2 / 21
2
しおりを挟む
……ま、まさかな。
今、ロイ様から俺の名前が聞こえたような気がしたけど、違う、よな?
「トールを褒美に頂きたい」
えぇ!?
やっぱり、俺の名前だ!
嘘だろ?
え?
同じ名前の人がいるってことも、ある、か?
厨房に?
いや、いない。
でも、俺のはずがない!
俺は頭が大混乱でその場に立ち尽くしたまま、呆然としていた。
広間はもちろん騒然としていて、周囲の貴族たちが次々と俺の名前を口にしている。
「ダメだ!」
そんな広間に国王陛下の怒号が飛ぶ。
広間の視線が一気に国王陛下に集まった。
「ロイ、トールと婚姻して、領地に連れ行くつもりだろう?」
「もちろんです。愛しい人と共に領地を統治することに何か問題が?」
先程までの厳かな国王と臣下のやり取りとは違って、ロイ様も膝をついていた姿から立ち上がり、国王陛下と睨み合っている。
周囲にいた国王陛下護衛の騎士たちもロイ様を止めることはできず、オロオロしていた。
掴みかからんばかりにお互いがにじりよっていて、一番近くにいる宰相のミハエル様は諦めたかのように表情筋が死んでいた。
相変わらず、みなさん仲良しだな。
「トールの独り占めは許さない!」
いや、言い方!
案の定、国王陛下の爆弾発言に広間がより騒然となった。
「トールという平民、まさかロイ様ばかりでなく、国王陛下まで誘惑を!?」
「お二人が平民を奪い合うだなんてっ……」
「どんな手練手管をお持ちなのかしら?」
「さぞかし美しい容姿なんだろうな……会ってみたいよ」
いやいや、ここにいる平凡を絵に描いたような俺ですけど?
手練手管どころか、キスすら未体験だし。
いかん。
頭が痛くなってきた。
それにこのままここにいることがお二人にバレたら、巻き込まれる。
周囲の高位貴族の方々に、トールがこんなド平凡だと知られると、ますます大混乱させてしまうだろうしな。
ロイ様と国王陛下の名誉のためにも、早く立ち去ろう。
俺は顛末が気になりつつも、見つからないようにそっと料理を並べ終わり空になった台車を押し、広間を後にした。
背後の広間ではまだ騒々しい音が聞こえているが、ミハエル様がきっと上手いことまとめるだろう。
しかし、ロイ様……何を突然言い出したのか。
婚姻の承諾が最後には褒美が俺自身みたいになってたけど。
ロイ様の婚姻とか愛しい人とかの発言はさっぱり意味が分からないが、国王陛下の「独り占めするな」はいつも聞いているから意味が分かる。
ただ、あのタイミングであんな言い方するから、皆さんが誤解するんだよ。
俺のせいじゃないのに、すごい妖艶な美青年設定を与えられて気が重い。
俺は廊下の窓に写る自分の姿を改めて見た。
暗闇に浮かぶ俺の髪はありふれた焦げ茶色で、清潔さを心がけて短めに切っている。
瞳も髪と同じく暗めの茶色で、小さくも大きくもない。
鼻筋も通っているとは言い難く、唇も厚みもなく、どちらと言えば小さめだ。
ものすごく不細工、ではない。
体格は大きくもなく、華奢でもない。
中肉中背。
つまり、すべてが普通だ。
皆さんが想像しているトールと本当のトール……落差が激しすぎる。
はぁっ、と大きくため息をはきつつ、台車を押し調理場へと戻った。
「おー、お疲れ様ー。わりぃなー、給仕の真似事までさせちゃってー」
同僚とも言えるこの厨房を取り仕切っているシャルが大鍋を洗いながら声をかけてくれる。
「いや、いいよ。シャルも大変だったな」
「ホントそうだよ。まぁ、子供の病気とか言われちゃうとな」
今、この城下町で子供の風邪のような病気が流行っている。
その看病のために、今日は何人も厨房に休みが出た。
だから、配膳役が足りなくて調理担当の俺がかり出されたってわけ。
俺は頷きながら台車を指定の位置に戻すと、シャルの片付けを手伝った。
「そろそろ晩餐会始まってるかな?最中はメイドさん達がやってくれるけど、終わった後の片付けだけまた頼むわー。ちゃーんと給金ははずむからなっ」
言えない……俺の話題で紛糾してて晩餐会始まってないなんて……。
とりあえず、やったーと言いながら、帰りが遅くなることを覚悟しつつヘラヘラ笑っておいた。
今、ロイ様から俺の名前が聞こえたような気がしたけど、違う、よな?
「トールを褒美に頂きたい」
えぇ!?
やっぱり、俺の名前だ!
嘘だろ?
え?
同じ名前の人がいるってことも、ある、か?
厨房に?
いや、いない。
でも、俺のはずがない!
俺は頭が大混乱でその場に立ち尽くしたまま、呆然としていた。
広間はもちろん騒然としていて、周囲の貴族たちが次々と俺の名前を口にしている。
「ダメだ!」
そんな広間に国王陛下の怒号が飛ぶ。
広間の視線が一気に国王陛下に集まった。
「ロイ、トールと婚姻して、領地に連れ行くつもりだろう?」
「もちろんです。愛しい人と共に領地を統治することに何か問題が?」
先程までの厳かな国王と臣下のやり取りとは違って、ロイ様も膝をついていた姿から立ち上がり、国王陛下と睨み合っている。
周囲にいた国王陛下護衛の騎士たちもロイ様を止めることはできず、オロオロしていた。
掴みかからんばかりにお互いがにじりよっていて、一番近くにいる宰相のミハエル様は諦めたかのように表情筋が死んでいた。
相変わらず、みなさん仲良しだな。
「トールの独り占めは許さない!」
いや、言い方!
案の定、国王陛下の爆弾発言に広間がより騒然となった。
「トールという平民、まさかロイ様ばかりでなく、国王陛下まで誘惑を!?」
「お二人が平民を奪い合うだなんてっ……」
「どんな手練手管をお持ちなのかしら?」
「さぞかし美しい容姿なんだろうな……会ってみたいよ」
いやいや、ここにいる平凡を絵に描いたような俺ですけど?
手練手管どころか、キスすら未体験だし。
いかん。
頭が痛くなってきた。
それにこのままここにいることがお二人にバレたら、巻き込まれる。
周囲の高位貴族の方々に、トールがこんなド平凡だと知られると、ますます大混乱させてしまうだろうしな。
ロイ様と国王陛下の名誉のためにも、早く立ち去ろう。
俺は顛末が気になりつつも、見つからないようにそっと料理を並べ終わり空になった台車を押し、広間を後にした。
背後の広間ではまだ騒々しい音が聞こえているが、ミハエル様がきっと上手いことまとめるだろう。
しかし、ロイ様……何を突然言い出したのか。
婚姻の承諾が最後には褒美が俺自身みたいになってたけど。
ロイ様の婚姻とか愛しい人とかの発言はさっぱり意味が分からないが、国王陛下の「独り占めするな」はいつも聞いているから意味が分かる。
ただ、あのタイミングであんな言い方するから、皆さんが誤解するんだよ。
俺のせいじゃないのに、すごい妖艶な美青年設定を与えられて気が重い。
俺は廊下の窓に写る自分の姿を改めて見た。
暗闇に浮かぶ俺の髪はありふれた焦げ茶色で、清潔さを心がけて短めに切っている。
瞳も髪と同じく暗めの茶色で、小さくも大きくもない。
鼻筋も通っているとは言い難く、唇も厚みもなく、どちらと言えば小さめだ。
ものすごく不細工、ではない。
体格は大きくもなく、華奢でもない。
中肉中背。
つまり、すべてが普通だ。
皆さんが想像しているトールと本当のトール……落差が激しすぎる。
はぁっ、と大きくため息をはきつつ、台車を押し調理場へと戻った。
「おー、お疲れ様ー。わりぃなー、給仕の真似事までさせちゃってー」
同僚とも言えるこの厨房を取り仕切っているシャルが大鍋を洗いながら声をかけてくれる。
「いや、いいよ。シャルも大変だったな」
「ホントそうだよ。まぁ、子供の病気とか言われちゃうとな」
今、この城下町で子供の風邪のような病気が流行っている。
その看病のために、今日は何人も厨房に休みが出た。
だから、配膳役が足りなくて調理担当の俺がかり出されたってわけ。
俺は頷きながら台車を指定の位置に戻すと、シャルの片付けを手伝った。
「そろそろ晩餐会始まってるかな?最中はメイドさん達がやってくれるけど、終わった後の片付けだけまた頼むわー。ちゃーんと給金ははずむからなっ」
言えない……俺の話題で紛糾してて晩餐会始まってないなんて……。
とりあえず、やったーと言いながら、帰りが遅くなることを覚悟しつつヘラヘラ笑っておいた。
93
お気に入りに追加
1,077
あなたにおすすめの小説


義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

「じゃあ、別れるか」
万年青二三歳
BL
三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。
期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。
ケンカップル好きへ捧げます。
ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる