運命だけはいらない

文字の大きさ
上 下
5 / 5

しおりを挟む
「おはよー」
「……はよ」

昨日は海里さんとタロさんが開いてくれたお祝い会が深夜まで続いたため、眠くて挨拶するのもダルい。
これでも、タロさんが海里さんを連れ帰ってくれたから早く終わった方だ。
あのままだと朝までコースだった。
タロさんが真っ赤になりながら海里さんに耳打ちした後に上機嫌で帰るって言い出したから、たぶん自分の身を犠牲にして俺の睡眠時間を作ってくれたんだと思う。
……タロさん、あれから何させられたんだろ。
どエロいタロさんを想像しそうになった。
海里さんに殺される。

朝からそんなことを考えながら足取り重く教室に向かう。
すると、目の前を歩く姿に見覚えがあった。
「椿ー」
声をかけると、ビクッと肩を揺らし、ゆっくり振り返る。
俺の姿を見ると、周囲をキョロキョロし、自分を指差す。
「えっ、ぼ、ぼ、僕?」
「他に椿がいるのかよ」
その動きが小動物っぽくて、思わず笑ってしまう。

「お前、放課後空いてる?ちょっと話さねぇ?」
「あ、あいて、ます」
「なんで敬語なんだよ。じゃあ、そのまま自分の教室にいろよー」
何度もコクコク頷く椿の頭を片手でぐちゃぐちゃにし、笑いながら教室に入る。

「ご機嫌だな、シン」
「そうか?」
確かに、登校時のダルさはない。
小動物っぽい椿の姿に癒されたのかも。
また思い出し、ふっと笑うと「イケメンαの笑顔、まぶしー」と外野が騒ぎ出す。
「うるせー」
その日も一日αネタでからかわれ、うざかった。
αだと持て囃される度に、脳裏にちらりと椿が浮かぶ。
あいつも、からかわれたりしてるんだろうか。
……上手く、かわせてるといーけど。

そんなことを考えながらダラダラと放課後まで過ごす。
やっと終わり、椿のクラスまで行こうとすると担任に呼び止められる。
「西宮~、お前成績が良いからって授業サボりすぎだぞ~。とりあえず、レポート書け」
「はぁー!?今から?俺、予定があんだけど?」
「今からだ!」
おいおい……よりによって今日かよ。
とりあえず、椿に行けないって伝えとかないと。
「ちょっとだけ、抜けたい」
「ダメだ。そのまま帰ってこないつもりだろ」
「信用ないなー」
「あるか」
やべー。
椿待たせるな……まぁ、遅くなったら勝手に帰るか。



「ったく、レポート多いんだよっ」
めちゃくちゃな量のレポートをやらされ、うんざりする。
もう外も暗く、校舎は静まり返っている。
教室を出て、担任に言われた通り教室の電気を消すと、廊下も真っ暗……ん?
一番奥の教室に灯りがついている。
椿のクラス……まさか。
あれから、三時間以上経ってる。
朝、軽く約束しただけだ。
待っている訳……ない。

少し足早に椿のクラスに向かう。
教室の引き戸を開けると、そこには一人、椿が机に座り何か書いていた。
「つ、ばき!?」
驚きながら声をかけると、ぱっと顔を上げる。
「あっ、に、西宮くん、お疲れ様です……」
「お前、なんで……」
「?朝、話があるって……」
「三時間以上経ってるんだぞ!?」
「ごめんっ、なさい」
「いや、何で、お前……」

俺はその場で脱力し、うずくまる。
こいつ……友達でも恋人でもない俺の軽口の約束を……何で。
「に、西宮くん?」
はぁーっと、大きくため息をつく。
「帰ろうと、思わなかったのか?」
「……もう少ししたら帰ろうと思って……でも、まだできること、あったので」
椿の手元を見ると、現国の教科書とノート。
そのノートにはびっしり漢字が書いてあった。
勉強してたのか。
「試験、まだ先だろ?」
「僕、要領悪いから……」
「ふぅん」

とりあえず、椿の前の席に座る。
「悪い。授業サボってるペナルティでレポート書かされてて。教室から出して貰えなくてな。誰かに伝言頼めば良かった」
「お疲れ様です」
ペコリと頭を下げる。
俺は吹き出すのを必死で我慢した。
「あ、謝らなくても、僕のことなら、大丈夫。あの、朝言ってた、の、は?」
「あぁ……」
ここまで待たせておいて、特に何もない、と言いにくい。

「お前、Ωだろ?」
「は、はい」
「俺、αなんだよ」
「知ってます」
「ヒートは?」
「ま、まだ。でも、抑制剤は怖いから飲んでおきなさいって」
「親が?」
「いえ、僕、児童養護施設で育ってて、そこの職員さんに言われて」
「ふーん」

いやこれ、同級生の会話か?
何で敬語なんだよ。

「休みの日は何してんの?」
「図書館で勉強してます」
「明日は?」
「図書館で勉強してます」
「じゃあ、図書館前で待ち合わせな」
「え?」
「今日のお詫びに、明日一日付き合えよ。帰るぞ」

我ながら、自己中だな。

席を立って、教室を出ようとすると、慌てて椿が通学に使っているであろうリュックに使っていた教科書たちを仕舞い、背負う。
とてとてと小走りで俺に追い付くと、困惑気味に俺を見上げた。

「え、あの、休みの日なのに、僕、と?」
「そーそー。で、明日は敬語禁止な?」
「い、いや、僕、敬語が癖でっ」
「禁止な?」
有無を言わさず、近距離で凄む。
「は、はい」
「き・ん・し」
「う、う、うんっ」

「んじゃ、帰ろーぜ」
「はいっ!あっ」
しまった!という顔が面白くて、思わず吹き出す。
「……明日までに練習しとけよ?」
椿は何度も頷いた。

この生き物、面白い。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(7件)

ねこ三毛
2023.02.15 ねこ三毛

新作ありがとーございます!
息子っちのお話し?と思って読んでみたらタロちゃん達も居ましたね(*´艸`)

こころ君の恋、楽しみです(σ*´∀`)

優
2023.02.23

ねこ三毛さん~感想ありがとうございます&お返事遅くなって申し訳ないですー(スライディング土下座)

めちゃめちゃ更新できてないこのお話……読んで頂いてありがとうございます♪
そうなんです~息子の話なので、ちらっと前のも出てきます♡

多忙な時期で更新できてませんが、必ず全作品完結させますので、お待ち下さい~!!

また読んで頂けると嬉しいです~よろしくお願いいたします♪

解除
レボライやまもと

何度読んでもドキドキしながら読んでます🥰

優
2022.12.15

レボライやまもとさん~感想ありがとうございます♪とても嬉しいです!!

更新遅くなってしまって、申し訳ないです(号泣)
そんな作品を何度も読んで頂いているなんて……うぅ。

ちゃんと、続き書きますので、もう少しお待ち下さいー(土下座)

更新頑張りますので、また読んで頂けると嬉しいです♪

解除
モリタン
2022.11.30 モリタン

こちら、更新は😭
めちゃめちゃ続きが気になってます😭😭

優
2022.12.15

モリタンさん~感想ありがとうございます~!とても嬉しいです♪

す、すみません!感想の承認も遅くなってしまいました(土下座)

書けないー(号泣)
クズを、書くと自分で決めたくせに……主役のクズが書けない!!
めちゃめちゃ書き直してます……。
うぅ。

でも!
もちろん、このままにはしませんからっ。
絶対!!

もう少々お待ち下さい(涙)

解除

あなたにおすすめの小説

ひとりぼっちの180日

あこ
BL
付き合いだしたのは高校の時。 何かと不便な場所にあった、全寮制男子高校時代だ。 篠原茜は、その学園の想像を遥かに超えた風習に驚いたものの、順調な滑り出しで学園生活を始めた。 二年目からは学園生活を楽しみ始め、その矢先、田村ツトムから猛アピールを受け始める。 いつの間にか絆されて、二年次夏休みを前に二人は付き合い始めた。 ▷ よくある?王道全寮制男子校を卒業したキャラクターばっかり。 ▷ 綺麗系な受けは学園時代保健室の天使なんて言われてた。 ▷ 攻めはスポーツマン。 ▶︎ タグがネタバレ状態かもしれません。 ▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

お試し交際終了

いちみやりょう
BL
「俺、神宮寺さんが好きです。神宮寺さんが白木のことを好きだったことは知ってます。だから今俺のこと好きじゃなくても構わないんです。お試しでもいいから、付き合ってみませんか」 「お前、ゲイだったのか?」 「はい」 「分かった。だが、俺は中野のこと、好きにならないかもしんねぇぞ?」 「それでもいいです! 好きになってもらえるように頑張ります」 「そうか」 そうして俺は、神宮寺さんに付き合ってもらえることになった。

アルファだけの世界に転生した僕、オメガは王子様の性欲処理のペットにされて

天災
BL
 アルファだけの世界に転生したオメガの僕。  王子様の性欲処理のペットに?

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。