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木と小鳥

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小鳥の兄さんが示した扉の先へ進むと、そこは書庫のようだった。
数多の書物が整然と整理されている。
すごい数だ。
威圧感を感じる。
知らない本ばかりでキョロキョロ見回していると、その間に小鳥の兄さんは本棚の横にあった椅子の背の部分にとまる。
つぶらな瞳でじっと見られたので気まずく、とりあえず会話を試みる。

「クリフトも、ここの書物を?」
『クリフトは家にある書を読んでたよ。まぁ、ここよりも数が多いけど、全て読んだみたいだねぇ』

さすが、クリフト。
主要都市の交通を網羅してるとか五言語習得してるって寄宿生達をレベルが低いと言っていたが、得ている知識量がこの書庫以上だとは。
努力家、だな。
そんなことありませんよ、と眼鏡を押し上げるクリフトを想像して、笑みが漏れる。

「この中に、禁書が?」
『そう。禁書はこの中にある。特別視している訳ではなくて、普通に並んでるよ。君、ルカだったね?その禁書、探しだしてみて?』
「えっ」

この中から!?
めちゃめちゃ数あるぞ?
そもそも、その禁書自体を見たことがない。
どんな背表紙かも知らない。
俺、試されてる?

『木こり、なんだってね?なぜ、古代語を読めるの?』
「趣味で!」
『へぇ……趣味ね……』
言い訳を考えておいて良かったな!
まぁ、前の趣味だが。

「あの、背表紙に古代語が書いてあったとしても、この数だとかなり時間が……」
『ふーん。やっぱり、読めるんだね?』
「へ?そこ?」
『もしかしたら、眼に魔法をかけてあって外部に流しているとか外にいるシュラ先生ならばそれくらい可能だろうし……』
「そんな魔法あるのか!」
「えっ……」
眼に魔法をかけて本人が見たそのままを別の場で映像として見るなんて聞いたことない。
すごい。
「それも、古代魔法?クリフトの兄さんは使えるのか?」
「えっ、いや」
「他にはどんな魔法が?そう!この変化の魔法もすごいよな!初めて見たんだよ~」
俺は膝を折り小鳥と目線を合わせる。
椅子の背にとまっている小鳥が慌てたみたいに顔を小刻みに動かす。

「いや~本当にすごい。普通の変化の魔法は見たことあるけど、人間以外に変化するのはもう古代魔法でしかない。しかも、こんなに小さい。物量をここまで変える変化の魔法が見られるとは思わなかった!俺も使ってみたいな~」
まじまじと小鳥を見つめる。
人差し指で小鳥の頭から背をすーっと撫でた。
「すごい!何も違和感がない!」
何度も撫でる。
嘴の感覚も確かめる。
『あっ、ちょ、ちょっ、やめて!』
「あ、ごめん」
あまりに初めて見る変化の魔法に興奮してしまった。
でも、まだ伝えたくてたまらない。

「あと、あの古代魔法の木!そもそも、あの木にとまるための変化ってことか?思考が流れてくるのは木だけ?鳥は?」
『……どういうこと?』
「ん?あの最初の部屋の木。あの木が情報源って、すごい……。情報を得る木は決まってるのか?その木にとまってる鳥と会話するってことだよな?クリフトのもう一人の兄さんも小鳥に変化するのか?別の動物か?」

突然、目の前の小鳥が羽ばたきする。
『なんなんですか!あなた!』
「え、ごめっ」
失礼な態度だったかな?
クリフトの兄さんなのに、まずい。
しかも、これから禁書を読ませてもらわないといけないのに、つい好奇心でいろいろ聞いてしまった。
「えっと、ちょっといろいろ聞きたくて、生意気な態度ですみません」
『そこじゃない!』
目の前の小鳥の兄に羽で鼻の頭を叩かれる。
『木こりってクリフトが言ってたけど』
「あ、すみません。木こりじゃなくて、木こりの息子です」
『そこじゃない!』
えー。
小鳥の兄さんも何度もバタバタ羽ばたかせて怒っているようだ。
理由が分からない。
とりあえず、大人しくしておこう。

『ちょっと君、得体がしれないよね?さっき、勝手に推測してベラベラ話してたけど……それはセリアン商会の極秘情報だよ?クリフトでさえ、教えられていないのに……なぜ鳥の変化だけでそれを?』
なんか、簡単な質問された。

「跡取りの兄さんがこの場所にいるってことは商売のための情報を得るためなのに、あの部屋には何もない。木だけ。あの木、めちゃめちゃな数の木と繋がってるだろ?鉢植えっぽくしてたけど、あれは目眩ましで大地に繋がってるよな?その木から魔力が地中に無数にのびてたら、そこから情報を得ているって考えるだろ?そもそも、鳥に変化したから木が必要なんじゃなくて、木にずっと触れているために違和感がないのが鳥なんだろ?でも、きっとそれだけじゃない。鳥に意味をもたせるなら、鳥の姿であれば繋がっている木にとまった鳥からも情報を得ているかも、と思って」
これを聞かれてたよな?

『恐れ入った……。古代語を読解できるだけでも稀なのに、あの木が情報源だと気づくんだね。木からは周辺の天気や気温、土壌の状態を得ている。それは商売に大きく影響するからね。毎日必要だ。鳥の姿もルカが言った通りだよ。鳥の姿に変化している間だけ、木を介して鳥から情報を得ることができる。会話ではなく、鳥が見たり聞いたりしたことを共有できるんだ。これは魔力をかなり使うから、必要とする時のみ、だけどね』
「すげー!」
そんな古代魔法があるのか!
昔は禁呪と知りながら、いろいろ使って楽しんでいた。
シュルツにそれで迷惑をかけたりもしたなー。
あの時のようにワクワクしていると、まさかの一言を言われる。

『君、救国の騎士のルカだよね?』

えぇー!?
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