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不穏な風~フォルクス視点~

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「はぁ!?」

執務室にシュルツの声が響く。
私自身も息を飲んだ。

「オルレラ家が、聖教に与したって……まさかそんな……」
私の影として各地へ飛び、目と耳の役割を果たしている者からの報告を、ルーツ寄宿学校の執務室でシュルツと共に聞いた。
予想外のその報告で、部屋の空気は一気に重くなる。

オルレラ家はこの国において多くの権力を持つ大貴族だ。
そのオルレラ家がいまや中央と敵対する関係になりつつある聖教側についたとなると……追随する貴族も出るだろう。
そもそも、オルレラ家は中央寄りの大貴族だった。
陛下の覚えもめでたく、このまま中央政権においてより権力を手にすると思っていたが……。

「まさか、ルカのことを……」

そうだ。
一番恐れていることはそこだ。
エルンストはルカがルカだと知っている。
聖教において、今や神のように奉られている救国の騎士が、現存している……この事実をあのエルンストが使わないはずがない。

「聖教のその後の動きは!?」
シュルツにも焦りが見られる。
それほど、オルレラ家が、いや、エルンストが、聖教側につくことは予想外の出来事だった。
同時に、今後の展開が読めない。
何が、目的だ__?

影によると聖教側に特に動きはなく、また詳細を逐次報告、と再び放った。
影が退室後、二人、執務室で厳しい顔を向き合わせる。

「ルカのことを知ったから動いた、ということよね?」
「おそらく」
今まで、オルレラ家にそのような動きはなかったし、つい先日情報交換した際にもその片鱗は伺えなかった。
もちろん、あのエルンストだ。
すでに計画していたとしても、態度に出すような真似はしないだろう。
それにしても、やはりルカのことが無関係だとは思えない。

「ルカには……言えない……」
シュルツが苦しげにため息をついた。
自分を拐い、テオドールの声を奪った聖教に、オルレラ家が与する。
それはつまり、エルンストだけならばまだしも、バーンが今後自分を害する側にまわるかもしれないということだ。
そもそも、バーンが記憶を奪われることになった原因もこの聖教にある。
確かに、ルカの耳には……心地よくは響かない。
だが、必ずルカはこの事実に巻き込まれるはずだ。

「伝えるべきだろう。ルカが望まなくても、やはりルカは人を惹き付ける。当事者となる可能性が高いのだから、そのことを……」
「させない!」
シュルツが勢いよく椅子から立ち上がる。
「もう、ルカを政治に利用させない。今度こそ、絶対に。今なら、その力がある。貴方と違って中央に義理なんかないし、国すらどうなったって本当はかまわない。大切なのはルカだけ」
シュルツに射貫かんばかりに睨まれる。

「……そんなつもりはない。エルンストの思惑がはっきりしない今、ルカが危険に巻き込まれないようにしたいだけだ。情報は武器だ。ルカにも自衛のために情報は必要だ」
「分かってる!それでも……」

シュルツが苦悩で顔を歪める。
ルカを守りたいのだろう。
欠片も辛い思いをして欲しくない。
シュルツは幼い自分が守られていたように、ルカを守りたいと思っている。
だが、ルカは我々が守らなければならないような無力な子供ではない。

……むしろそうであれば、どんなに良かったか。

「ルカに話そう。ルカの意見も聞きたい」
ショックを受けるだろう。
バーンのことで意気消沈している所に追い討ちをかけるのは分かっている。
それでも。
いつ、聖教の手が忍び寄るか分からない。
早い方がいい。

「……分かったわ」
シュルツもその必要性を頭では理解している。
ただ、心が追い付かないだけだ。
「ルカの自室へ行きましょう」

執務室からルカの自室へ歩みを進める。
足取りは重い。
ルカの自室が近づくと笑い声が聞こえてきた。
テオドールとクリフトの声に混じり、ルカの笑い声もする。

あぁ、前を向いている。
そんなルカをまた苦しめる話をしなければならないのか……。
部屋の前に立ち、三人の笑い声を聞いているとこのまま踵を返したくなる。
嫌な役回りだ。
シュルツを見ると、同じように顔を曇らせている。
「一緒に、笑っていたいわ。思いは同じはずなのにね」
「支える側も悪くはない」
それはシュルツに言ったのか自分に言い聞かせたのか。

「ルカ。話がある」
覚悟を決めて扉を叩いた。
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