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 十年前、確かに俺はロイ様に求婚されていた。
 いや、求婚された!と明確に思った訳ではなく、好意を伝えてもらった、くらいの感覚だった。
 そんな前のことをなぜすぐ思い出せたかと言うと、この十年で人から好意を伝えられることなんて、あの時以降なかったから。
 ……なんか、言っててすごく虚しいけど。

 でも、あの時は本当に嬉しかった。
 ちゃんと、覚えてる。

「ロイ様、本当にごめんなさいっ。俺、あの時のこと覚えてますっ」
 大声で腰を折り、しっかりと頭を下げて謝罪した。
 あの時のことをなかったことにしたのは、俺が全面的に悪いから。
「覚えていてくれて嬉しい。謝らなくていい」
 頭上からロイ様の柔らかい声が聞こえたが、申し訳なさすぎて顔をあげられない。
「ロイ様……十年前の求婚をなぜ今さらこの時に?」
 ミハエル様の言葉に思わず俺も顔を上げた。  
「あの時、トールに言われた。平民と王族である以上、婚姻はできない、と。トールの言う通りだ。それは私にはどうする術もなく、これ以上トールを苦しめる訳にはいかないと思い、あの時は退いた。でも、想いは変わらない。だからこそ、今日という日のために鍛錬した。騎士団に入り、研鑽し、騎士団長となり、剣術大会にて優勝し、その報奨として平民であるトールとの婚姻を許される。それが十年前のあの時から私が望んだことだ。ようやく、トールに、もう一度伝えられた」
 俺の目をしっかりと見つめながら、幸せそうに微笑むロイ様を見て、俺は倒れこむんじゃないかと思うくらい顔に熱が集まった。

 十年前から、この俺のために!?
 嘘だろ!!
 許されるなら、この場にうずくまって大声で絶叫したい。……許されないけど。

「お前が突然騎士団に入りたいなどと言い出したあの日か。トールが原因だったとは……。皆が反対したのに、お前は絶対に意見を変えなかった。父上に出された条件もすべて飲み、望み通り今日を迎えるとは我が弟ながら、天晴れだな!」
国王陛下は機嫌よく笑顔でロイ様の肩を叩いている。
「兄上……」
ロイ様も笑顔で応じていた。
あぁ、良かった。仲良しなお二人の雰囲気に戻った!
俺もほっと胸をなで下ろした時、突然国王陛下がロイ様の肩を力強く掴む。
「だが!トールはダメだ」
一瞬で険悪な雰囲気に戻り、ロイ様が国王陛下の肩を同じように掴んだ。
「いだだだだっ、お前っ、我は国王だぞ!我を守るべき騎士団長が暴行を加えるとは何事だっ」
「兄上に褒められたので、嬉しくてつい力が……」
また揉め出した……。

「はいはい、離れて。お互い、座りなさい。次、もめ出したらトールに私がひどいことしますから。分かりましたね?」
「なっ……」
「トールには手を出さないでくれっ」
「貴方たちの行動次第です」
揉め出したお二人をどうすることも出来ずにオロオロしていた俺とは違い、ミハエル様がいてくれて助かったって思うけど、完全に悪役のセリフだった。
しかも、俺が巻き込まれてる。……ひどいことって何だろう……痛いのは嫌だな……。

「事の経緯は分かりました。しかし、国王陛下じゃあるまいし、ロイ様にしては手際が悪すぎませんか?それならば、まずトールに改めて好意伝えて、同意を得てから内々に私にでもご相談して頂ければ」
「お前は反対するだろう?この国にとって、利益にならない。お前に知られることを一番恐れた。それに、あれだけの貴族の前で褒美にトールを望んだ。当然の権利として。そうすれば、さすがのお前でも覆せないだろうからな?」
ロイ様が好戦的な目でミハエル様を見る。
「ほぅ……それならば確かに悪くない手です。ロイ様にしては強引ですが、確かにアレをされるとこちら側としては認めざるを得ない。誰かの入れ知恵ですか?」
怖い。
お二人とも笑顔だが、目は笑ってない。
凡人の俺にとって、こんな腹の探り合いみたいなのが一番怖い。
「トールだ」
はいっー?
また、俺ぇ!?
いやいやいや、それはない。絶対ない。
ミハエル様の「こんな所に敵がいたか」みたいな感じで俺を見てくるのがめちゃくちゃ怖い。
俺は何度も何度も首を横に振る。俺は人畜無害ですっミハエル様の敵ではありませんっっ。
「トールが、絶対に逃したくないのなら、外堀を埋めろ、と言ってくれた」

……うん、言ったわ。それ、確かに言った。
言ったけど、それが何故こんな展開に?
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