130 / 146
不穏な風~フォルクス視点~
しおりを挟む
「はぁ!?」
執務室にシュルツの声が響く。
私自身も息を飲んだ。
「オルレラ家が、聖教に与したって……まさかそんな……」
私の影として各地へ飛び、目と耳の役割を果たしている者からの報告を、ルーツ寄宿学校の執務室でシュルツと共に聞いた。
予想外のその報告で、部屋の空気は一気に重くなる。
オルレラ家はこの国において多くの権力を持つ大貴族だ。
そのオルレラ家がいまや中央と敵対する関係になりつつある聖教側についたとなると……追随する貴族も出るだろう。
そもそも、オルレラ家は中央寄りの大貴族だった。
陛下の覚えもめでたく、このまま中央政権においてより権力を手にすると思っていたが……。
「まさか、ルカのことを……」
そうだ。
一番恐れていることはそこだ。
エルンストはルカがあのルカだと知っている。
聖教において、今や神のように奉られている救国の騎士が、現存している……この事実をあのエルンストが使わないはずがない。
「聖教のその後の動きは!?」
シュルツにも焦りが見られる。
それほど、オルレラ家が、いや、エルンストが、聖教側につくことは予想外の出来事だった。
同時に、今後の展開が読めない。
何が、目的だ__?
影によると聖教側に特に動きはなく、また詳細を逐次報告、と再び放った。
影が退室後、二人、執務室で厳しい顔を向き合わせる。
「ルカのことを知ったから動いた、ということよね?」
「おそらく」
今まで、オルレラ家にそのような動きはなかったし、つい先日情報交換した際にもその片鱗は伺えなかった。
もちろん、あのエルンストだ。
すでに計画していたとしても、態度に出すような真似はしないだろう。
それにしても、やはりルカのことが無関係だとは思えない。
「ルカには……言えない……」
シュルツが苦しげにため息をついた。
自分を拐い、テオドールの声を奪った聖教に、オルレラ家が与する。
それはつまり、エルンストだけならばまだしも、バーンが今後自分を害する側にまわるかもしれないということだ。
そもそも、バーンが記憶を奪われることになった原因もこの聖教にある。
確かに、ルカの耳には……心地よくは響かない。
だが、必ずルカはこの事実に巻き込まれるはずだ。
「伝えるべきだろう。ルカが望まなくても、やはりルカは人を惹き付ける。当事者となる可能性が高いのだから、そのことを……」
「させない!」
シュルツが勢いよく椅子から立ち上がる。
「もう、ルカを政治に利用させない。今度こそ、絶対に。今なら、その力がある。貴方と違って中央に義理なんかないし、国すらどうなったって本当はかまわない。大切なのはルカだけ」
シュルツに射貫かんばかりに睨まれる。
「……そんなつもりはない。エルンストの思惑がはっきりしない今、ルカが危険に巻き込まれないようにしたいだけだ。情報は武器だ。ルカにも自衛のために情報は必要だ」
「分かってる!それでも……」
シュルツが苦悩で顔を歪める。
ルカを守りたいのだろう。
欠片も辛い思いをして欲しくない。
シュルツは幼い自分が守られていたように、ルカを守りたいと思っている。
だが、ルカは我々が守らなければならないような無力な子供ではない。
……むしろそうであれば、どんなに良かったか。
「ルカに話そう。ルカの意見も聞きたい」
ショックを受けるだろう。
バーンのことで意気消沈している所に追い討ちをかけるのは分かっている。
それでも。
いつ、聖教の手が忍び寄るか分からない。
早い方がいい。
「……分かったわ」
シュルツもその必要性を頭では理解している。
ただ、心が追い付かないだけだ。
「ルカの自室へ行きましょう」
執務室からルカの自室へ歩みを進める。
足取りは重い。
ルカの自室が近づくと笑い声が聞こえてきた。
テオドールとクリフトの声に混じり、ルカの笑い声もする。
あぁ、前を向いている。
そんなルカをまた苦しめる話をしなければならないのか……。
部屋の前に立ち、三人の笑い声を聞いているとこのまま踵を返したくなる。
嫌な役回りだ。
シュルツを見ると、同じように顔を曇らせている。
「一緒に、笑っていたいわ。思いは同じはずなのにね」
「支える側も悪くはない」
それはシュルツに言ったのか自分に言い聞かせたのか。
「ルカ。話がある」
覚悟を決めて扉を叩いた。
執務室にシュルツの声が響く。
私自身も息を飲んだ。
「オルレラ家が、聖教に与したって……まさかそんな……」
私の影として各地へ飛び、目と耳の役割を果たしている者からの報告を、ルーツ寄宿学校の執務室でシュルツと共に聞いた。
予想外のその報告で、部屋の空気は一気に重くなる。
オルレラ家はこの国において多くの権力を持つ大貴族だ。
そのオルレラ家がいまや中央と敵対する関係になりつつある聖教側についたとなると……追随する貴族も出るだろう。
そもそも、オルレラ家は中央寄りの大貴族だった。
陛下の覚えもめでたく、このまま中央政権においてより権力を手にすると思っていたが……。
「まさか、ルカのことを……」
そうだ。
一番恐れていることはそこだ。
エルンストはルカがあのルカだと知っている。
聖教において、今や神のように奉られている救国の騎士が、現存している……この事実をあのエルンストが使わないはずがない。
「聖教のその後の動きは!?」
シュルツにも焦りが見られる。
それほど、オルレラ家が、いや、エルンストが、聖教側につくことは予想外の出来事だった。
同時に、今後の展開が読めない。
何が、目的だ__?
影によると聖教側に特に動きはなく、また詳細を逐次報告、と再び放った。
影が退室後、二人、執務室で厳しい顔を向き合わせる。
「ルカのことを知ったから動いた、ということよね?」
「おそらく」
今まで、オルレラ家にそのような動きはなかったし、つい先日情報交換した際にもその片鱗は伺えなかった。
もちろん、あのエルンストだ。
すでに計画していたとしても、態度に出すような真似はしないだろう。
それにしても、やはりルカのことが無関係だとは思えない。
「ルカには……言えない……」
シュルツが苦しげにため息をついた。
自分を拐い、テオドールの声を奪った聖教に、オルレラ家が与する。
それはつまり、エルンストだけならばまだしも、バーンが今後自分を害する側にまわるかもしれないということだ。
そもそも、バーンが記憶を奪われることになった原因もこの聖教にある。
確かに、ルカの耳には……心地よくは響かない。
だが、必ずルカはこの事実に巻き込まれるはずだ。
「伝えるべきだろう。ルカが望まなくても、やはりルカは人を惹き付ける。当事者となる可能性が高いのだから、そのことを……」
「させない!」
シュルツが勢いよく椅子から立ち上がる。
「もう、ルカを政治に利用させない。今度こそ、絶対に。今なら、その力がある。貴方と違って中央に義理なんかないし、国すらどうなったって本当はかまわない。大切なのはルカだけ」
シュルツに射貫かんばかりに睨まれる。
「……そんなつもりはない。エルンストの思惑がはっきりしない今、ルカが危険に巻き込まれないようにしたいだけだ。情報は武器だ。ルカにも自衛のために情報は必要だ」
「分かってる!それでも……」
シュルツが苦悩で顔を歪める。
ルカを守りたいのだろう。
欠片も辛い思いをして欲しくない。
シュルツは幼い自分が守られていたように、ルカを守りたいと思っている。
だが、ルカは我々が守らなければならないような無力な子供ではない。
……むしろそうであれば、どんなに良かったか。
「ルカに話そう。ルカの意見も聞きたい」
ショックを受けるだろう。
バーンのことで意気消沈している所に追い討ちをかけるのは分かっている。
それでも。
いつ、聖教の手が忍び寄るか分からない。
早い方がいい。
「……分かったわ」
シュルツもその必要性を頭では理解している。
ただ、心が追い付かないだけだ。
「ルカの自室へ行きましょう」
執務室からルカの自室へ歩みを進める。
足取りは重い。
ルカの自室が近づくと笑い声が聞こえてきた。
テオドールとクリフトの声に混じり、ルカの笑い声もする。
あぁ、前を向いている。
そんなルカをまた苦しめる話をしなければならないのか……。
部屋の前に立ち、三人の笑い声を聞いているとこのまま踵を返したくなる。
嫌な役回りだ。
シュルツを見ると、同じように顔を曇らせている。
「一緒に、笑っていたいわ。思いは同じはずなのにね」
「支える側も悪くはない」
それはシュルツに言ったのか自分に言い聞かせたのか。
「ルカ。話がある」
覚悟を決めて扉を叩いた。
11
お気に入りに追加
3,799
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません
八神紫音
BL
やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。
そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど?
お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
ーーーーーーーーーーーー
狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。
実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので!
おじいちゃんと孫じゃないよ!
【完結】廃棄王子、側妃として売られる。社畜はスローライフに戻りたいが離して貰えません!
鏑木 うりこ
BL
空前絶後の社畜マンが死んだ。
「すみませんが、断罪返しされて療養に出される元王太子の中に入ってください、お願いします!」
同じ社畜臭を感じて頷いたのに、なぜか帝国の側妃として売り渡されてしまった!
話が違うし約束も違う!男の側妃を溺愛してくるだと?!
ゆるーい設定でR18BLになります。
本編完結致しました( ´ ▽ ` )緩い番外編も完結しました。
番外編、お品書き。
〇セイリオス&クロードがイチャイチャする話
〇騎士団に謎のオブジェがある話
○可愛いけれどムカつくあの子!
○ビリビリ腕輪の活用法
○進撃の双子
○おじさん達が温泉へ行く話
○孫が可愛いだけだなんて誰が言った?(孫に嫉妬するラムの話)
○なんかウチの村で美人が田んぼ作ってんだが?(田んぼを耕すディエスの話)
○ブラックラム(危なく闇落ちするラム)
○あの二人に子供がいたならば
やっと完結表記に致しました。長い間&たくさんのご声援を頂き誠にありがとうございました~!
【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!
黒木 鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる