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「おはよー」
「……はよ」
昨日は海里さんとタロさんが開いてくれたお祝い会が深夜まで続いたため、眠くて挨拶するのもダルい。
これでも、タロさんが海里さんを連れ帰ってくれたから早く終わった方だ。
あのままだと朝までコースだった。
タロさんが真っ赤になりながら海里さんに耳打ちした後に上機嫌で帰るって言い出したから、たぶん自分の身を犠牲にして俺の睡眠時間を作ってくれたんだと思う。
……タロさん、あれから何させられたんだろ。
どエロいタロさんを想像しそうになった。
海里さんに殺される。
朝からそんなことを考えながら足取り重く教室に向かう。
すると、目の前を歩く姿に見覚えがあった。
「椿ー」
声をかけると、ビクッと肩を揺らし、ゆっくり振り返る。
俺の姿を見ると、周囲をキョロキョロし、自分を指差す。
「えっ、ぼ、ぼ、僕?」
「他に椿がいるのかよ」
その動きが小動物っぽくて、思わず笑ってしまう。
「お前、放課後空いてる?ちょっと話さねぇ?」
「あ、あいて、ます」
「なんで敬語なんだよ。じゃあ、そのまま自分の教室にいろよー」
何度もコクコク頷く椿の頭を片手でぐちゃぐちゃにし、笑いながら教室に入る。
「ご機嫌だな、シン」
「そうか?」
確かに、登校時のダルさはない。
小動物っぽい椿の姿に癒されたのかも。
また思い出し、ふっと笑うと「イケメンαの笑顔、まぶしー」と外野が騒ぎ出す。
「うるせー」
その日も一日αネタでからかわれ、うざかった。
αだと持て囃される度に、脳裏にちらりと椿が浮かぶ。
あいつも、からかわれたりしてるんだろうか。
……上手く、かわせてるといーけど。
そんなことを考えながらダラダラと放課後まで過ごす。
やっと終わり、椿のクラスまで行こうとすると担任に呼び止められる。
「西宮~、お前成績が良いからって授業サボりすぎだぞ~。とりあえず、レポート書け」
「はぁー!?今から?俺、予定があんだけど?」
「今からだ!」
おいおい……よりによって今日かよ。
とりあえず、椿に行けないって伝えとかないと。
「ちょっとだけ、抜けたい」
「ダメだ。そのまま帰ってこないつもりだろ」
「信用ないなー」
「あるか」
やべー。
椿待たせるな……まぁ、遅くなったら勝手に帰るか。
「ったく、レポート多いんだよっ」
めちゃくちゃな量のレポートをやらされ、うんざりする。
もう外も暗く、校舎は静まり返っている。
教室を出て、担任に言われた通り教室の電気を消すと、廊下も真っ暗……ん?
一番奥の教室に灯りがついている。
椿のクラス……まさか。
あれから、三時間以上経ってる。
朝、軽く約束しただけだ。
待っている訳……ない。
少し足早に椿のクラスに向かう。
教室の引き戸を開けると、そこには一人、椿が机に座り何か書いていた。
「つ、ばき!?」
驚きながら声をかけると、ぱっと顔を上げる。
「あっ、に、西宮くん、お疲れ様です……」
「お前、なんで……」
「?朝、話があるって……」
「三時間以上経ってるんだぞ!?」
「ごめんっ、なさい」
「いや、何で、お前……」
俺はその場で脱力し、うずくまる。
こいつ……友達でも恋人でもない俺の軽口の約束を……何で。
「に、西宮くん?」
はぁーっと、大きくため息をつく。
「帰ろうと、思わなかったのか?」
「……もう少ししたら帰ろうと思って……でも、まだできること、あったので」
椿の手元を見ると、現国の教科書とノート。
そのノートにはびっしり漢字が書いてあった。
勉強してたのか。
「試験、まだ先だろ?」
「僕、要領悪いから……」
「ふぅん」
とりあえず、椿の前の席に座る。
「悪い。授業サボってるペナルティでレポート書かされてて。教室から出して貰えなくてな。誰かに伝言頼めば良かった」
「お疲れ様です」
ペコリと頭を下げる。
俺は吹き出すのを必死で我慢した。
「あ、謝らなくても、僕のことなら、大丈夫。あの、朝言ってた、の、は?」
「あぁ……」
ここまで待たせておいて、特に何もない、と言いにくい。
「お前、Ωだろ?」
「は、はい」
「俺、αなんだよ」
「知ってます」
「ヒートは?」
「ま、まだ。でも、抑制剤は怖いから飲んでおきなさいって」
「親が?」
「いえ、僕、児童養護施設で育ってて、そこの職員さんに言われて」
「ふーん」
いやこれ、同級生の会話か?
何で敬語なんだよ。
「休みの日は何してんの?」
「図書館で勉強してます」
「明日は?」
「図書館で勉強してます」
「じゃあ、図書館前で待ち合わせな」
「え?」
「今日のお詫びに、明日一日付き合えよ。帰るぞ」
我ながら、自己中だな。
席を立って、教室を出ようとすると、慌てて椿が通学に使っているであろうリュックに使っていた教科書たちを仕舞い、背負う。
とてとてと小走りで俺に追い付くと、困惑気味に俺を見上げた。
「え、あの、休みの日なのに、僕、と?」
「そーそー。で、明日は敬語禁止な?」
「い、いや、僕、敬語が癖でっ」
「禁止な?」
有無を言わさず、近距離で凄む。
「は、はい」
「き・ん・し」
「う、う、うんっ」
「んじゃ、帰ろーぜ」
「はいっ!あっ」
しまった!という顔が面白くて、思わず吹き出す。
「……明日までに練習しとけよ?」
椿は何度も頷いた。
この生き物、面白い。
「……はよ」
昨日は海里さんとタロさんが開いてくれたお祝い会が深夜まで続いたため、眠くて挨拶するのもダルい。
これでも、タロさんが海里さんを連れ帰ってくれたから早く終わった方だ。
あのままだと朝までコースだった。
タロさんが真っ赤になりながら海里さんに耳打ちした後に上機嫌で帰るって言い出したから、たぶん自分の身を犠牲にして俺の睡眠時間を作ってくれたんだと思う。
……タロさん、あれから何させられたんだろ。
どエロいタロさんを想像しそうになった。
海里さんに殺される。
朝からそんなことを考えながら足取り重く教室に向かう。
すると、目の前を歩く姿に見覚えがあった。
「椿ー」
声をかけると、ビクッと肩を揺らし、ゆっくり振り返る。
俺の姿を見ると、周囲をキョロキョロし、自分を指差す。
「えっ、ぼ、ぼ、僕?」
「他に椿がいるのかよ」
その動きが小動物っぽくて、思わず笑ってしまう。
「お前、放課後空いてる?ちょっと話さねぇ?」
「あ、あいて、ます」
「なんで敬語なんだよ。じゃあ、そのまま自分の教室にいろよー」
何度もコクコク頷く椿の頭を片手でぐちゃぐちゃにし、笑いながら教室に入る。
「ご機嫌だな、シン」
「そうか?」
確かに、登校時のダルさはない。
小動物っぽい椿の姿に癒されたのかも。
また思い出し、ふっと笑うと「イケメンαの笑顔、まぶしー」と外野が騒ぎ出す。
「うるせー」
その日も一日αネタでからかわれ、うざかった。
αだと持て囃される度に、脳裏にちらりと椿が浮かぶ。
あいつも、からかわれたりしてるんだろうか。
……上手く、かわせてるといーけど。
そんなことを考えながらダラダラと放課後まで過ごす。
やっと終わり、椿のクラスまで行こうとすると担任に呼び止められる。
「西宮~、お前成績が良いからって授業サボりすぎだぞ~。とりあえず、レポート書け」
「はぁー!?今から?俺、予定があんだけど?」
「今からだ!」
おいおい……よりによって今日かよ。
とりあえず、椿に行けないって伝えとかないと。
「ちょっとだけ、抜けたい」
「ダメだ。そのまま帰ってこないつもりだろ」
「信用ないなー」
「あるか」
やべー。
椿待たせるな……まぁ、遅くなったら勝手に帰るか。
「ったく、レポート多いんだよっ」
めちゃくちゃな量のレポートをやらされ、うんざりする。
もう外も暗く、校舎は静まり返っている。
教室を出て、担任に言われた通り教室の電気を消すと、廊下も真っ暗……ん?
一番奥の教室に灯りがついている。
椿のクラス……まさか。
あれから、三時間以上経ってる。
朝、軽く約束しただけだ。
待っている訳……ない。
少し足早に椿のクラスに向かう。
教室の引き戸を開けると、そこには一人、椿が机に座り何か書いていた。
「つ、ばき!?」
驚きながら声をかけると、ぱっと顔を上げる。
「あっ、に、西宮くん、お疲れ様です……」
「お前、なんで……」
「?朝、話があるって……」
「三時間以上経ってるんだぞ!?」
「ごめんっ、なさい」
「いや、何で、お前……」
俺はその場で脱力し、うずくまる。
こいつ……友達でも恋人でもない俺の軽口の約束を……何で。
「に、西宮くん?」
はぁーっと、大きくため息をつく。
「帰ろうと、思わなかったのか?」
「……もう少ししたら帰ろうと思って……でも、まだできること、あったので」
椿の手元を見ると、現国の教科書とノート。
そのノートにはびっしり漢字が書いてあった。
勉強してたのか。
「試験、まだ先だろ?」
「僕、要領悪いから……」
「ふぅん」
とりあえず、椿の前の席に座る。
「悪い。授業サボってるペナルティでレポート書かされてて。教室から出して貰えなくてな。誰かに伝言頼めば良かった」
「お疲れ様です」
ペコリと頭を下げる。
俺は吹き出すのを必死で我慢した。
「あ、謝らなくても、僕のことなら、大丈夫。あの、朝言ってた、の、は?」
「あぁ……」
ここまで待たせておいて、特に何もない、と言いにくい。
「お前、Ωだろ?」
「は、はい」
「俺、αなんだよ」
「知ってます」
「ヒートは?」
「ま、まだ。でも、抑制剤は怖いから飲んでおきなさいって」
「親が?」
「いえ、僕、児童養護施設で育ってて、そこの職員さんに言われて」
「ふーん」
いやこれ、同級生の会話か?
何で敬語なんだよ。
「休みの日は何してんの?」
「図書館で勉強してます」
「明日は?」
「図書館で勉強してます」
「じゃあ、図書館前で待ち合わせな」
「え?」
「今日のお詫びに、明日一日付き合えよ。帰るぞ」
我ながら、自己中だな。
席を立って、教室を出ようとすると、慌てて椿が通学に使っているであろうリュックに使っていた教科書たちを仕舞い、背負う。
とてとてと小走りで俺に追い付くと、困惑気味に俺を見上げた。
「え、あの、休みの日なのに、僕、と?」
「そーそー。で、明日は敬語禁止な?」
「い、いや、僕、敬語が癖でっ」
「禁止な?」
有無を言わさず、近距離で凄む。
「は、はい」
「き・ん・し」
「う、う、うんっ」
「んじゃ、帰ろーぜ」
「はいっ!あっ」
しまった!という顔が面白くて、思わず吹き出す。
「……明日までに練習しとけよ?」
椿は何度も頷いた。
この生き物、面白い。
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