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婚約という選択~バーン視点~

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「バーンは婚約されたんですよね?貴族のご令嬢と!」

なっ……!
クリフト、貴様と言う奴は!!

クリフトは気安く肩を抱きながらニヤニヤしている。
私が何と言うか返答を楽しみにしている、といった所か。
クリフトの発言を聞いたルカは驚き、テオドールは胡乱な表情だ。

もちろん、隠してはおけないと思っていた。
すでにクリフトの兄が知っていたように、高位貴族同士の婚約はすぐに広まるだろう。
伝えるならば、直接伝えたい。

だが、今か!?
やっとテオドールの声が戻ったというのに。
もう少し、落ち着いてからでも……いや、それは私の逃げか。

「そうだ」
「ふぅん」
声音が低い。
テオドールは完全に不機嫌さを隠さない。
「ぜ、全然知らなかった!いつから婚約者がいたんだ?どんな人なんだ?」

ルカは戸惑っているようだ。
少しは私の婚約に動揺してくれているのだろうか?
そうであれば、嬉しいと思ってしまう。
ダメだ。
もう、ルカへの想いは忘れないといけないのに。

「最近、決まったばかりなんだ。相手の令嬢のことは……よく知らない」
「えっ」
そうだな、ルカのその反応が正常だ。
相手のことを知りもしないのに、婚姻しようとしている。
だが、貴族間ではよくあること。
個人が問題ではない。
家と家の結びつき。
家柄、格、財力などが釣り合うことが重要であり、個人の資質は二の次だ。

それを私が一番忌み嫌っていたというのに……皮肉なものだ。

「そうか……。それで……バーンは幸せになれるのか?」

!!
幸せ……?
ルカの側にいられず、幸せなどあろうか?
だが、自分で決めたこと。
後悔はない。
ルカは痛ましげに私を見ている。
政略結婚が何たるかはルカも分かっているはず。
自由に相手を選べない私を憐れに思っているのだろうか。

「幸せに……ならねばな」
ルカを安心させるように、微笑みかける。
私はちゃんと笑えているだろうか?

「もう、茶番はいいかな?」
テオドールの怒気をはらんだ声が響く。
「茶番?」
「……」
ルカはテオドールの言っている意味が分からず、戸惑っている。
テオドールはおそらく分かっているのだろう。
「ルカや僕のためにオルレラ侯爵から出された条件なんだろう?何か情報を得るために」

やはり。

「えっ、そうなのか?バーンは望んでいないのか?」
望むはずないだろう!
相手が、どこの誰であれ。
……お前でないのなら。

「そうだとしても、だ。私は父の条件をのんだ。それは変えようのない事実。後悔もしていない。どんな条件だろうと、お前達を助けたかったのだ」
「バーン……」
「あのねぇ?それで僕たちがそうなんだ~ありがとう~幸せにね~なんて言うはずないよね?高位貴族が本人の望まない結婚をすることなんてよくあることだ。ただ、父君の意向でそうなったのなら仕方ないと思ったかもしれないけど、僕たちがその原因になるなら話が違う。そのことでルカが苦しむのは嫌だね。それに、バーンが最も嫌うことだと思ってたけど?政略結婚は」

テオドールは当家の事情を知っている。
オルレラ家にとっては醜聞の一つである、母のことを。

「それでも、だ」
父上に婚姻の話を持ち出された時、正直言えば心は揺れた。
母の名に誓って、愛する者と添い遂げるつもりだった。
どれだけ父上に強く薦められてもそれだけは固辞した。
そのために、力をつけ、中央で名を馳せると決めていた。
自らの実力でオルレラ侯爵家を繁栄させてみせる。
父上がしなかった選択を選び成功することで、間違いであったと認めさせたい。
そう、固く誓っていた。

だが、ここで我を通し、父上から情報を得ることが出来なかったために二人を失えば、私は自分自身を許せない。
きっと、母はそんなことを望まないはずだ。

「はぁっ、埒があかないね。僕は敵に塩を送るタイプではないんだけど、今回は助けて貰った恩がある。……バーン、母君のことをルカに話してみたらどう?それでも、君の心が変わらなかったら、もう僕は何も言わない」
母のことを、ルカに?

「俺もオルレラ侯爵家のことは知っています。もちろん、バーンの母君のことも。この中で知らないのはルカだけだ。バーンの口から話すべきだ。俺もテオドールも、ルカに救われた。次は貴方の番ですよ」
クリフトは先ほどのニヤニヤした顔を一変させ、真剣な真顔で私に促す。
最初からそのつもりだったのか。

「さぁ、テオドール。俺たちは部屋を出ましょう。バーンも二人の方が話しやすいですよ」
「いや、僕の部屋だけどね?二人きりにするのはちょっと心配……」
クリフトがぐいぐいテオドールを扉へ押しやる。
「まぁ、そう言わず。俺たちの部屋で待ってましょう。俺がお茶を淹れますよ」
「仕方ない……ルカ、部屋で待ってるから」
クリフトに促され、テオドールも渋々退室した。

二人が退室すると、部屋には静寂が訪れた。
何か、言わなければ。
そう思っているのに、言葉がでない。

ルカは意を決したように少し俯きがちだった顔を上げた。
「バーン。俺、お前の母さんのこと、何も知らない。お前が良ければ、聞かせてくれないか?」

ルカは母の話が私に影を落としていると分かり、知りたいと思っているんだろう。
それでもあくまで、私の言葉を待つつもりだ。
話せない、話したくない、と言えば引き下がるのであろうな。
だが、私自身もルカに聞いて欲しいと思い始めていた。
ルカならば、母の選択をどう思うだろう?

「母とのこと、話そう。聞いて、くれるか?」
ルカはしっかりと目を合わせ、頷いてくれた。
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