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若人の朝

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木こりの朝は早い。
住んでいた村から木を伐っていた場所まで距離があったし、明るいうちしか作業できないため、毎日日が昇る前に起きて準備していた。

習慣とは恐ろしい。
ゆっくり寝ようと思っていたのに、やはり早くに目覚めてしまった。
二度寝……すると反対に起きられなくなりそうだ。

クリフトが起こしてくれるとは思うが、テオの部屋からこの部屋に帰ってきてすぐ寝た俺と違って、クリフトは何かごそごそと動いている気配がした。
むしろ、夜遅くまで起きていたクリフトの方が寝坊するかもしれない。
今日は大切な初日だ。
二人とも寝坊はまずい。

もう、起きよう。

洗面所で顔を洗い、テオに貰った服に着替える。
良い生地なので、着心地が違う。
改めて、テオに感謝だ。

明日からは支給される制服に着替えて通うことになるらしい。
鞄や本、筆記具なども支給される。
すべて、破損したり使い終わったりすればまた支給されるとのことで、至れり尽くせりだ。

お金のことを気にしなくていい!

もう準備も終わり、することがない。
クリフトはまだ起きる気配もなく、起こすにも早い。
食堂も開いてないだろうし……。

とりあえず、寄宿舎の付近を散策するか。

クリフトを起こさないようにそっと部屋から出る。
廊下も静まり返って、人の気配はない。
一階まで降り、外に出る。

外は朝独特の空気だ。
澄んでいて、美味しく感じる。

寄宿舎は寄宿学校の隣に建っているが、周囲は森になっていて、隣接する民家などはない。
そのため、朝早くとも人の気配があった村と違い、まるで時が止まったかのように静かだ。

大きく伸びをする。

今日から、寄宿学校で学ぶ。
父さんが母さんを見つけたように、俺も誰か一生を共にするような相手と出会えるのか。

楽しみで仕方ない!

ん?
何か、音がする?
耳を澄ますと、衣擦れのような音が聞こえる。

何だろう……音のする方へ向かう。
寄宿舎の裏手の方へ回ると、中庭のようなスペースがあった。
その中庭の隅の方から音がしている。

中庭に入り、その音の方へ向かうと、そこには上半身裸で木刀を素振りしているバーンがいた。
無言で前を見据え、ひたすら木刀を振り下ろしている。
その度に汗も周囲に飛び散る。

いつからやっていたんだろう……。

その上半身は汗にまみれていた。

しばらくすると、素振りを止めた。
首にかけていた布で汗を拭いながら少し荒くなった呼吸を整えている。

こんな早朝からバーンは訓練を……。

高位の貴族は二種類に分かれる。
代々の貴族位に甘え、努力もせず、のうのうと利権のみ搾取する者。
自らを研鑽し、常に国のため民のために自己犠牲を厭わない者。

バーンは間違いなく、後者だ。

後者は、少ない。
前世でそれは、痛感している。
その少ない後者の成長を間近で見られるのか。

今世で、自分は木こりとして生きると決めている。
だからこそ、自分が関わることのない治世を担う若者たちの助けとなるよう、俺も努めよう。

早起きをして、良いモノ見たな~帰ろう~と踵を返そうとすると、「誰だ?」と気配を察知されてしまった。

見られたくなかったかもしれないなーと思いつつ、仕方がないのでバーンに近づいた。

「ルカ!」
「朝早いな、バーン」

なるべく大したことは見てないという体で笑いかけた。

「俺もいつもの癖で朝早く起きちゃって、散歩してたんだ。邪魔して悪かったなー。もう戻るから気にせず続けてくれ」
「いや、私ももう終えて部屋に戻る所だ。共に行こう」

汗を拭きながら、近くに置いてあった衣服を取っている。
俺はおもむろに近づくと、その腹に触れた。

「なっ……」
「すげー、筋肉……」

同じ歳とは思えないほど、その腹は固く割れ、稽古の程を伺わせる。

「俺さー、あんまり筋肉つかない体質なのか、こんなにならないんだよなー。腕はけっこうあるけど、腹はなー。まぁ、鍛えようが違うかー」

羨ましくて、ペタペタと触っているとその手を取られる。

「も、もうやめてくれ!」
「わ、わりー」

もしかして、クリフトと同じく潔癖症なんだろうか?
悪いことをした。

バーンは急いで衣服を身に付けている。

「では、部屋に戻ろう」

心なしかバーンが早足で戻ろうとするので、俺は嫌われたのかもしれないとちょっと凹んだ。
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