上 下
80 / 146

意味不明

しおりを挟む
「良い夢を」

フォルクス、寝たか。
俺と前のルカと混同していたが、大丈夫かなー?
まぁ、寝ぼけてたってことで誤魔化せるな、うん。

とりあえず、心配してるだろうからシュルツになんとか連絡したいけど、フォルクスががっつり手を握ったままだからなぁ……。
ん?

「ルカ!」
やっぱり。
空気の揺らぎを感じたら、シュルツが転移してきた。
たぶん、フォルクスが軽く結界をはっていただろうから、それを破った時に生じた揺らぎだったか。
「良かった……無事で……」

いやいや、無事だろ!
フォルクスが何で俺を攻撃するんだよ!
……でも、まぁ、心配かけたな。
「わりー。フォルクス、ずっと俺の悪夢見てたみたいで、眠れてなかったんだ。それで、俺と前のルカを混同しちゃったみたいで、謝りたかったって。みんなの前じゃ照れくさかったのかな?」
シュルツは訝しげな目で見てるが、本当だ!
「で?何で手を握ってるの?」
「あぁ、転移してきた時に繋いだろ?そのまま謝りだして、すぐ寝たからなー。無理に離して起こしちゃったら、せっかく寝たのに、可哀想だろ?」
「……お優しいわね」

な、なんか棘があるな!?

「まぁ、いいわ。眠れてなかったのは本当だろうしね。医務室に運びましょう。二人とも私が運ぶわ」
シュルツは俺とフォルクスを医務室に転移させると、フォルクスを寝台に寝かせる。
「まだ起きないでしょうから、とりあえず無事だと皆に伝えてくるわ」
「おぅ」

寝台の隣の椅子に座る。
眠っているフォルクスは落ち着いているようだった。
しっかし、端整な顔立ちだなぁ。
こんなにじっくり顔を見たことはなかったが、改めて見ると本当にカッコいい。
完璧な美貌のシュルツとはまた違った種類の美形だ。
今世の俺は黒髪黒目という、どこにでもいる色で、顔ものっぺりしている。
……なんか、悲しくなってきたな。

「ルカー!」
そんなことを考えていると、突然フォルクスが叫びながら飛び起きた。
辺りを見回し、現状を確認しようとしている。
「起きたか」
声をかけると、やっと俺を認識したようだ。
「けっこう、深く眠れていた。良かった」
俺はほっとして何度か頷いた。
「側に……いてくれたのか」
「離してくれなかったしな?」
俺は気に病まないように、つとめて明るく言った。
「すまない」
「いーよ。少し隈も薄くなった、かな?やっぱり、悪い夢は見たのか?」
「悪い……夢では、なかった。お前に私のせいじゃないと、ルカ自身が決めたことだと言われて、最後に話したときのことを思い出していた。ルカは……美しかった……」

いや、俺はお前の顔を見て落ち込んでたけどな!
まぁ、美しいのは前の俺だ。うん。

「美しいかどうかはちょっと分からないけど、嫌な思い出ばかりじゃないよな?そっちを思い出してやった方がルカ?も喜ぶ」
「そうだな……」

そうだよ。
俺はそんこと望んでない。
思い出してもらえるなら、良い思い出の方がいいに決まってる。

「ルカ。この国を救ってくれて、ありがとう」
「へ?」
「貴方にそう、伝えなければいけなかったな」
「いや、あのっ」

ど、どうしよう。
まだ混同してるのか?
ど、どうやって誤魔化そう……。
ちゃんと、敬語も使わないとなっ。

「俺は、その救国の騎士ではなく、平民のただのルカなのでっ……」
「今さらか?」
えぇー!
もう、誤魔化せないのか?
まだ諦めちゃダメだ。
あの時は寝ぼけてたからでいいか……他に何か……。
いろいろグルグル考えていると、なぜかフォルクスが笑いだす。
「あのっ」
「いや、いい。貴方が……いや、お前が救国の騎士でも、ただのルカでも」
「はぁ」
どゆこと?
「私はこの国の宰相になった。もう、誰の隣にも、立てる」
いや、誰の隣にも立てるだろ?
意味が全然分からなくて小首を傾げてしまう。

「……しかし、ルカ。シュルツを止めるための口付けはダメだ。お前ならば、テオドールの側まで転移して防護壁を張れば良かっただろう?」
突然、話が変わったー!
それは……そうだけど。
何度か試してみたけど……。
「いや、あの……転移、得意じゃなくて。確実な方法をって……」
寄宿生としては別に咎められることではないが、やはり前から知ってる相手には何となく恥ずかしい。
転移はそこまで難しい魔法ではないからなー。
前も得意ではなかったが、なぜか今は出来ない、と言ってもいいくらい不安定だ。

突然、フォルクスが吹き出す。
「ちょっ、そんな笑うこと……」
「すまない」
こいつー!
これでも、ちょっと悩んでるんだぞ!

とにかく、魔法は不安定だ。
自分の魔力が把握できていない。
練習あるのみ、かなぁ。

「迷惑かけておいて、楽しそうね?」
シュルツが部屋の入り口に仁王立ちしている。
「ルカ、少し席をはずしてくれる?二人で……話があるの」
な、なんか怖いな?
前の俺と混同させたってことを怒ってるのか?
とりあえず、シュルツに従って退室しようと思うが、まだフォルクスが手を握ったままだ。

「あ、あぁ。あの、手を……」
握ったままのフォルクスに離すことを促すと、フォルクスは握った俺の手をすっとあげ、その掌に口付けしてきた。
「え?」
「ちょっ……」

「今は、ここで」

今はここでって、何が?
敬いの印として手の甲に口付けすることがあるから、まだ敬ってませんよ?ってことか?
そりゃそうだろ!平民と宰相閣下なんだから!!

フォルクスの行動の意味が全然分からないが、とりあえず手は離してもらったので、医務室を出る。
とりあえず、自分の部屋に戻ろう。
みんなもいるかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。

悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 哀しい目に遭った皆と一緒にしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!

嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい

りまり
BL
 僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。  この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。  僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。  本当に僕にはもったいない人なんだ。  どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。  彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。  答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。  後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

処理中です...