運命だけはいらない

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俺のαの紙を持って、やっぱりなーすげーと騒ぐ声を他人事のように机に臥して聞く。

あー、つまんねー。
結局、αか。
フェロモンを感じるようになると、抑制剤を飲んで過ごすくらいしか変わらない。

この日に俺の運命がガラリと変わる気がしていたのに。

えぇー!
またクラスが騒ぎだす。
「紗世、βなの~」
「Ωだと思ってたのに、意外~」
顔を上げ、今朝会った顔をちらりと見ると顔を青白くさせ俯いていた。
周囲の女達は鬼の首でも取ったかのように口々に喚く。
「こんなに可愛くてもβなんだ?」
「コレで普通の可愛さのレベルか~」

褒めてるかのような言い回しだが、普通にディスってるだろ、コレ。
別にβだからといって、その容姿が明日から変わる訳じゃない。
なんでそんなに落ち込む必要があるんだ?

俺ならΩだと分かろうが、変わらずαの女抱くけどな。

劇的な日常の変化を期待しながらも、結局変わらない自分を知り、嘆息する。
すでに海里さん達と騒げる夜に思いを馳せていると、またどよめきが起こる。
「椿、Ωだって!」
誰だ?それ。

「シン!椿がΩだってよ」
「椿って?」
「出たよ~ホントお前は無関心だな。隣のクラスの天野椿あまのつばきだよ」
「ふーん」
そんな女いたんだ。
「お前、ふーんって……Ωなのに、関心ねぇなぁ」
αって分かっても変わんねぇな、と苦笑されながらも、興味のない俺はそのままふて寝した。


放課後、いつの間にか誰もいなくなっていた薄暗い教室で一人、目を覚ます。
うーわ、ずっと寝てたのか……。
基本、授業中寝ていても教師に注意はされない。
入学以来、ずっと一位だからだ。
それにしても帰る前に誰か起こせよ……と思いながら、早く帰らないとまた親父に文句言われると舌打ちし、急いで昇降口に向かう。
すると、ドンッと音が聞こえる。
なんだ?
続いて、椅子などが倒れる音がした。
喧嘩かいじめか?
いつもなら興味もなくそのまま帰るのに、なぜかその時は気になり、音がした方へ足を運ぶ。
すると、音楽準備室で女子五人に囲まれうずくまっている男がいた。

「何とかいいなさいよ!」
「いつまで黙ってんの!」
女が集団で男をいじめてんのか?
こいつ、何したんだよ。
……ん?
朝、声をかけてきた女が中央にいる。
名前は忘れたがβだったって青くなってたやつ。
「あんたがΩなわけないでしょ、椿」
椿……って、Ωだったって騒がれてたやつか。
なんだ、男だったのか。
あー、自分がβだったから悔しくてΩのやつを囲んでんのか。

ダセーな。

「おい」
別にΩの男に興味はなかったが、βの女の考え方が気に入らなかった。
「お前、朝俺に可愛く挨拶してきたヤツ?顔が別人みたいにコエーんだけど?」
「なっ……ひどいっ」
半泣きになりながら、走り去る。
手下みたいな女達も一緒にいなくなった。

いや、どこがひどいんだよ……。
意味わかんねぇ。
まぁ、いいか……早く帰らねぇと。
昇降口に戻ろうとすると、「あ、あ、あのっ」
と声をかけられる。
振り替えると、さっき絡まれてた男だ。
んー?
確かにΩっぽくはないのか?
身長も体格も普通。
「あっ、あのっ、さっきは……」
でも、顔は……って、前髪長いし自分で切ったのか?ってくらいバサバサな髪だから雰囲気がダサいな。
「ぼ、僕、のことを助けてっ……ふぇっ」
おもむろに右手で男の前髪をぐっと上にあげる。
「やっぱり、可愛い顔してる」
くりくりとした真ん丸の大きな瞳、小振りな鼻と唇。
磨けば光りそうだ。

「あっあっ、て、手をっ」
「わりぃ」
上げていた前髪から手を離す。
「あ、あのっ、西宮くん、だよね?」
「そうだけど。クラス違うよな?」
「ゆ、有名、だから」
前髪を手櫛で直しながら、汚れた制服を手ではらっている。
「お前も今日から有名だろ、椿」
「はぇっ!?な、な、なんでっ、僕の、名前っ」
「今日聞いて覚えた。椿、好きなんだ」
「なっ……え、な、どっ、して……」
顔が一瞬で真っ赤になる。
勘違いしてんなー。
「花のことだよ、ばーか。潔いだろ?」
「えっ、あ、はは。うん。そう、だよね。僕も好き、だよ」
「俺のことが?」
「ち、ちがっ、花、椿がっ」
「ははっ、冗談だよ」
オロオロ狼狽えてる姿が小動物っぽい。
……可愛いな。
……は?
何思ってんだ、俺。

「じゃーな」
自分の思考を打ち消すようにこの場から離れたかった。
昇降口へと急ぐ。

「ありっがとうっ」
背後の声を聞きながら、後ろ手に手を振った。
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