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 気に食わない。
 俺が首席合格で挨拶するはずだったのに。いや、しなければいけないはずだった。
 入学式の日俺は入学試験の順位表が貼り付けられた掲示板の俺の上にある名前とそいつの点数を睨んでいた。

 「ユーマ・アバーテ」

 首席合格した奴の名前はユーマ・アバーテ。点数はなんと498点。俺は470点だったからかなり差が開いている。
 それも気に食わない。

 「試験2位だったか。流石にあの点数を超えての1位は無理だな。相手が優秀すぎた」

 断トツの1位を取って父に褒められるはずだったのに。父は1位を取れなかった俺には見向きもしなかった。昔から父に褒められた記憶はない。出来て当然だと思われている。俺のことを褒める周りの奴は俺の背後、父や爵位のことしか考えていない下心のある奴ばかりだ。

 「大変優秀です」

 入学式の次の日の授業であいつは気難しく滅多に生徒を褒めないし笑顔も見せないと評判の教師から笑顔で褒められていた。
 しかも俺があてられ分からなかった問題をさらっと答えている。教師に褒められた後のあの得意そうな笑顔、腹が立つ。
 俺が握りしめていたペンがミシリと音をたてた。

 「まだ授業1日目なのにもう質問に来たのか」

 俺が放課後職員室に行くと奴は先に来ていた。先を越されたことにイライラする。
 俺は職員室には入らず引き返して陰であいつが出てくるのを待つ。
 奴が出てきたからもう一度職員室に向かう。
 中ではさっきあいつが質問していた教師と俺たちの担任が話をしていた。

 「アバーテ君大変優秀ですね。でもあんなに優秀な子をなぜ副級長にしたんですか?級長にして当然だと思うんですが」
 「うちのクラスにはビアシーニ君もいるでしょ。やっぱり学園長のお子さんだから」
 「あぁ、なるほど」

 中から聞こえてきた会話に俺は中に入ることをやめた。

 「くそっ」

 教師まであんな考えの奴ばかりなのか。俺の親の機嫌を取る事ばかり考えている。
 次のテストではあいつを抜かして1位を取ってやる。あいつら全員覚えてろ。俺が父の後を継いでこの学園の学園長になった時には首にしてやる。
 俺はイライラしながらその場から離れた。

 「それもあるんですがアバーテ君は誰かを引っ張っていくような感じではないんですよね。リーダーシップはビアシーニ君の方があるような気がします」
 「なるほど、先生の感は鋭いですからね」

 その場を離れた俺にはその後の教師の会話は聞こえてこなかった。
 寮に戻った俺は寝る間も惜しんで勉強した。夕食も部屋で軽く摘まめるものを食べる。それも全てあいつに勝つため。
 それなのに、

 「他の人の点数は気にならなかったんですか?」
 「うん、全く」

 あいつは俺のことなど眼中にないような発言をしていた。
 授業2日目の昼休みあいつはミコト・バルバロと一緒に教室でお弁当を食べていた。俺も自分の席で教科書を広げながら昼食を取っていた。
 俺はこんなにあいつの点数を気にしているのに、あいつは。
 本当にイライラする。
 イライラしすぎるそんな俺の気配を感じ取ったのか午後からの授業では1度も教師にあてられることがなかった。
 1週間後にあるテストではあいつを超える。

 「この問題分からないな、辞典は......ないな。仕方ない図書館に行くか。あそこはうるさいから行きたくないが仕方ない」

 明日がテストだから最後の追い込みとして寮に戻って勉強をしていた。分からない所を調べようと辞典を探したが教室に忘れてきたのか寮の部屋になかった。
 図書館に行くことにしたがあそこは沢山の生徒がいて落ち着かない。あんな所で勉強する奴の気が知れない。

 「ちっ、余裕だな」

 図書館で目当ての辞典を見つけたが持ち出し禁止だったため自習室で解こうと思い行くとアバーテがそこで寝ていた。
 奴の前にはノートや教科書が広げてあったからどんな風に勉強しているのか気になり近寄ってみる。
 寝ている奴に近付くと奴の周りにある教科書やノートを見る。
 色々な書き込みがしてありまだ始まって1週間だというのに使いこまれていた。
 俺は誰より努力をしていると思ったけどこいつはそれ以上だった。
 俺は自分が恥ずかしくなった。
 その場から離れようとした時夕陽が入り込んできていつもは冷たそうに見える奴の銀髪に反射してその髪は温かみのあるオレンジに染まっていた。

 「綺麗だ」

 俺は思わず呟いて奴の髪に触れた。

 「うぅ~ん」

 奴が唸り向こう側を向いていた顔をこちらに向ける。何かいい夢でも見ているのか笑っている。
 その顔を見た俺は何故か胸が苦しくなってきた。
 それ以上そこにいられなくて俺は慌てて片付けて寮に帰る。
 寝ようとしても奴の笑顔が頭から離れず中々眠ることができなかった。
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