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想いを示す方法~エルンスト視点~

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「婚約の件、撤廃させて頂きたい!虫の良いことを言っているのは重々承知しています。私はルカとしか、共に在りたいと思えない。今日、父上と母上の話を聞くまで、私は自分の心を圧し殺してでもルカを助けるために情報を得て、望まぬ相手とも添い遂げることを覚悟していました。道具のように、自分を使えば良い、と。そうではなかった。父上も母上も、自分で生涯を共にする相手を見定めていた。私は、もう、そんな相手を見つけてしまった!」

バーンが婚約破棄を言い出すだろうと言うことは予想がついていた。
元々、真面目すぎるきらいがあり、政略として婚姻関係を結ぶことを是とせず、もちろん婚姻後に他の女で遊ぶということなど考えもしない。

そんなバーンがルカと出会い、父親の俺から見ても、コイツは本当に変わった。
寄宿学校に入れるまで、惚れた相手どころか友人すらいなかったのに。
孤高……などと聞こえが良いことを言う奴らもいたが、ただ人を寄せ付けなかっただけの話。

あれほど拒んでいた政略結婚を情報を得るためだけに承諾した時には、必ずその相手に何かあるとは思っていた。

それが、あのルカだとは……。

「オルレラ家から除籍して下さい」

そうきたか。
婚姻を断るために、自分がオルレラ家の後継から退けば良いと。
自らが相応しくあるために行ってきたすべてを失っても、ルカとの未来を選ぶと。

「はっ、愚かだな、バーン」
わざと嘲るような声音を使う。

このオルレラ家というしがらみを捨て、自由になるのか?
そうはさせない。

「あのガキのために、すべてを捨てるか?エレノアが命をかけてこのオルレラ家の後継を得たというのにか?」
バーンが一瞬顔を曇らせる。
自らの膝に置いた手を、固く握る。
「母上ならば、分かって頂けると思います」
バーンは俯いていたため気づいていないが、俺としたことが意外な返答に驚き、少し目を見開いてしまった。
……そうか。
もう、バーンはエレノアの作った幻想に縛られてはない。
本来の柔軟な思考のエレノアならば、
愛しい我が子のこの姿を笑顔で迎えたかもしれない。

「……エレノアならば、お前を後押しするやもしれんな」
エレノアは最期の時まで気丈だった。
自分の命の散る瞬間まで、俺の心に刻み付けた。
もう、あの瞬間以上の苦悩など、俺には訪れない。

「だが」

バーン、お前は、どうだ?

「まさか、俺がはいそうですか、と言うはずないことは分かるよな?」
バーンは苦々しい表情をしつつ、頷いた。
「……はい。約束を反故にするすべての責任は私にあります。如何様にも処罰して下さい。ただ、己の意に反することだけは、致しかねます」

如何様にも、か。
簡単に言う。

「では、死ね」

オルレラ家にとって、この俺にとって、必要なくなるのだろう?
ならば、いらぬ。
……お前の覚悟は?

「お受け、します」

バーンは悲壮な顔色だが、俺から視線はそらさない。
その瞳には決意が灯っている。
……簡単に揺らぐ決意が。

「……そうか。では、早々に死ね。お前が亡き後に、俺がルカを直々に可愛がってやろう。その無垢な身体を開き、幾晩もかけて快楽を教え込んでやる」
「父上っ」
バーンはその場から数歩俺の方へとつめより、首元に手を掛ける。
俺に激情をぶつけてきたのは初めてだ。
いつも俺に対して何か思うことがあっても腹の中に納め、奥歯を噛み締めるだけのお前が。
少しは成長したと、喜ぶべきか。

……だが、まだだ。

「死ぬお前には何もできない。守ることも、助けることも、今以上に愛することも」
バーンは驚いた顔をし、思わず掴んでいた手を離す。
「お前にその覚悟があるのか?」
「わ、私は……」
バーンは目を泳がせる。
瞳に灯っていた想いなど、もう見えない。
お前の決意など、たかがしれている。

バーンは暫く逡巡としていたが、再び顔を上げしっかりと俺と目を合わせる。
「父上、私はこの想いのためならば命をかけても良いと思っていました。いえ、今でもルカのためにこの命を散らすことに躊躇はありません。しかし、父上の言われた通り、私のルカへの想いを示すために死を選ぶのは愚かなことです。私はルカと共に在りたいと……」
バーンが強く拳を握りしめている。
まだ、その想いを棄てきれないだろう?
命を棄て想いを示すのはその者に未練がない者だけができること。
国のために躊躇なく自らの命を捧げたルカは……そんな相手に誰もなれなかったということだ。

バーンは自分の浅はかな言動を悔い、項垂れている。
何も思い浮かばないか?
お前がルカへの想いを示す方法が。
このまま何も思い浮かばずに、最初の俺の提案通り都合の良い貴族の女と結婚すればいい。
お前なら共に暮らせば情も湧く。

ルカへの想いなど、忘れてしまえ!

……あぁ、そうだな。
それも良い。

「バーン……お前はルカへの気持ちが命をかけるほどだと言ったな?」
「はい」
バーンは真剣な顔で即答した。
「もう一度、そう思えるか?それならば認めてやろう」
バーンがいぶかしんだ表情をする。
俺は反対に晴れやかな気分だ!

「ルカの記憶を消し、もう一度やり直すんだ。最初からな」

その想いが本物だなどと、認めない。
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