製のソース、細切りにしたいちごの赤が美しい。添えられたミントの葉は店長が育てたものだ。木匙と練乳が入った小さなガラス製のミルクピッチャーを手前に見えるように置き、撮影用なので冷たくなってはいるが煎茶も画面に映るように添える。
レンズを絞り、2、3枚ペースで続けて撮っていく。一番真剣になる時だ。
笑顔を作ることもなく撮影する物が一番美しく見えるように意識する。角度を変えて数枚、近くにより数枚、溶ける前に何度も写真を撮った。
「こんなもんですかね」
「お疲れ様。せっかくだしそれ食べて良いよ」
「わぁ!本当ですか?」
カメラをそっとテーブルに置き、椅子をひいて早速座る。こう脳みそを使った後は甘いものが嬉しい。
金属製のスプーンじゃないというところに優しさとぬくもりを感じる。
しゃくりと音を立てて匙で掬うと、そのまままずひとくち。
「んっ!つめたっ」
ひやりとした冷たさが舌を刺す。続いて甘くてほんのり酸っぱいジャムに近いペーストがゆっくりと溶けた氷とまじり合う。
ヨーグルトにかけてもじゅうぶんデザートになる手作りのいちごのソースは、それだけでも完成品だ。引き立てるはずのソースですらこんなにも主役級の力を持っている。ここに更に練乳をかけたらどんなことになってしまうのだろう。
期待が高まり、ゆっくり円を描くようにし練乳をかけると、その部分だけ溶けて僅かなへこみを作る。これは贅沢だ。いちごの赤に練乳が混じり斑なピンクに染まる。染まりきらない果肉が白を弾き、よりその赤を主張する。
「やっぱりいちごには練乳よね」
すぅっと息を吸い、ごろっとした果肉ごと氷を口へ運ぶと濃厚なれんにの濃さに混じりいちごの粒がぷちりと砕ける。
最近はチアシードとかバジルシードとか流行っているけど、その食感はいちごに近い気がする。見た目でダメっていう人もいるけど、あれは見た目で損するタイプだ。いちごならこんなにも可愛らしいのに。
しゃくしゃく音を立て混ぜては氷を馴染ませ口に運び、時折お茶を飲む。甘いものの後は渋いものを取ることにより、口の中の残った味がすっきりと引き締まる。
そして食べ続けているうちに重大な事に気がつく。
「あれ?マスター、これあたまキーンってならないんですね?」
結構急いで食べているのにそれがない。見たところ普通に作っていたみたいだし、何が違うのかが分からなかった。
「天然氷を使ってるからね。分子レベルの話になるけど、そういう違いが人の体に直結するんだもん面白いよね」
「そうなんですか。なるほど」
水道水で作るかき氷とは違うってことね。
そして食べ終える頃にはすっかり体の熱も下がり、少し寒く感じるまでになっていた。この状態で外に出るなら、きっと暑い空気もまた心地よく感じるんだろうな。
でもここはエアコンが頑張って気温を一定にしている室内。お腹を冷やさないようにしないといけない。
「マスター、文字なんですがどうするんです?」
印刷出さなきゃと思っていたら、ふと文字入れをしていないことに気づく。
「ああ、それなんだけど、明日開店前にお客さんを呼ぶから。その人に任せることになってるんだ」
「開店前……ですか」
「その辺は大丈夫だよ。今までだってメニューの文字を書いてた人だし」
「魔術文字ですよね。コピーしても大丈夫ってことだからパソコンでレイアウトとか弄っても大丈夫なんでしょうか」
「大丈夫なんじゃない?原型崩さなければ多分いけると思う」
「うーん……明日その辺打ち合わせしてみます」
「そうだね」
魔術文字を書くことが出来るっていうのなら、やっぱり魔術師なんだろうか。
開店前に現れるというそのお客さんに期待と不安を抱きつつ、明日までに文字入れしていないサンプルをプリントアウトしておこうと考える私なのだった。
それは私が前の会社でやっていた仕事でもあり、提案してみたところすんなりと通ったので驚いた。けれど視覚の効果は強いと知っているだけにここは腕の見せどころ。頑張らねば。
フラッペとオシャレに言ってるけど要はかき氷だ。
「マスター、いちごミルクの写真でいいんですよね?」
「そうだね。あれが一番華やかでいいし」
顎の下に手を当て、少し悩んだところで写真を撮る1枚を決めた。メニューに挟む分と壁に貼る予定の取っておきの1枚を撮るのだ。
正方形型の簡易スタジオセットをうちから持って来ていたので、それを広げる。4人掛けのテーブル席が埋まってしまうほど嵩張るスタジオセットは、研修という名の強制購入した物であり、過去の遺産だ。もう必要ないと思っていただけにまた活躍できて嬉しい。
背景となる色を黒、白、グレー、青の中から白を選びセット内の布をたるませるようにして掛ける。こうすることにより壁と底の線ができなくなり、無駄な影が減る。私は余程の事がない限り背景に白を使う癖があったが、これで別に困ることとかなかっただけにこれが最善と思っている。
スタンドライトを当てて光源を真上に来るようにし、セット内に火が均一に回るように調節する。
「マスター、こっちは大丈夫です」
「プロみたいだね」
「プロだったんですけどね」
「そうだったの?はやく言ってくれれば良かったのに。そしたら色々と」
「残業はちょっと……」
冗談まじりに笑い合うと早速フラッペが溶けないうちに撮影することになった。
フラッペは時間勝負。氷なだけにライトの光だけで溶けてしまう。
漆塗り風の四角い和風なトレイにこんもりと盛られた氷にいちごをクラッシュしたジャムにも似た特製のソース、細切りにしたいちごの赤が美しい。添えられたミントの葉は店長が育てたものだ。木匙と練乳が入った小さなガラス製のミルクピッチャーを手前に見えるように置き、撮影用なので冷たくなってはいるが煎茶も画面に映るように添える。
レンズを絞り、2、3枚ペースで続けて撮っていく。一番真剣になる時だ。
笑顔を作ることもなく撮影する物が一番美しく見えるように意識する。角度を変えて数枚、近くにより数枚、溶ける前に何度も写真を撮った。
「こんなもんですかね」
「お疲れ様。せっかくだしそれ食べて良いよ」
「わぁ!本当ですか?」
カメラをそっとテーブルに置き、椅子をひいて早速座る。こう脳みそを使った後は甘いものが嬉しい。
金属製のスプーンじゃないというところに優しさとぬくもりを感じる。
しゃくりと音を立てて匙で掬うと、そのまままずひとくち。
「んっ!つめたっ」
ひやりとした冷たさが舌を刺す。続いて甘くてほんのり酸っぱいジャムに近いペーストがゆっくりと溶けた氷とまじり合う。
ヨーグルトにかけてもじゅうぶんデザートになる手作りのいちごのソースは、それだけでも完成品だ。引き立てるはずのソースですらこんなにも主役級の力を持っている。ここに更に練乳をかけたらどんなことになってしまうのだろう。
期待が高まり、ゆっくり円を描くようにし練乳をかけると、その部分だけ溶けて僅かなへこみを作る。これは贅沢だ。いちごの赤に練乳が混じり斑なピンクに染まる。染まりきらない果肉が白を弾き、よりその赤を主張する。
「やっぱりいちごには練乳よね」
すぅっと息を吸い、ごろっとした果肉ごと氷を口へ運ぶと濃厚なれんにの濃さに混じりいちごの粒がぷちりと砕ける。
最近はチアシードとかバジルシードとか流行っているけど、その食感はいちごに近い気がする。見た目でダメっていう人もいるけど、あれは見た目で損するタイプだ。いちごならこんなにも可愛らしいのに。
しゃくしゃく音を立て混ぜては氷を馴染ませ口に運び、時折お茶を飲む。甘いものの後は渋いものを取ることにより、口の中の残った味がすっきりと引き締まる。
そして食べ続けているうちに重大な事に気がつく。
「あれ?マスター、これあたまキーンってならないんですね?」
結構急いで食べているのにそれがない。見たところ普通に作っていたみたいだし、何が違うのかが分からなかった。
「天然氷を使ってるからね。分子レベルの話になるけど、そういう違いが人の体に直結するんだもん面白いよね」
「そうなんですか。なるほど」
水道水で作るかき氷とは違うってことね。
そして食べ終える頃にはすっかり体の熱も下がり、少し寒く感じるまでになっていた。この状態で外に出るなら、きっと暑い空気もまた心地よく感じるんだろうな。
でもここはエアコンが頑張って気温を一定にしている室内。お腹を冷やさないようにしないといけない。
「マスター、文字なんですがどうするんです?」
印刷出さなきゃと思っていたら、ふと文字入れをしていないことに気づく。
「ああ、それなんだけど、明日開店前にお客さんを呼ぶから。その人に任せることになってるんだ」
「開店前……ですか」
「その辺は大丈夫だよ。今までだってメニューの文字を書いてた人だし」
「魔術文字ですよね。コピーしても大丈夫ってことだからパソコンでレイアウトとか弄っても大丈夫なんでしょうか」
「大丈夫なんじゃない?原型崩さなければ多分いけると思う」
「うーん……明日その辺打ち合わせしてみます」
「そうだね」
魔術文字を書くことが出来るっていうのなら、やっぱり魔術師なんだろうか。
開店前に現れるというそのお客さんに期待と不安を抱きつつ、明日までに文字入れしていないサンプルをプリントアウトしておこうと考える私なのだった。
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