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「アキレウス第2王子とユーナ嬢を結婚させればよいのです」
「な、何を!」
王妃様と陛下が血の色を変える。反対にアキレウスとユーナは顔がぱあっと明るくなり手を取って見つめ合っている。
バカップルか。
「マリエル嬢ならわかるでしょう、この娘が王家に嫁ぐことができないのは」
「ええ、このままでは無理です」
ユーナの身分はただの男爵令嬢。小さな領地を持っているだけで、裕福とは程遠い家系であるから王家との釣り合いは取れないだろう。
身分が低くても、ユーナが王家と並べるほどの教養溢れる淑女であれば可能性はあったが、まあ無理だ。
ただ、抜け道がある。
「ユーナ嬢をウォルター家の養子にすればよいのです」
「はぁ!?!?」
誰よりも先に、お父様が叫ぶ。言ってなかったからね、ごめん。お父様は声を荒らげたことに気づいて慌てて咳払いをし、
「ま、マリエル?どういうことかな」
平静を装ってるみたいですが……目、泳ぎまくってますよ、お父様。
いいからとりあえず話を合わせてくれと念を送り、そのあとは見て見ぬふりをした。説教なら後で聞くから。
「そうすればユーナ嬢は晴れて公爵令嬢です。王家に嫁ぐには充分な身分と言えるでしょう」
「マリエル……!」
ユーナが『やっぱり私の味方だったのね』と言いたげな目線を送ってくる。眩しいよ、あんたの視線。
私はあっさりと無視を決め込む。
「教養についても安心してください。とりあえず立ち振る舞いの表面だけはウォルター家の家庭教師をつけます。あとの指導は王妃教育で何とかしてくださいませ」
「なるほど……それならば、儂としてはアキレウスが恋愛結婚するのを応援したい。しかしそれではウォルター公爵家の負担が大きいのではないか?公爵はどう思うのかね」
「あ…………いえ、それが最善策かと思いますので……はは……」
ごめんってお父様、そんなに睨まないで。
「でもマリエル嬢、そのままではカノンの名誉までは挽回できないわよね?」
「ええ、おば様。ですから表向きはカーチェスト公爵家がユーナを養子にとることにしましょう」
「なるほど……」
おじ様が顎に手を当てて唸った。
「ユーナ嬢がアキレウス第2王子と結ばれるように働くという事実は、カノンがユーナ嬢を全く憎んでいないことを意味する」
私は大きく頷いて、にっこりと微笑んでみせた。
「それならば婚約が白紙になったと陛下が発表なさっても、カノンがユーナ嬢とアキレウス第2王子のために身を引いたと思われるでしょう」
そして民衆は、男爵令嬢と王子という身分を越えた愛の物語として喜ぶかもしれない。
王家にもカノンにもダメージはなく、むしろ良い印象を与えうる。この話に乗らない人はいなかった。
たった一人を除いて。
「そんな、おかしいです!カノンさんが私を虐めたのは本当なのに、それじゃ、まるでカノンさんが良い人みたいじゃないですか!」
「まあまあ。いいじゃないか、ユーナ。僕たちが結ばれることになったんだから」
「で、でも…!」
「ユーナ」
「マ、マリエル…」
ユーナは怯えたように私を見つめる。私が敵なのか味方なのかわからないのだろう。
「いえ、これからはユーナ・ウォルター公爵令嬢ね。あら、違うわ。ゆくゆくはユーナ王妃だものね。一緒に住むなんて夢みたいだわ、早く手続きを済ませちゃいましょう?」
無邪気に手を取るとユーナは「公爵令嬢」「王妃」という響きに気を良くしたのか、先程の怯えがすっかり消えた満面の笑みで頷いた。
……ユーナをうちで引き取ることになったけれど、結果オーライかもしれない。
それから数日後、ユーナ・ラッセルはユーナ・ウォルターとなった。
「な、何を!」
王妃様と陛下が血の色を変える。反対にアキレウスとユーナは顔がぱあっと明るくなり手を取って見つめ合っている。
バカップルか。
「マリエル嬢ならわかるでしょう、この娘が王家に嫁ぐことができないのは」
「ええ、このままでは無理です」
ユーナの身分はただの男爵令嬢。小さな領地を持っているだけで、裕福とは程遠い家系であるから王家との釣り合いは取れないだろう。
身分が低くても、ユーナが王家と並べるほどの教養溢れる淑女であれば可能性はあったが、まあ無理だ。
ただ、抜け道がある。
「ユーナ嬢をウォルター家の養子にすればよいのです」
「はぁ!?!?」
誰よりも先に、お父様が叫ぶ。言ってなかったからね、ごめん。お父様は声を荒らげたことに気づいて慌てて咳払いをし、
「ま、マリエル?どういうことかな」
平静を装ってるみたいですが……目、泳ぎまくってますよ、お父様。
いいからとりあえず話を合わせてくれと念を送り、そのあとは見て見ぬふりをした。説教なら後で聞くから。
「そうすればユーナ嬢は晴れて公爵令嬢です。王家に嫁ぐには充分な身分と言えるでしょう」
「マリエル……!」
ユーナが『やっぱり私の味方だったのね』と言いたげな目線を送ってくる。眩しいよ、あんたの視線。
私はあっさりと無視を決め込む。
「教養についても安心してください。とりあえず立ち振る舞いの表面だけはウォルター家の家庭教師をつけます。あとの指導は王妃教育で何とかしてくださいませ」
「なるほど……それならば、儂としてはアキレウスが恋愛結婚するのを応援したい。しかしそれではウォルター公爵家の負担が大きいのではないか?公爵はどう思うのかね」
「あ…………いえ、それが最善策かと思いますので……はは……」
ごめんってお父様、そんなに睨まないで。
「でもマリエル嬢、そのままではカノンの名誉までは挽回できないわよね?」
「ええ、おば様。ですから表向きはカーチェスト公爵家がユーナを養子にとることにしましょう」
「なるほど……」
おじ様が顎に手を当てて唸った。
「ユーナ嬢がアキレウス第2王子と結ばれるように働くという事実は、カノンがユーナ嬢を全く憎んでいないことを意味する」
私は大きく頷いて、にっこりと微笑んでみせた。
「それならば婚約が白紙になったと陛下が発表なさっても、カノンがユーナ嬢とアキレウス第2王子のために身を引いたと思われるでしょう」
そして民衆は、男爵令嬢と王子という身分を越えた愛の物語として喜ぶかもしれない。
王家にもカノンにもダメージはなく、むしろ良い印象を与えうる。この話に乗らない人はいなかった。
たった一人を除いて。
「そんな、おかしいです!カノンさんが私を虐めたのは本当なのに、それじゃ、まるでカノンさんが良い人みたいじゃないですか!」
「まあまあ。いいじゃないか、ユーナ。僕たちが結ばれることになったんだから」
「で、でも…!」
「ユーナ」
「マ、マリエル…」
ユーナは怯えたように私を見つめる。私が敵なのか味方なのかわからないのだろう。
「いえ、これからはユーナ・ウォルター公爵令嬢ね。あら、違うわ。ゆくゆくはユーナ王妃だものね。一緒に住むなんて夢みたいだわ、早く手続きを済ませちゃいましょう?」
無邪気に手を取るとユーナは「公爵令嬢」「王妃」という響きに気を良くしたのか、先程の怯えがすっかり消えた満面の笑みで頷いた。
……ユーナをうちで引き取ることになったけれど、結果オーライかもしれない。
それから数日後、ユーナ・ラッセルはユーナ・ウォルターとなった。
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