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始まりの章

23.ディジーローズという少女。ギルド長視点。

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Sランクの2人で予定より遅れるなんてことはこれまでなかった。しかも、そのうち1人はSSSランクなのに、だ。
何かトラブルがあったとしか考えられないが、今いるこの街の戦力で行くには心もとない。
そう、思いつつも、スタンビートの兆しが見られるかもしれないとの情報があった為に、確かめないわけには行かない。スタンビートが起きれば、どれほどの生命が失われるか分からない。何とか食い止めなければ。

最悪の結末も見据え、決意して数人を鍛えていた時だった。ザワつくギルド内に戻るとあの2人が帰ってきていた。


安心と共に齎される情報に戦々恐々としていた。しかし、もたらされたのはまだスタンビートは起きる兆しではないとの事だが、強い魔物が住んでいる可能性はあるとのこと。
そして、その姿はとある理由から確認できなかった、それが原因で予定よりも帰還が遅れた、と。

それこそが目の前の可憐な美少女だった。

白金の髪に、翠瞳。白く透き通るような肌で、少し触れただけで折れそうな細い手足。
美味しそうに紅茶を飲んでいる。武骨な部屋もまるで癒しの空間になっていた。

精霊か天使か、というような見目をしている。歳の頃はちょうど娘と同じくらいだろうか。

ディジーローズと名乗った少女は、なんと記憶喪失になっているという。道中の行動や言動からも間違いないだろう、と。それだけでも悲運だろうに、ウェズの森で、1人で3日も彷徨っていたらしい。死ななかったのは奇跡だろう。

そこで2人と出会い、共に帰還した、と。家族はさぞ心配しているだろう。
何もギズのない綺麗な手や髪からもどこかで大切に育てられたと思われる。澄んだ眼も明るい表情からも…。そんな少女が家族すら分からないなんて…。
きっとご両親も探しているはずだ。直ぐに見つかるだろう、そう思いつつも娘と重ねてしまい、その不遇に思わず涙が浮かぶ。


しかし、少女のことばかり構ってはいられない。強い魔物についての情報を得て、必要であれば討伐隊を組む必要がある。少女がギルド登録に行く間に詳しい情報を得る。

殆ど話し終えた頃には1時間半ほどかかっていた。最終確認をしていると、慌ただしい音と共に受付嬢のサイアミーズが飛び込んできた。そして、話を聞くと同時にドムが飛び出す。
慌てて続くとゼウスの間から倒れるように崩れ落ちる少女。誰も彼女の身に何が起こっているのか分からなかった。薬師のアイス爺さんを呼びに行かせる。

ポーションを飲み、顔色を伺うがどういう状況か分からない。

会話は出来るようだが…。そうしているうちにアイス爺さんがきて、問題なさそうだという。
そんなことあるのだろうか…

とにかく休ませる為に一旦は宿に帰っていった。

この後この少女に何度も驚かされることになるとはこの時は全く想像も出来なかった。

ーーーーーーーーーーーーーー


少女の容態は安定していると連絡を受け、サイアミーズが様子を見に行き、少女を連れてきた。

ゼウスの間で起こったことを聞くが信じられないことばかりだ。
彼女の魔力保有量はどうなっている?そもそも、会話することなど出来るのか?何故彼女は長い間ゼウスの間に留まれた?何故、何故、何故?
疑問は尽きない。

しかも、あのドムが彼女を必死で守ろうとしている。あのドムが、だ。
何にも執着せず、無茶な依頼を受けることもあった。まるで、この世に未練などないかのように。
天性の強さがなければ、彼はこの世にいなかっただろう。

そんなドムが執着をみせている。その証拠に少女を腕の中に入れてはなさない。少女はその意味を分かっているのだろうか?

獣人は、愛すべき守護者を見つけたら、生死を共にする。1人、その人と定めたらば決して他のものに移ることはない。
しかも、ドムは白虎。獣人の中でも、愛情深いとされる。


膝に乗せたり、彼女を守るように自分の懐に入れていることからも、恐らく…。


とにかく今は情報がいる。
頭を使うのはあまり得意ではないが、情報を集め、どうするべきか判断する必要がある。
ギルドは国には利用されない。圧力も受けない。しかし、この街に住む限り無関係では居られない。いざとなれば国を捨てることもできるが…。
最前を選び取らなければ。ドムとあの少女のためにも。

「サイアミーズ、来てくれ!」
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