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交渉の結末~クリフト視点~

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『……では、婚約者殿のみ、こちらの扉から入るといい』

兄さんが視線を送った先に扉が現れる。
ルカは頷くと、兄さんと共に扉の奥へ進んだ。

二人の姿が見えなくなると、すぐにバーンに詰めよられる。

「クリフト!お前、よく分かってないルカを丸め込んでこのまま結婚するつもりか!?」
バレたか。
「いやだなぁ。禁書のためですよ?まぁ、兄の許可は貰ったので、後はルカの父親に許可を貰えば、もうルカとは……」
ルカは鈍いので、外堀から埋めていけば……。

「ダメだ!!」
「はぁ?そんな権利はないでしょう?バーンは別に婚約者がいるんですから」
「そ、それは……」
バーンが言い淀む。
全身から辛いオーラを出されても困るんですけど。
攻撃しにくい。

「はぁ。まぁ、もちろん俺もこれで騙し討ちみたいに結婚して初夜に持ち込もうとまでは思ってません」
「しょ、初夜!?」
顔を赤らめないで欲しい。
初夜なんて言葉で赤くなるのは子供でもいない。
ちょっと、からかいすぎた。

「ルカに、少し意識して貰えたらそれでいい」
「クリフト……」
そう。
本当に婚約者気取りでいる訳ではない。
ルカにその気がないことも分かっている。
でも、少しでも俺の存在を意識して欲しい。
今よりも、もっと。

「問題は……本当に兄がこのまま禁書をルカに見せてくれるか、です」
「えぇ!?」
兄さんがこのまますんなり禁書を渡してくれるとは思っていない。

セリアン商会は甘くない。
俺自身を対価としたが、元々俺はセリアン商会のモノだとみなされている。
兄にとって魅力的な対価ではあったかもしれないが、セリアン商会として俺を失う損失は大きい。
そう、自負できるほどの商才が俺にはある。
だからこそ、この対価は兄に有効だった。
両親のどちらかが交渉相手だったら、絶対に許されなかっただろう。

たぶん、扉の奥でルカは試されている。
両親に対して、ルカ本人の資質を付加価値とするために。

まぁ、ルカなら大丈夫。
俺と同じ性質の兄が惹かれないはずはない。
……いや、惹かれすぎるのは困る。

バーンは心配して扉の周囲をウロウロし始めた。
本当に、ルカが絡むと人が変わる。
そんなバーンを微笑ましいと思っている自分も。
テオドールが治ったら、次はバーンの番だ。

扉がすーっと開き、兄が羽ばたきながら現れると、そのまま部屋の木にとまる。
「兄さん、ルカは?」
『あぁ、禁書を読まれている。邪魔してはいけないと思ってね』
……?
でも……良かった!
隣のバーンからもほっと息が漏れる。
「ルカが兄さんのお眼鏡にかなって良かったよ」
『そうだね。ぜひとも、このまま結婚してもらいたいけどなぁ』
兄さんがちらりとバーンを見た。
さすが、もうバーンの想いにも気づいている。
『しっかし、話は聞かないよね?何度注意しても身体を撫でたり嘴を刺激したり……小鳥の姿だけど、人だって分かってるよね?誘惑されてるのかと思うよ。クリフトの相手じゃなかったら、とっくに変化をといて襲いかかる所だったね』
プリプリ怒る小鳥姿の兄に苦笑が漏れる。
ルカらしい。

「他にはどんなことが?」
『……秘密さ。奥の部屋でのことはすべて二人の秘密にしようとルカにも言っているから、聞き出そうとしてもダメだよ?』
「だろうね」
この扉の奥がどんな部屋か俺は知らない。
だから、兄がルカを部屋に入れたことに実は心底驚いていた。
バーンには兄がこのまま禁書をルカに見せてくれるか、と言ったが、もしかしてルカに何かするのか?と不安でもあった。

テオドールの父親がしたように。

セリアン商会において、俺の立ち位置は兄達の補佐。
まだ二人で後継を争っているとはいえ、ほぼ長兄に決まっている。
そうなると、俺も手駒の一つだ。
ルカのことを邪魔に思っても仕方ない。
でも、この兄の様子を見るに杞憂に終わった。
むしろ……?

「よっし!テオ治すぞ!」
突然奥の部屋の扉が開き、ルカが満面の笑みで俺たちに歩み寄る。
『おや。もう寄宿学校へ帰るのですか?』
「あぁ。早く、治してやりたい。クリフトの兄さんありがとう!」
『また、お会いしたいです。今度は人の姿で、ね』

「そうだな!」

やはり。
先ほども感じた違和感。
兄が、ルカに敬語を使っている。
中で何かあったんだろう。
ルカならば、誘導尋問すれば簡単に話しそうだが……。
まぁ、いい。
必要であれば、いずれ自分も知ることになる。
それまでは、ただ、この気持ちだけで側にいよう。

兄と別れの挨拶をし、屋敷を後にする。
外で待っていたシュラ先生がすぐさま駆け寄ってきた。
「どうだった?」
「テオの声、治せる!すぐ帰ろう」
「良かった……!結婚がどうとかは、大丈夫なんでしょうね?」
シュラ先生が俺を睨む。
「大丈夫だ。クリフトがちゃんと交渉してくれたおかげだ」
「いえ、ルカの人徳もあるでしょう?それに……宰相になれなかった時はお願いします」
「あぁ、一緒に暮らそう」
「はぁ?どういうこと!!」
「おい!」

怒りながら問い詰めてくるシュラ先生とそれはダメだと否定してくるバーンを躱しながら、二人で悪戯っ子のように笑った。

まぁ、俺は本気ですけどね。
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