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オルレラ侯爵エルンスト
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「ルカ、すまない。こんな話を聞かせてしまい、不快だろう。お前に母のことを知っておいて欲しかったんだ……。少し、一人になりたい。私は自室に戻ろう」
「バーン……後で部屋に行ってもいいか?」
「あぁ、もちろんだ」
バーンにいつもの覇気はない。
少し心配になりながらも、そのまま見送った。
バーンの言葉は一つ一つが重く、血を吐くような声音だった。
それでも、俺に必死で伝えようとしてくれていた。
どれだけ、バーンは囚われてきたんだろうか?
この偽りの記憶に。
現オルレラ侯爵であるエルンストと前の俺は既知の仲だった。
お互い、友と呼べるほど時間を共有していた訳ではないが、たまに中央で会うと近況を語り合っていた。
俺たちは、少なくとも俺は、エルンストとは馬が合うと思っていた。
お互い、自分のことを異端であると感じていたからだろう。
「久しぶりだな、エルンスト」
「おぅ、ルカ」
久しぶりに中央でばったり出会った。
「久しぶりに手合わせしよーぜ」
「お断りだ」
「なんでだよー」
すぐにを去ろうとするエルンストを追いかける。
「お前とやると疲れる。こんな剣技なんか適当でいいんだよ。俺みたいな高位は戦いに出ることもない。やってました、って体でいいのに、マジで斬り込んでくるからな、ルカは」
苦笑しながらエルンストは歩みを緩やかにする。
「お前は優れた剣術を身に付けているのに、なぜそれを高めないのか分からん。お前は野心しかないからな」
「お前は野心がなさすぎだ」
二人で笑いながら中庭に出ると、ふとエルンストが歩みを止める。
「どうした?」
「そうだな……お前に相談してみようか」
「何がだ?」
エルンストはそこで、美しい侍女に言い寄られている話を始める。
「俺に、恋愛相談か!?」
生まれて初めてのことで戸惑った。
「そんな大層なもんじゃない。そもそも俺はエレノア……いや、その侍女のことが好きな訳ではないしな。……ただ、家の貧しい女が嗜虐趣味のある男に嫁がなければならない。その男の前妻の喪が明けるまで、我が家に侍女として働いているらしいが、前妻も貧しい家の娘らしくその男の嗜虐の果ての死であるとか。自分も同じように死にゆく運命ならば、せめて好きな相手と一夜を共にしたいと言われると、な」
「ふぅん」
エルンストの話は俺には全く関係のないことで、何を言えばいいのか良く分からない。
「お前、ふぅんって何だ。お前なら絶対助けてやれとか言うと思ったが」
エルンストは意外そうに俺を見た。
「だって、お前、助けるつもりだろ」
エルンストが俺から意見なんて聞く訳ない。
気まぐれに話してみただけで、もう自分の中で助けると決めているはずだ。
「俺は人助けするタイプじゃない。別にその女を抱いてやる義理はない」
「だ、抱いて!?」
俺と歳が変わらないくせに、そんなことを言い出すとは!
「いや、一夜を共にするってただ二人で寝るってだけじゃないんだぞ?それはその女の処女を俺が婚約者から奪うってことだ」
「しょ、処女!!」
「いちいち、うるさいな」
とんでもないことを言い出したな、コイツ。
「と、とにかく、お前の家なら金があるだろ。好きな女なら、助けてやればいい。後悔はしないのが信条なんだろう?」
エルンストはいつも言っている。
自分の選択がどう転ぼうとも後悔はしない、と。
「だから、好きではないと……」
「いや、お前が好きでもない女の事で悩むか?どうせ、汚い貴族社会にその女を置きたくないとか考えてるんだろ?でも、その女もたぶんお前の事が好きで覚悟して想いを告げたんだろうから、一緒に背負ってやれば?」
エルンストは一瞬驚いた顔をしたが、俺の言葉を否定しなかった。
「お前らしい答えだな」
最後に見たエルンストの顔は晴れやかだった。
その後のエルンストのことは分からない。
連絡を取り合う仲でもなかったし、俺はその後に防護魔法を使うことになったから。
そうか。
エルンストはオルレラ侯爵家だった……バーンの父親だ。
なぜ、今まで気づかなかったんだろう。
見目はきっと母親似なんだろうが、バーンのあの自信が溢れる出立ちや雰囲気はエルンストに似ている。
エルンストの息子と自分が友人か……感慨深いな。
そして、エルンストと最後に交わしたあの話……バーンから聞いた話と大事なことが違う。
二人は想い合っていた。
少なくとも、俺はそう思っている。
エルンストがあの場で俺に取り繕う嘘など言うはずがない。
だから、バーンが聞いたその噂話の方が偽りだと思う。
始まりの想いが違うとなると、あのバーンの話はガラッと変わる。
もし、バーンの母親がエルンストのことを想っていたのであれば、愛する男に処女を捧げ、あまつさえその子を授かり、産んだことで身体を壊そうと……幸せだったのではないか?
ダメだ。
すべて俺の想像でしかないし、その後のことは何も知らないのだから。
エルンストに会えればいいが、平民の俺がそう簡単に会える相手ではない。
当時のことを知っているヤツ……シュルツは子供だったから噂話など気にしていなかっただろうしな。
フォルクスなら、知っているか?
テオドールの父さんのことで忙しいかもしれないが、少し話がしたいな。
俺は執務室にいるであろうフォルクスの元へ急いだ。
「バーン……後で部屋に行ってもいいか?」
「あぁ、もちろんだ」
バーンにいつもの覇気はない。
少し心配になりながらも、そのまま見送った。
バーンの言葉は一つ一つが重く、血を吐くような声音だった。
それでも、俺に必死で伝えようとしてくれていた。
どれだけ、バーンは囚われてきたんだろうか?
この偽りの記憶に。
現オルレラ侯爵であるエルンストと前の俺は既知の仲だった。
お互い、友と呼べるほど時間を共有していた訳ではないが、たまに中央で会うと近況を語り合っていた。
俺たちは、少なくとも俺は、エルンストとは馬が合うと思っていた。
お互い、自分のことを異端であると感じていたからだろう。
「久しぶりだな、エルンスト」
「おぅ、ルカ」
久しぶりに中央でばったり出会った。
「久しぶりに手合わせしよーぜ」
「お断りだ」
「なんでだよー」
すぐにを去ろうとするエルンストを追いかける。
「お前とやると疲れる。こんな剣技なんか適当でいいんだよ。俺みたいな高位は戦いに出ることもない。やってました、って体でいいのに、マジで斬り込んでくるからな、ルカは」
苦笑しながらエルンストは歩みを緩やかにする。
「お前は優れた剣術を身に付けているのに、なぜそれを高めないのか分からん。お前は野心しかないからな」
「お前は野心がなさすぎだ」
二人で笑いながら中庭に出ると、ふとエルンストが歩みを止める。
「どうした?」
「そうだな……お前に相談してみようか」
「何がだ?」
エルンストはそこで、美しい侍女に言い寄られている話を始める。
「俺に、恋愛相談か!?」
生まれて初めてのことで戸惑った。
「そんな大層なもんじゃない。そもそも俺はエレノア……いや、その侍女のことが好きな訳ではないしな。……ただ、家の貧しい女が嗜虐趣味のある男に嫁がなければならない。その男の前妻の喪が明けるまで、我が家に侍女として働いているらしいが、前妻も貧しい家の娘らしくその男の嗜虐の果ての死であるとか。自分も同じように死にゆく運命ならば、せめて好きな相手と一夜を共にしたいと言われると、な」
「ふぅん」
エルンストの話は俺には全く関係のないことで、何を言えばいいのか良く分からない。
「お前、ふぅんって何だ。お前なら絶対助けてやれとか言うと思ったが」
エルンストは意外そうに俺を見た。
「だって、お前、助けるつもりだろ」
エルンストが俺から意見なんて聞く訳ない。
気まぐれに話してみただけで、もう自分の中で助けると決めているはずだ。
「俺は人助けするタイプじゃない。別にその女を抱いてやる義理はない」
「だ、抱いて!?」
俺と歳が変わらないくせに、そんなことを言い出すとは!
「いや、一夜を共にするってただ二人で寝るってだけじゃないんだぞ?それはその女の処女を俺が婚約者から奪うってことだ」
「しょ、処女!!」
「いちいち、うるさいな」
とんでもないことを言い出したな、コイツ。
「と、とにかく、お前の家なら金があるだろ。好きな女なら、助けてやればいい。後悔はしないのが信条なんだろう?」
エルンストはいつも言っている。
自分の選択がどう転ぼうとも後悔はしない、と。
「だから、好きではないと……」
「いや、お前が好きでもない女の事で悩むか?どうせ、汚い貴族社会にその女を置きたくないとか考えてるんだろ?でも、その女もたぶんお前の事が好きで覚悟して想いを告げたんだろうから、一緒に背負ってやれば?」
エルンストは一瞬驚いた顔をしたが、俺の言葉を否定しなかった。
「お前らしい答えだな」
最後に見たエルンストの顔は晴れやかだった。
その後のエルンストのことは分からない。
連絡を取り合う仲でもなかったし、俺はその後に防護魔法を使うことになったから。
そうか。
エルンストはオルレラ侯爵家だった……バーンの父親だ。
なぜ、今まで気づかなかったんだろう。
見目はきっと母親似なんだろうが、バーンのあの自信が溢れる出立ちや雰囲気はエルンストに似ている。
エルンストの息子と自分が友人か……感慨深いな。
そして、エルンストと最後に交わしたあの話……バーンから聞いた話と大事なことが違う。
二人は想い合っていた。
少なくとも、俺はそう思っている。
エルンストがあの場で俺に取り繕う嘘など言うはずがない。
だから、バーンが聞いたその噂話の方が偽りだと思う。
始まりの想いが違うとなると、あのバーンの話はガラッと変わる。
もし、バーンの母親がエルンストのことを想っていたのであれば、愛する男に処女を捧げ、あまつさえその子を授かり、産んだことで身体を壊そうと……幸せだったのではないか?
ダメだ。
すべて俺の想像でしかないし、その後のことは何も知らないのだから。
エルンストに会えればいいが、平民の俺がそう簡単に会える相手ではない。
当時のことを知っているヤツ……シュルツは子供だったから噂話など気にしていなかっただろうしな。
フォルクスなら、知っているか?
テオドールの父さんのことで忙しいかもしれないが、少し話がしたいな。
俺は執務室にいるであろうフォルクスの元へ急いだ。
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