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毎年の選別~シュルツ視点~

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今日は私が管轄しているルーツ寄宿学校の初日。
いつもの挨拶だけはしてくれと言うので渋々後方から会場を覗く。

この中だと、オルレラ侯爵バーンとロレーヌ辺境伯テオドールが高位の貴族か。
二人とも魔力量も多かったみたいだし、どこまでついてこられるか楽しみ。
あとは、私の脅しでどれだれ寄宿生が減るのか、も。

毎年、『この歳になったから』『渋々親に言われて』『高位の貴族と顔見知りになって優位になりたいから』、なんて鍛えるに値しない奴らが多い。
そんな奴らに割く時間なんてないもの。

壇上ではネラルが説明を終わり、チラリとこちらを見る。
そろそろ、か。

転移魔法で壇上に移動した。
皆、一様に驚いた顔をする。
突然転移したことには驚くが、この魔法はよくあるものだ。

「初めまして。私がココの管轄をまかされているシュラよ。私が指導することはないけれど、有望な者がいれば中央に推薦します。私の耳に入るくらい優秀なコがいることを願うわ」

まずは、友好的に笑む。

ん?
突然、一人の寄宿生が立ち上がり、私を驚いた顔で見ている。

「そこのコ、どうしたの?」
「あ、あの、突然現れたので、驚いてしまいまして……」

その寄宿生は、誤魔化し笑いをしながらゆっくりと座る。

「あら。転移魔法はけっこう一般的だけど、見たことなかった?」
「田舎者なので……へへ」

転移魔法に驚いたようには見えなかった。
私に驚いたような……?
「まぁ、いいわ」

今、名前も知らないこの寄宿生に関わってる時じゃない。

「この、ルーツ寄宿学校は私が管轄しているからにはどんなコも叩き上げるわ。ついてこられないなら、転学しなさい」

ここからよ。
不適に笑う。

「私のシゴキは過酷よ?かの救国の騎士様直伝だもの」

会場がざわつく。

あの人はもう伝説。
伝説に、なってしまった。

ざわつく中、寄宿生の一人が挙手した。
私は彼の目を見て頷き、発言を許す。

「あの、救国の騎士様についてはお名前以外はほぼ伝えられていないのですが、どのような方だったのですか?」

皆、彼のことを知りたがる。
私の中の彼は私のもので、一欠片も教えたくはないのだけど……。

「そうね……ここにいる貴方たちが目指すべき実力を持った人だった。魔力は甚大、剣術は秀逸。まぁ、国政にはあまり関わってなかったわ。優しい人だから。バカだったし」

ふと、在りし日の姿を思い出す。
私の中では、まだ、あの日々は続いている。

「あの人が命をかけたこの国を担う者を育成するのが、私の勤め。生半可なことは許さない。この寄宿学校に中途半端な実力の者は必要ない」

思い出話をするためにあの人の名前を出したんじゃない。
覚悟を要求すると示すため。
一年間しかここでは学べない。
最初から、ふるいにかける。

会場は重い空気に包まれる。
そんな中、また挙手をするコが……。
「あら。立ち上がったコね?まだ何かあるの?」

とりあえず、軽く頷き、発言を許す。

「あの、シュルツ先生は中途半端な実力の奴はいらないって言われたんですけど、俺はいろんな奴がいろんな形で国を支えたら良いと思います。一人の強大な力なんて、害悪でしかない。そんな一人よりも、無数の手で支える国こそ、健全だ」

……シュルツ。
このコは、確かにそう言った。

久しぶりに、その名を聞いた。
もう、私のことをその名で呼ぶ人なんて片手で足りるほど。

このコ、何者?

探るような瞳でその寄宿生を見る。

黒髪黒目の特に特徴のない風貌。
私の記憶にはない。

開場も私が無言で見つめることによって、凍りついたかのように静まり返る。

「な、なーんて。シュルツ先生のお話だと、俺みたいなのなんてダメだなーって思って焦っちゃってー。へへっ」

突然、愚者ぶる。
どういうこと?

「貴方、名前は?」
「る、ルカです」

ルカ!
その名……!!

この子が、例の『ルカ』
いえ、名前だけだと分かってる。
でも、私のことをシュルツと呼ぶルカなんて、一人しかいない。

「……後で、私の執務室へいらっしゃい」

話がしたい。どうしようもなく。

「お待ち下さい!」

会場の後方から声が上がる。
寄宿生が、一人立ち上がり発言する。

「その者はただ自分の意見を言ったまで。上の者は鷹揚おうようたる態度で構えるべきです。何卒、ご容赦を」

「「私からもお願いいたします!」」

続いてルカの両隣が立ち上がる。

「その者は田舎の村から出てきたばかり。まだ物事を知りません。これから学んでいく過程です」
「純粋ゆえの暴挙。お目こぼし頂きたく」

まだ、出会って時が浅いだろうに。
三人もの寄宿生が、ルカを庇い、守ろうとしている。
ルカも同じように立ち上がり、頭を下げる。

「すみませんっ!俺は、」
「待ちなさい」

謝罪の言葉は聞きたくない。

「貴方たち、勘違いしてるわ。別にこのコを放逐しようなんて考えてない。私は自分の意見を否定されて怒り狂うような矮小な人間のつもりはない。ただ、このコと話してみたくて執務室に呼んだだけよ」

三人とも、ほっとした表情をした。

「でも、貴方たちの行動は早計すぎる。私への批判とも取れる嘆願は、この場でするべきではないし、私がもし卑小な人間なら、全員退学よ。権力のある人間について、その人間性を知らない内に行動するのは浅はかだわ。今回は、ただ幸運だっただけ」

三人とも、ぐっと顔をしかめる。
この三人には、良い勉強になった。

「それは、庇われた貴方にも言えるのよ、ルカ」

その名を口にするだけで、鼓動が早まる。

「貴方の言動で、三人もの若者が人生を狂わせたかもしれない。自分の身一つではないの。周囲に貴方を大切だと思う者がいれば、貴方の言動はそれらすべてに影響を与える。熟考しなさい」
「はい」

ルカにも言いたかったこと。

「さぁ、みんな座って。良い国政の授業になったわね」

四人を座らせ、事務的な話を進める。
ある程度、この学校の流れを伝えた。
最後に釘を刺すことも忘れない。

「こんなものかしら。とにかく、ウチは厳しいわ。高位の貴族も平民も変わらない。完全な実力主義よ。もし、高位の貴族とお知り合いになりたかっただけのコがいるなら、悪いことは言わないからこの後実家に連絡して、寄宿学校を変わるなり、領地に戻るなりしなさいね」

他の寄宿学校はココよりはマシ。
もちろん、調べてココを選んだのなら分かっていることだけど、例年卒業生が他校に比べて格段に少ない。
その代わり、卒業生が中央へと進んだり、地方の役職に就いたりする率は100%。
つまり、優秀な者しか卒業まで残れない。

会場がざわつく。
さぁ、どれくらい残るかしら。

「じゃあ、私のお話は終わり。あとは事務的なことをやって、今日は解散。明日、どれだけのコが残っているのか楽しみにしてるわね」

また転移魔法を使い、今度は執務室まで移動する。
黒いローブを脱ぎ、いつもの椅子に座ると、思わずため息をつく。

分からない。
とりあえず、話をしよう。

もし、あの、ルカ、だったら……。

淡い期待を打ち消すように、もう一度息を吐いた。
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