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それぞれの始まり~クリフト~

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自分が目指すべき場所はあの時に決めていた。
口にすることはなかったけれど、それはずっと変わらなかった。
でも、その道は険しく、遠い。
そんなことは最初から分かっていたはずなのに、いつの間にか輪郭がぼやけ、曖昧になっていた。

そんな俺の手を取り、貴方は一緒にその思いに触れてくれて、またその輪郭が前よりも鮮やかに目の前に現れた。

俺はそこへ行く。
その隣に貴方にいて欲しい。





国政を担いたいと思う者は多い。
しかし、魔法士や騎士などよりも圧倒的に必要な人数が少ない。
そのため、本当に優秀な者のみが志す、狭き門。
そこに、俺は挑む。
もう、迷いはない。

指定された教室には自分を含めて四人が先生の到着を待っていた。
全員知らない顔だ。
下級の貴族だろうか。
基本的にこの国政を学ぶ場は中央を目指す者は少ない。
地方の監督官や文官希望がほぼ占める。
しかし、それならばこのルーツ寄宿学校に来る必要はない。
ここに残ると言うことは、過酷さも知ってのこと。
ここを卒業した者はほぼ中央で国政を担っている。
俺はその一人になるんだ。
そして、中央でも登り詰める。

決意も新たにしていると、教壇にはいつの間にかネラル先生が立っていた。

「お待たせしました。本来はシュラ先生が指導するはずだったんですが、急遽私が」
魔法の指導だけではないんだな。
ネラル先生は額の汗を布で拭っている。
お忙しそうだ……。
そういえば、シュラ先生とネラル先生以外の教官を見ていないのだが……?

「えー、ちょっといろいろと疲れたので、国政の方では軽めにしましょう!今年は問題児が多すぎます」
ちらっとネラル先生がこちらを見た。
毒の一件だろうか?
俺の疑いはまだ晴れていないのか……。
まぁ、かまわない。
ルカが信じてくれているのだから。

「国政を担う者にとって基本的に必要なのは、知識量、分析力、話術、まぁ、あげていけばキリがないのですが、自分がこの寄宿生の中で一番優れていると思うものを各自あげていって下さい。そして、他の者はそれに反論できるようならして下さい。では、前から」

なるほど。
一番後ろに座っている俺は最後か。
一番不利ではあるが……優れているものね……むしろ、劣っているものが思い付かない。

一番前に座っている名前も知らない寄宿生が立ち上がる。
「私がこの中で一番優れていると思うのは、主要都市の交通網についての知識です」
俺は挙手する。
「クリフト」
「主要都市であれば、公道だけでなく、農道、坑道まで熟知してます」
基本だ。
特に反論もなく、その寄宿生は俯きながら席に座る。

「次」
二番目の寄宿生が立ち上がり、自信あるといった風に俺を見る。

「僕は五言語習得しています」
また挙手する。
「クリフト」
「俺は八言語は軽く。簡単な会話程度であれば、十二言語は」
教室にどよめきが起こる。
言語の習得も時間があれば出来ることだろう?
才能などいらない。
 
三番目の寄宿生がおどおどしながら、俺を見る。
いや、別に俺に対しての発言ではないだろう?

「各地方の名産農作物についての知識を……」
「農産物、畜産物、鉱物すべて把握しています」
特に挙手もしなかった。
本当にルーツ寄宿学校の国政を目指すのがこんな奴らで大丈夫なのか?

ネラル先生がため息をつく。

「さて、クリフトの番ですよ?もう全員の一番優れていると思っている所を全否定してきたのですから、そのどれを一番にあげてもいいんですが?」

「俺の一番優れていると思う所は特にありません」
「は?」
「国政能力としてはすべて優れているつもりなので、一番はあげられません。国政において必要な、持っているものでいいですか?ここにいる三人が持っていないものです」

「金だろ!」
一番前に座っている寄宿生が声をあげる。
「セリアン商会の息子なんだから、一番金がある!」
「それは、俺の金ではありません。地位もそうです。貴族位はいずれ継ぐとしても自分のものではない。そんなものを、一番に掲げたくはない」
その寄宿生はぐっと黙り込んだ。
稚拙だ。

「それは、何ですか?」
「そうですね……友達がいます」
「はぁ?」
「そんなの、僕にもいます!」
二番目の寄宿生だ。
「すみません。友達ではありません。大切な人です」
友達だと思っているのはルカだけだから。
「ふざけてるのか!」
三番目の寄宿生も憤り出す。

「いえ、ふざけてませんけど?じゃあ、君たちにいますか?絶対に裏切らないと確信できる人が。どんなに金を積まれても、地位を約束されても、自分のことを絶対に裏切らないと確信できる相手が?俺にはいます。国政に関われば、どの情報もどの相手も信頼できるかどうか疑心暗鬼になるでしょう。そんな中、絶対的に信頼できる相手がいることは、とてつもない強みです」
誰も言葉を発しない。
それはそうだ。
そんな相手、いるはずがない。
自分が一番そう思っていた。

「そうですか?」
ネラル先生が不敵に笑う。
「その、絶対的な相手に裏切られることがあったら、根底から覆りますよ?」
「それはあり得ません」
「なぜ?」
「裏切られても気づかない。死ぬまで、いえ、死んでも、信じています」
俺も不敵に笑い返す。

「なるほど。まぁ、そこまでの強い思いを抱く相手がいる寄宿生は……いないようですね。確かに、自分の周囲に信頼がおける相手がいるかどうかは重要です。ですが、あまりにも強すぎると、それは毒になりますよ?クリフト」

毒でもかまわない。
もう、全身を巡ってしまっている。

「毒には慣れていますから」

俺は晴れやかに笑った。
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