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模擬戦闘

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作戦会議を終え、俺たちはワクワクしながらその時を待っていた。
俺の案はほぼ却下されたが、まぁ、いい。
……いや、本当はよくないっ!
俺が口を開く度に、三人とも微妙な顔をした。
そんな変なこと言ったかなぁ?

とりあえず、ほぼ三人で練った案は

一、俺とバーンは剣術で、テオは魔法で一斉に攻撃する
ニ、テオは回復魔法と補助魔法で援護しつつ、攻撃魔法が使えそうなら使ってみる
三、シュラ先生の弱点は防御力の低さと持久力なので、バーンは一発を重く、俺は手数で攻める

などだ。
細かい立ち回りも話し合っていたが、たぶん俺は聞いても実行できないので、後半聞いてなかった。

……ことを後々、後悔することになる。

目標は勝つ!……のは無理だろうが、ある程度の時間は粘りたい。
クリフトがフォルクスとテオの父さんに俺たちの有能さをアピールする時間は稼ぐ。

「よっし。そろそろ来るぞ。やってやろーぜ!」
「なんとか、僕も頑張るよ。……驚かせてやりたいよね」
「鼓動が早まるな……この緊張感は何度味わってもいい」
「お褒めの言葉、頂きたいですね」
俺たち四人は互いに見つめ合い、士気は高まっていた。

その時、講義棟の後方から足音がした。
「さて、視察に来たわよ。今日は何をするの?」
シュルツだ。
後方にはフォルクスもテオの父さんもいる。

まず、何も言わずに先制攻撃で魔法をどーん!……という俺の案は却下されたので、普通にクリフトが説明する。

「シュラ先生、三人と模擬戦闘をして頂けますか?」
「は?アタシ?」
さすがのシュルツも驚いている。
まさか、自分の教え子からそんなことを申し込まれると思っていなかったんだろう。
「そうです。三対一にはなりますが、何でもアリの実戦形式でお願いします」
「ふぅん」

おっ、シュルツもちょっと意図を汲んでくれたか?
頭から反対はされなかったな。

「まぁ、いいわよ。とりあえず、この講義棟は結界をはるわ」
シュルツが結界をはるために詠唱している。

「どういうことだ?」
「テオドールが戦うと!?」
フォルクスもテオの父さんも驚いている。
まぁ、確かに普通に魔法とか剣術の練習してる所を視察すると思ってたよな?
それがまさかの実戦形式!
しかも、シュルツと!

「剣は?さすがに生徒に真剣は無理よ。木剣でいいわね?」
「もちろんです。先生を傷つけるわけにはいきませんから」

 クリフト、煽るね~!
面白くなってきたな!

俺とバーンとシュルツは木剣を持つ。
「で?どうすれば勝ち?全員倒す?一人でも倒せば勝ち?」
「全員です。実戦ですから」
「いいわ。かかってらっしゃい。どれくらいもつか、やりましょう?」

シュルツがにやりと笑う。
楽しそうだ。
その後、俺のことをチラリと見た。
分かってる。
もちろん、本気は出さない。
まだ、この身体の全力は分からないが、前よりも魔力量は多いと思う。
無詠唱も問題なかった。
だが、まだ放出する量の調整が出来ない。
さすがに、みんなの前で大爆発は避けたい。

その点、剣術はまだまだ。
だから、今回は魔法の出番はない。
俺は剣術一本だ!

ん?
俺、シュルツにも当たったら、と思うと本気では打ち込めないな……。
まずい。
そこまで考えてなかった。
シュルツだから、本気でいっても大丈夫だとは思うが……。
まぁ、なんとかなるか!
全員の力を合わせて、が大事だからな!

三人とも、木剣を構える。

ちらりとクリフトを見ると、冷静なフォルクスと大丈夫なのかとつめよるテオの父さんに対して戦術を説明しているようだった。
あちらはあちらで上手くいってる。

よし!

改めてシュルツに向き直る。
「いくぞ!」
「いつでもどうぞ」

余裕そうな面……焦らせてやる!
最初の戦術は聞いている。
テオがバーンに素早さを上げる補助魔法を唱えている間の時間稼ぎが俺の役目だ。

まずは正面から振りかぶる。
シュルツは軽く躱し、俺の左側面を狙ってきたが、それは俺が木剣で弾く。
その後もなるべく素早く、攻撃を常に仕掛けた。
シュルツの体力を削ぐためだ。
シュルツ相手にも本気では打ち込めないと思っていたが、やはり対応も早く、木剣が身体にあたる気もしなかったので、どんどん俺は速さも威力も増していった。

シュルツ、成長したな。
改めて、師匠としての嬉しさもある。
魔法とは違って、やはり剣術は速さも威力も前に劣る。
身体の造りの違いもあるだろう。
だが、シュルツと戦っていると、姿はお互い違えど、感覚が戻っていくようだった。
昔も立場は反対だったが、こうやって実戦形式で指導していた。
 
互いの剣が交差し、力で押し合う。
……っ、やはり、この身体ではシュルツに力で押し負けるな。

交差している木剣に力を入れながら、シュルツが周囲に聞こえないように顔を近づける。
「ルカ……楽しくなってるんじゃないわよ!」
……バレてる。
「シュルツ……お前、成長したなぁ」
思わず、笑みがこぼれる。

教え子の成長が嬉しい。
また、こうやって剣を交わせて嬉しい。
自分自身が負けるという、前には味わえなかった感覚が嬉しい。

「アタシも嬉しくて、久しぶりに本気になっちゃいそうだけど、みんながいるんだから、気をつけて」
「分かってるって!」

力押ししていた木剣を弾き、距離をとる。
そろそろ、テオの詠唱が終わってバーンが参戦してくるかな?

そう、思った瞬間。
一陣の風が俺の横を吹き抜け、シュルツを襲う。

え?
俺は呆然とした。

目の前のシュルツの横頬に一筋の血が流れる。
俺と同様、二人の戦いに気を取られていて、一瞬防護が間に合わなかったのだろう。

「よっし」
背後のテオから喜びの声が上がる。
テオ、風魔法使えたんだな。
すごい!

……じゃないんだよ!!

聞いてなかった。
この、作戦。
クリフトが嬉しそうに解説しているが、フォルクスもちょっと慌てている。

そう、知ってる
俺たちは。
シュルツは意図的に顔を攻撃されるとキレる。
手がつけられないほどに。
何度か昔もあった。
その相手は徹底的に痛め付けられる。

「……アタシの顔に、やってくれたわね?」
シュルツの顔に青筋が浮かぶ。

「皆、各自防護壁をはれ!」
フォルクスの声がしたが、皆きょとんとしている。
シュルツは何かの詠唱を始めた。

やばい。
ぶちギレてる。

クリフトやテオの父さんにはフォルクスがいるが、離れた所のテオやバーンは間に合わない!!

くそっ!!
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