上 下
3 / 5

神様の加護

しおりを挟む
「加護、ですか?」
……もしかして、この世界は思っているよりも危険ってことなのかな?
正直、死ぬことよりも痛いことの方が怖い。
車に轢かれた時も咄嗟に黒猫の命を救おうと動いただけで痛みを想像していなかった。
自分が思い描いていた魔物を倒す異世界転生の主人公のような行為は、できそうもない。
ますます、神様の勧める生き直すことにしり込みする。

「我の世界はお前の世界と生活様式はさほど変わらない。獣を祖としているため、機械化などは進んでいないが。……あいつと共に造ったからな。ただ、獣人がいるという違いがある。獣人はお前の世界で言う草食と肉食に大きく分けられる。だが、草食獣人が草を食べ、肉食獣人がその草食獣人を喰らう、という訳ではない。草食獣人も家畜を喰らうし、肉食獣人が肉を好まないこともある。あくまで、身体能力の差だ。肉食獣人は戦闘的で野心家が多く、草食獣人は温厚で牧歌的な生活を好む。これも、多いというだけで絶対ではない。しかし、そのために国を治めるのは肉食獣人が多いな」

なるほど。
この辺はなんとなく想像していた感じではある。
「獣人も多様だ。お前の世界と同様、良い獣人もいれば悪い獣人もいる。見た目が獰猛な熊の獣人が悪だという訳ではない。そして進化が進む中で、完全な獣体に変化する者はほぼいない。もう、耳や尾などに特徴を残す者がほとんどだ」

獣人も思っていたよりもライトだな。
100均で見たことある動物のカチューシャをしている程度ってことか。
「あの、お聞きしている限り、そこまで僕が暮らしにくい感じはしないんですけど、加護、とは?」
「そうだな。まず、言葉だ。お前は我の世界の言語を話せない。それでは困るだろうから、会話や読み書きなどは可能になる加護を与えよう。そして、世界が異なるため食が合わない可能性がある。お前の世界と動植物は似通っているとはいえ、完全に一致はしていない。順応できるよう、何を食しても問題のない身体強化の加護も与える。それにより、病に冒されることもない」

すごい……本当に手厚い!
こんなにしてもらってもいいのかってくらいだ。
「あの、なぜそこまで……?」
もちろん、神様を庇って死んだことに対して申し訳ないって気持ちだと思うけれど、僕の世界の神様が言った通りそのまま死なせておけば良かったのに。
「今、お前がいるこの空間をどう思う?」
「え?」
僕は周囲を見渡してみる。
どう思うも何も、真っ白で何も無い。
黒い猫がちょこんと白い空間に座っているだけだ。

「何も無いだろう?この世界はお前の内……つまり魂だ。赤子のように何にも影響を受けていない……十数年生を得ていた者がこのような魂だなどと……」
表情など読み取れない黒猫の姿なのに、その声音からも憐憫のようなものを感じた。
「我は見たいのだ。お前の魂がこの世界で羽化する様を。我と波長が合うお前であれば必ずこの世界にも良い影響を与えるはずだ」

期待に満ちた神様の声音を聞いていると、何だか僕も一歩踏み出したくなってきた。
あの日の朝のように。
「生き直して、みようかな……」
発した声は小さいような気がしたけれど、僕は少し前を向いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

私のバラ色ではない人生

野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。 だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。 そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。 ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。 だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、 既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。 ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

浮気をした婚約者をスパッと諦めた結果

下菊みこと
恋愛
微ざまぁ有り。 小説家になろう様でも投稿しています。

(完結)私の夫は死にました(全3話)

青空一夏
恋愛
夫が新しく始める事業の資金を借りに出かけた直後に行方不明となり、市井の治安が悪い裏通りで夫が乗っていた馬車が発見される。おびただしい血痕があり、盗賊に襲われたのだろうと判断された。1年後に失踪宣告がなされ死んだものと見なされたが、多数の債権者が押し寄せる。 私は莫大な借金を背負い、給料が高いガラス工房の仕事についた。それでも返し切れず夜中は定食屋で調理補助の仕事まで始める。半年後過労で倒れた私に従兄弟が手を差し伸べてくれた。 ところがある日、夫とそっくりな男を見かけてしまい・・・・・・ R15ざまぁ。因果応報。ゆるふわ設定ご都合主義です。全3話。お話しの長さに偏りがあるかもしれません。

悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい

たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた 人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄 ナレーションに 『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』 その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ 社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう 腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄 暫くはほのぼのします 最終的には固定カプになります

魔がさした? 私も魔をさしますのでよろしく。

ユユ
恋愛
幼い頃から築いてきた彼との関係は 愛だと思っていた。 何度も“好き”と言われ 次第に心を寄せるようになった。 だけど 彼の浮気を知ってしまった。 私の頭の中にあった愛の城は 完全に崩壊した。 彼の口にする“愛”は偽物だった。 * 作り話です * 短編で終わらせたいです * 暇つぶしにどうぞ

【BL】オネェ騎士は見習いが可愛くて仕方ない。

梅花
BL
シュテルンハイム騎士団小隊長のレイモンドは、ひょんなことから見習い騎士であるニコルを侍従として受け入れた。 歳の離れたニコルは数奇な運命を辿っており、レイモンドはそれを知ってしまうとニコルに対して通常とは違う気持ちを向けてしまいそうになり…… オネェ騎士と騎士見習いのジレジレラブストーリー(?) 紅き月の宴スピンオフ?同世界。

【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話

バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。  そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……?    完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公   世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m

処理中です...