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過渡期~シュルツ視点~

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「まだ、ルカは……?」
「えぇ」

はぁっ、と二人ため息をつく。
オルレア公爵家からテオドールとクリフトと戻った日から、ルカは塞ぎこんでいる。
正直、バーンのことについては仕方がない……と言わざるをえない。
バーンが受け入れた以上、外野は見守ることしかできないのだから。
もちろん、転学届の申し出を拒否することもできず、私物もバーン本人ではなく家の者が片付け、あっさりとバーンの痕跡はこの寄宿学校から消えた。
まるで最初から存在しなかったかのように。
その後の消息も知れない。
他の寄宿学校に転学すれば人づてに知ることもできたがその様子もない。
このまま成人までオルレア家で過ごすのかもしれない。
オルレア家であれば、優秀な個人の教師を雇うこともでき、家督を継ぐバーンはわざわざ寄宿学校を出て中央を目指す必要もない。

そうなれば、木こりをやりたいと言っているルカと会うことは、もう、ない。

こちらとしては、願ったり叶ったりだ。
目障りでしかなった。
どうしても前のルカの面影を追ってしまい、一歩踏み込めない我々に対し、ガキ共はどんどんルカに侵食していたから。
このまま、ルカの心の傷が落ち着くのを見守ればいいのだけれど……やはり塞ぎ込むルカを見ていられない。

「中央に、戻らなくて良いの?」
「かまわない。ここからでも、指示は送れる」
フォルクスはこのルーツ寄宿学校に滞在するようになった。
もちろん、ルカの側にいるために。
刹那的な関係を楽しんでいた私が一切の関係を断ち、夜会に行くこともなくなった。
国内のまつりごとのためだけに動き、外交すら最低限で済ませて執務室にこもっていたフォルクスが、視察のみの予定だったルーツ寄宿学校から中央に戻らない。
貴族間では、そんな私とフォルクスが深い仲になってるなんて噂があるみたいだけど、笑えもしない。

フォルクスのことも、ガキ共と同じく邪魔だとしか思っていない。
しかも、ルカが塞ぎ込む原因である今回のオルレラ家との一連も、このフォルクスが噛んでいる。
フォルクスがいなければ、ルカとエルンストは会えなかった。
私だったら……そもそもルカとエルンストを会わせたりなどしなかった。

エルンストのルカへの執着は、当時子供だった私も、気づいていた。
明らかに、ルカとその他では纏う雰囲気が違っていたから。
不遜で尊大でルカに私を紹介された時も視界の端に入れただけだった。
常にオルレラ家のためだけにその手腕をふるっていたから、必要ない者は歯牙にもかけない。
そんなエルンストが、ルカの前でだけ年相応の笑顔を見せていた。
本当にルカの周囲は厄介な相手ばかりだと、私はうんざりしていた。

ルカが消えたあの日以降に見たエルンストは、別人のようだった。
あぁ、私と同じようにルカの唯一になれなかった自分を許せないんだな、と憐れみすら感じた。

そして、ルカがルカだと知り、そんなエルンストの息子のバーンがルカに惹かれていると知った時は、ため息が出た。
親子揃って……。
目障りにもほどがある。
でも、ルカとエルンストが交わることはないと確信していた。
野心のある高位の貴族の典型のようなエルンストが、平民のルカと目を合わせることなどない。
バーンが毒物を、と連絡した時すら、命に問題ない以上割く時間はないと返答があった。
とうとうルカと接点をもつかと危惧していたから、良かったと胸を撫で下ろしたのに。

ここにきて、結局知られてしまった。
しかも、ルカ本人がエルンストに告げたと言う……それを許したフォルクスにも腹が立つ。
フォルクスからその話を聞いた時には、どういうつもりかと詰めよったが、ルカの望みは断れないなどと平然とした顔を……はぁ。

いけない。
思い返せば思い返すほど、エルンストにもフォルクスにもバーンにも殺意がわく。

私は、あの人の苦しむ姿など見たくない。
笑っていて欲しい。
それを邪魔する奴らを許さない。
……あぁ、もう、拐って閉じ込めてしまおうか。
そうすれば、悲しみからは遠ざけてあげられるけど、きっと笑ってはくれない。
同じようにルカを苦しめる存在にはなりたくない……はぁ。

何度目かのため息をつく。
私まで、塞ぎ込んでる場合じゃない。
やはり、本意ではないけれど、ルカのためにオルレラ家に探りを入れて……。

コンコン。
執務室の扉を叩く音。

鬱々と過ごす中で、政局は大きく変動しようとしていた。
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